医療活用事例: 高齢者
高齢者分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : サルコペニア / フレイル / QOL / 嚥下障害 / 隠れ肥満
人体は加齢によって様々な機能が低下します。例えば、筋肉を合成する能力は低下し、炎症性因子の増加によって分解される速度は速くなるため、筋肉量が徐々に減少して筋力などの身体機能も低下します。しかし、筋肉量の減少は糖尿病などの生活習慣病だけではなく、老年症候群とされる認知障害・嚥下障害、転倒、怪我や治療後の回復遅延などに繋がり、QOLを低下させるため早期管理が必要です。また、食事による栄養摂取が十分できなくなる場合も多く、栄養状態が低下しやすい傾向があるため適切な栄養評価と介入が重要となります。
ここで、InBodyが提供する全身・部位別筋肉量は高齢者の健康管理の指標及びサルコペニアの診断基準として活用でき、体脂肪率を用いてサルコペニア肥満の評価も可能です。また、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡や栄養状態を評価する指標として使用できます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
細胞内水分量が減少し、浮腫がなくても細胞外水分比が高くなる
筋肉量の減少が目立つ下半身は、細胞外水分比が高くなりやすい
SMIが低くなる
サルコペニアとは、加齢に伴う骨格筋量の減少と共に握力や歩行速度などの筋力低下が発生している状態を指し、様々な疾患・合併症のリスクを高め、予後を悪くすることが明らかになっています。サルコペニアの診断基準のうち、骨格筋量の減少は四肢骨格筋量の合計を身長(m)の2乗で除した値である四肢骨格筋指数(SMI)で確認でき、アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が定めているSMIのカットオフ値は男性<7.0kg/㎡、⼥性<5.7kg/㎡となっています¹⁾。また、サルコペニアは嚥下障害と密接な関係があり、サルコペニア→嚥下力の低下による嚥下障害、嚥下障害による栄養不良→サルコペニアの進行などの悪循環に陥りやすいため、適切な介入と管理が重要です²⁾。他にも、サルコペニアと様々な疾患・身体機能の低下などの関連性が続々と明かされています。
高齢者の筋肉量減少は様々な疾患のリスクを高めることが様々な論文で示されています。非糖尿病高齢者の下肢筋肉量はインスリン抵抗性と関連しており³⁾、下肢筋肉量の低下はインスリン抵抗性を高めるとされています。また、入院中の誤嚥性肺炎高齢者において、低筋肉量と長期死亡率が関連しているなど⁴⁾、筋肉量の低下を防ぐのが高齢者の誤嚥性肺炎回復に有効かもしれないことが示されています。
筋肉量は運動やリハビリの効果測定にも活用できます。加齢によって筋肉を合成するホルモンの分泌は減少し、炎症性サイトカインの増加や栄養摂取量の減少などにより、筋肉の分解速度は速くなります。このようなメカニズムから、高齢者においては運動によって本来減るはずの筋肉量が維持されることも改善として評価することができます。尚、要介護支援の高齢者を対象に週3回のトレーニングを行った結果、1年後に約5.5%の筋肉量増加が認められ⁵⁾、運動だけでなく栄養介入を加えると3ヶ月で約5.4%の筋肉量増加が認められるなど⁶⁾、高齢者でも運動療法と栄養介入を一緒に行うことで筋肉量増加の効果も期待できます。
以前はBMIのみで肥満の評価をすることが多かったのですが、BMIのみでは正しい肥満の評価ができません。BMIは体重と身長のみで計算される値であるため、BMI正常群の肥満やサルコペニア肥満を見逃してしまうため⁷⁾、BMIと体脂肪率を用いて評価することが望ましいです。近年はBMIや体重だけでは標準体型であっても実は体脂肪率がとても高い隠れ肥満体型もあり、若年女性や運動量が足りない成人を中心に隠れ肥満の割合も増加しており、この傾向は高齢者でも例外ではありません。肥満は非アルコール性脂肪肝(NAFLD)を進行させたり⁸⁾、心血管疾患のリスクを高めたりする⁹⁾などの報告があり、BMIと体脂肪率を確認することは正しい肥満の評価はもちろん、疾患の予防や予後にも大きく関わります。
筋肉量と体脂肪率を一緒に見ることで、サルコペニアより予後が悪化するサルコペニア肥満の評価も行われています。まだ統一された診断基準は明確になっていませんが、サルコペニア診断基準+体脂肪率(男性30%・女性35%)をカットオフ値として活用していることが多く、サルコペニア肥満と運動機能回復が有意に相関しているとの報告もあります¹⁰⁾。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、疾患によってうっ血や浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。筋肉は体水分を含んだ概念のため、うっ血や浮腫によって体内に余分な水分が貯留するとそれらは筋肉量として数値に表れるため、筋肉量が多く測定されます。一方、高齢者においては特に浮腫がなくても加齢による筋肉量の減少が原因で、主にICWが減る形で水分均衡が崩れ、ECW/TBWが高値になることもあります。
ECW/TBWは体の状態を最も敏感に反映する指標で、近年はECW/TBWが身体機能(握力・歩行速度)と相関しているとの報告¹¹⁾もあり、筋肉量が変化していない場合において運動の効果を確認できる指標であることが示唆されています。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
参考文献
1. Chen LK et al., Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2.
2. Maeda K, Takaki M, Akagi J. Decreased Skeletal Muscle Mass and Risk Factors of Sarcopenic Dysphagia: A Prospective Observational Cohort Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017 Sep 1;72(9):1290-1294.
3. Seko T et al., Lower limb muscle mass is associated with insulin resistance more than lower limb muscle strength in non-diabetic older adults. Geriatr Gerontol Int. 2019 Dec;19(12):1254-1259.
4. Maeda K, Akagi J. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. J Am Geriatr Soc. 2017 Jan;65(1):e18-e22.
5. Yamada M et al., Effect of resistance training on physical performance and fear of falling in elderly with different levels of physical well-being. Age Ageing. 2011 Sep;40(5):637-41.
6. Yamada M et al., Nutritional Supplementation during Resistance Training Improved Skeletal Muscle Mass in Community-Dwelling Frail Older Adults. J Frailty Aging. 2012;1(2):64-70.
7. Lin CL et al., Association of Body Composition with Type 2 Diabetes: A Retrospective Chart Review Study. Int J Environ Res Public Health. 2021 Apr 21;18(9):4421.
8. Miyake T et al., Relationship between body composition and the histology of non-alcoholic fatty liver disease: a cross-sectional study. BMC Gastroenterol. 2021 Apr 13;21(1):170.
9. Sandbakk SB et al., Combined Association of Cardiorespiratory Fitness and Body Fatness With Cardiometabolic Risk Factors in Older Norwegian Adults: The Generation 100 Study. Mayo Clin Proc Innov Qual Outcomes. 2017 May 12;1(1):67-77.
10. Yoshihiro Yoshimura et al., Sarcopenic Obesity Is Associated With Activities of Daily Living and Home Discharge in Post-Acute Rehabilitation. J Am Med Dir Assoc. 2020 Oct;21(10):1475-1480.
11. Akemi Hioka et al., Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition 86(2021) 111175
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