リハビリ分野におけるInBody活用
リハビリが必要な患者は長期の入院などにより身体機能が著しく低下しており、病床生活による活動量の低下が原因で筋肉量も減少していることが多いです。従って、リハビリでは身体機能の改善と共に、筋肉量の維持・増加を目的とします。特に骨折後のリハビリに関しては、患側と健側が不均衡になりやすく、転倒の再発リスクを高めるため、バランスよく回復できるように管理することが重要です。また、心臓リハビリの場合、浮腫を管理することで予後も改善が期待できます。
ここで、InBodyが提供する細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡の評価に主に使用される項目であり、筋肉量・体脂肪量などの項目は栄養状態やリハビリの効果の評価に活用されます。また、SMIを用いて高齢患者の合併症や予後と密接な関係があるサルコペニアの評価も可能です。
全身の筋肉量が減少し、入院期間が長くなると体脂肪量も減少する
患部または全身で筋肉量が減少する
細胞内水分量が減少し、浮腫がなくても細胞外水分比が高くなる
患部と下半身の細胞外水分比が高くなる傾向がある
体内に金属が埋め込まれている場合、測定結果の解釈に注意
関節疾患や骨折などで体内に埋め込まれている人工関節やプレートは、ペースメーカなど電子機器と違って測定の安全性に問題ありません。しかし、InBodyは微弱な電流を流して測定したインピーダンスから体水分量を算出しているため、水分に比べ通電性の高い金属が入っている方を測定すると、該当部位を中心にインピーダンスが低下し、体水分・筋肉量は多く、体脂肪量は少なく測定されます。また、その影響度は金属の材質・大きさ・挿入位置によって異なります。従って、このような症例に対しては、単回測定の結果で体成分の状態を評価するのではなく、モニタリングを目的に活用する必要があります。但し、電流が流れない指先・頭部に位置する金属や血管内に位置するステントなどは測定値に影響しません。
サルコペニアは身体機能及び骨格筋量の低下と定義されており、評価も握力・歩行速度などの身体機能と筋肉量を基準とします。アジアのサルコペニア診断において、AWGS(アジアサルコペニアワーキンググループ)のSMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフ値である男性<7.0kg/㎡、⼥性<5.7kg/㎡をサルコペニア診断の基準としています¹⁾。サルコペニアは様々な疾患や合併症のリスクを高める因子であり、生命予後の悪化と関連しています。また、サルコペニアと肥満が共存するサルコペニア肥満は、患者の運動機能回復と最も有意に相関したと報告されており²⁾、サルコペニア診断基準+体脂肪率(男性30%・女性35%)をカットオフ値として活用することが多いです。
筋肉量は栄養状態を表す代表的な指標であり、体の免疫力と密接な関係があります。侵襲性が高い生体肝移植患者において、低筋肉量は術後合併症・感染症のリスクを高めると報告されており³⁾、高齢者の筋肉量の減少が嚥下障害リスクを高めるという報告もあります⁴⁾。嚥下障害は食事による栄養摂取が難しくすることで栄養状態を悪化させ、更に筋肉量が減少する悪循環を招くため高齢患者において特に注意が必要ですが、筋肉量の管理はその予防に繋がります。
一方、リハビリを進めると筋力を含む身体機能の改善はすぐ現れますが、筋肉量の改善はすぐ現れない場合が多々あります。筋力と筋肉量はある程度相関がありますが、身体機能に該当する筋力と違って、重さに該当する筋肉量は十分な栄養摂取と運動を続けることで時間をかけて増加するため、結果がすぐ現れません。実際にInBodyで測定した骨格筋量と握力、歩行速度の相関は異なっていた報告⁵⁾もあり、筋力と筋肉量の傾向が一致しないケースもあることが示唆されています。従って、運動と食事管理を継続しながら定期的に測定を行い、筋肉量の維持・増加を目指すことが大事です。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、骨折などの怪我をすると患部で起こる炎症反応による浮腫や、回復の過程で血液が集中することによって主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400より高くなることが多々あります。一般的には怪我の回復が進むことにつれECW/TBWも徐々に落ち着きますが、治療のため入院して病床生活が長くなると、怪我が治ってもこの数値が低くならない場合もあります。ECW/TBWは浮腫によっても高くなりますが、加齢・低栄養による筋肉量減少が原因でICWが減る形で水分均衡が崩れても高くなります。この場合は栄養状態の改善と伴い水分均衡も改善します。
従って、骨折などによる入院患者の栄養状態や筋肉量を評価するためには、初期のECW/TBWは怪我の回復程度を確認する指標として活用し、リハビリを開始してからは栄養状態の指標として活用することができます。特に、ECW/TBWは体の状態を最も敏感に反映する指標ですが、近年はECW/TBWが身体機能(握力・歩行速度)と相関しているとの報告⁶⁾もあり、筋肉量が変化していない場合に、リハビリの効果を確認できる指標であることが示唆されています。また、怪我や低栄養患者において、筋肉量の評価はECW/TBWを考慮して下記図のように評価することができます。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
参考文献
1. Chen LK et al., Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2.
2. Yoshihiro Yoshimura et al., Sarcopenic Obesity Is Associated With Activities of Daily Living and Home Discharge in Post-Acute Rehabilitation. J Am Med Dir Assoc. 2020 Oct;21(10):1475-1480.
3. Kaido T et al., Impact of sarcopenia on survival in patients undergoing living donor liver transplantation. Am J Transplant. 2013 Jun;13(6):1549-56.
4. Fujishima I et al., Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2019 Feb;19(2):91-97.
5. Itoh S et al., Skeletal muscle mass assessed by computed tomography correlates to muscle strength and physical performance at a liver-related hospital experience. Hepatol Res. 2016 Apr;46(4):292-7.
6. Akemi Hioka et al., Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition 86(2021) 111175
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