InBody S10
-何ができて誰に必要なのか-

InBody S10は、InBody770と同じ高度なBIA技術を搭載し、携帯と移動に特化した体成分分析装置です。測定姿勢は、仰臥位・座位・立位の3つの姿勢から選択することができます。「手足が腫れている」、「拘縮がある」などの理由で通常の電極では測定ができない方でも、付着式電極を使用することで測定を行うことができます。コンパクトなサイズで院内を自由に移動することも可能で、外部や電源が取れない場所でも外付けバッテリーパックとサーマルプリンターで検査を行うことができます。様々な測定環境で、より幅広い患者層を測定できるので、医療施設や研究施設などの専門家にとって重要な検査機器の1つとなっています。

InBody S10の主な機能と特徴は、次の通りです。


部位別ECW/TBW分析


InBodyのいくつかの機種は、測定されたインピーダンス値から細胞外水分比(ECW/TBW; Extracellular Water/Total Body Water)を算出し、体水分量の内訳の細胞内水分量と細胞外水分量を提供しています。InBody S10はこの分析を更に進めて、細胞外水分比・細胞内水分量・細胞外水分量を部位毎で提供できます。

定期的に体内の水分状態を確認する必要がある方や透析患者など、体内の過剰水分を除去する必要がある患者は、体の水分情報を部位毎で細かくモニタリングできるS10を使用しています。医療処置前の患者では、どれくらいの細胞外水分量を減らす必要があるのか参考にすることができます。利尿剤の使用やうっ血除去などの医療処置を行った際は、体の各水分量が適量となっているかをみることで治療効果を確認できます。水分貯留が発生している部位や過剰水分量は患者ごとで異なり、同じ治療を行っても全ての患者で同じ効果が得られるという訳ではありません。S10は、患者個々で異なる水分情報を細かく反映し、治療の調整に役立ちます。

部位別ECW/TBWのグラフでは、水分均衡の増減を視覚的に観察することができます。両脚・体幹・両腕の5つの部位全体で浮腫みが発生することもありますが、リンパ浮腫のように特定の部位に水分貯留が発生することもあります。全身の浮腫みに対して治療を行っても、治療が効かない部位(部位別ECW/TBWの反応がない部位)が見つかれば、潜在的な問題が疑われます。特定の部位だけECW/TBWが高い場合、血管狭窄などの問題から過剰に水分が貯留している可能性もあります。この検査結果を基に、水分均衡が崩れている原因を更に調査することができます。
※ECW/TBWの標準範囲は0.360~0.400で、一般的にECW/TBWは0.400を超えると高いと評価します。

ここまで、ECW/TBWと水分貯留の関係についてお話しましたが、必ず「ECW/TBWが高い=水分貯留・浮腫みがある」ということではありません。ECW/TBWが高くなる原因は主に次の2パターンがあります。

パターン①:細胞外水分量(ECW)が増えてECW/TBWが高くなる
浮腫を伴う疾患(⼼不全・腎不全・肝不全・糖尿・リンパ浮腫など)の症例や術後の輸液などで体液が急激に増えた症例では、細胞外水分量(ECW)と細胞内⽔分量(ICW)の両⽅が異常に増加する中でECW の増加率がより高いことから、ECW/TBW が高値になります。

パターン②:細胞内水分量(ICW)が減ってECW/TBWが高くなる
人体は加齢・栄養悪化に伴って筋肉を構成する体細胞量が減少する形で細胞内水分量(ICW)が減っていきます。
TBW はICW+ECW であるので、ICW の減少はECW/TBW における分⺟を小さくして、ECW/TBWを高くします。例えば、70歳以上の高齢者は疾患がなくても、ECW/TBW が0.400を超えることが一般的ですが、これは体液過剰による現象ではありません。また、筋ジストロフィーの症例でもECW/TBWが⾼値となりますが、筋⾁量が極めて少なくICWが減少している結果です。栄養不良が原因でECW/TBWが高くなっている場合は、栄養改善を通して水分均衡を管理する必要があります。


2種類の電極:ホルダー式電極と付着式電極


➤ ホルダー式電極
ホルダー式電極は痛みのない安定した着用感で繰り返し使用できます。手電極は親指と中指に、足電極は足首に装着します。ホルダー式電極は、InBodyが開発した独自の技術でインピーダンス測定が毎回同じ場所から開始されるようになっており、高い再現性が保証されています。従来の付着式の電極は、装着場所が毎回同じ場所に位置するように注意して取り扱う必要があります。専門知識がある人でも、電極を塗布する人が変われば電極位置の違いから測定結果の変動が生じる可能性があります。S10は、ホルダー式電極を使うことで、測定開始地点の変動からくる測定結果のばらつきを大幅に抑えることができるようになりました。


➤ 付着式電極
付着式電極の利点は、麻痺・切断・手足の腫れなどの理由でホルダー式電極が使えない人でも測定が可能という点です。しかし、欠損症例の体成分結果解釈においては誤解がないよう注意が必要です。切断の部位は、少ないはずの筋肉量が多く測定されてしまいます。しかし、これはその部位に実際の筋肉量が多いわけではなく、電気抵抗を利用して体成分を算出するBIA 装置の原理によって多く算出されたものです。電流の流れる伝導体が短くなると、電流を邪魔する抵抗は小さくなります。また、水分量が多く電流が流れやすい状態でも抵抗値は小さくなります。そのため、InBody も伝導体が短くなって抵抗が下がったことを、水分が多くて抵抗が少ないと捉えてしまいます。該当部位で筋肉量が多く計測されたことで全身の筋肉量は過大評価され、体脂肪量は体重から除脂肪量を差し引いて求めるために過少評価される結果となります。このような理由から、欠損患者の測定結果は変化のモニタリングを目的として活用する必要があります。


InBody S10による栄養評価

InBody S10は体内の水分情報を詳しく測定することで、全身の栄養状態を評価することができます。人体の栄養状態に影響する要因はたくさんありますが、体成分測定を行うことは栄養状態の理解を助けてくれます。立位での測定が困難なため、通常の体成分測定が難しい方は、S10を使って栄養状態を評価するために必要な情報を入手することができます。寝たきりや車椅子を使用している患者こそ、栄養状態モニタリングの必要性が高いです。

➤ 位相角
S10が提供する項目で、栄養評価に使える有用な指標の1つは位相角です。位相角は細胞膜の健康度・細胞の構造的な安定さを反映する値で、S10は全身及び各部位の位相角を提供します。

過度な食事制限や栄養不良は、フリーラジカルを過剰に生成させ、細胞を損傷します。位相角の減少はこのダメージを反映しています。細胞膜が弱まる(=位相角が低い)と、老化が早まったり免疫機能が低下したりして長期的な健康に影響を及ぼします。位相角の値から栄養状態を把握して、ビタミンやミネラルなど適切な栄養分を摂取するなど、時間をかけて改善していくことが重要です。緑黄色野菜やポリフェノールが豊富に含まれている食品には、フリーラジカルによる酸化作用を打ち消す抗酸化物質が含まれています。位相角は栄養状態の改善で増加するので、食事療法の効果を評価する有用な指標となります。

今回のトピックでご紹介したInBody S10の主要な機能と特徴は、ほんの一部です。詳しい仕様や項目等については、S10の製品ページをご覧ください。