魚沼基幹病院
-魚沼地域そして全国における医療発展の拠点を目指して-

✓InBodyを活用する目的
● 心臓リハビリテーション対象者への多職種による包括的なアプローチに必要な体水分管理を行うため
● 臨床現場で患者の経時的変化を追い、治療計画を立てるため
● 測定データを用いた研究を行うため

✓得られた効果
● 見た目では分からない変化を数値で患者に説明できるようになった
● 身体機能と体成分の関係についての研究を進めることができた
● 臨床現場で得られたデータと研究で得られたデータが互いに良い影響を及ぼしている

機種モデル:InBody S10

新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院は、魚沼地域医療再編に伴い2015年6月に開院し、高度医療を提供する病院として地域唯一の三次救急にも対応しています。ER型地域救急救命センターの設置や、がん治療及び周産期高度医療が行えるという点が大きな特徴であり、地域医療における重要な拠点の一つです。また病院機能以外にも、新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターを併設して医学生の教育にも注力しており、地域全体の医療を底上げする重要な役割も担っています。

InBodyが導入されているリハビリテーション技術科には、理学療法士16名、作業療法士9名、言語聴覚士4名、事務補助1名が在籍しており、質の高い包括的なリハビリテーションを積極的に行っています。リハビリテーション技術科では、救急救命センターから早期にリハビリテーションを実施することで、早期離床・早期自立・早期退院を目指しています。また、当科は魚沼医療圏で唯一心臓リハビリテーション(心リハ)を実施しています。病院の設立前は車で約1時間かかる長岡方面まで転院搬送をしていた魚沼地域の患者が、転院せずに心リハを受けられるようになり、医療環境の整備にも貢献しています。

▲ 左から阿部 貴文さん、佐藤 陽一さん

リハビリテーション技術科の佐藤 陽一さんは、新潟医療福祉大学にて理学療法士の資格を取得し、卒業後は那須赤十字病院で4年間理学療法士として活躍されました。その後、東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻博士前期課程に進学し、腎臓リハビリテーションの研究に励みます。そして博士後期課程在籍中、魚沼基幹病院に就職しました。

佐藤さん:
「私が入職した当時は、魚沼地域では心臓や腎臓といった内部障害に対するリハビリが盛んではなく、透析患者に対してリハビリテーションを行うという認知度自体も低い現状がありました。大学院での研究で得た知識や経験が、微力ながら地元である魚沼の地域医療に役立てられればと思い、魚沼基幹病院で働いています。」

同リハビリテーション技術科の阿部 貴文さんは新潟医療福祉大学を卒業後、同大学の大学院博士前期課程へと進学し、在学中は高度急性期病院である神戸市立医療センター中央市民病院で理学療法士として勤めました。

阿部さん:
「大学院在学中に勤めていた神戸市立医療センター中央市民病院は、国内では珍しい理学療法士のレジデント制度を導入していました。レジデント制度とは、2年間で基礎のみならず、医師とも対等に話せるような知識や技術を身に付けることを目的とした研修制度です。高度急性期病院ならではの貴重な経験を地域医療に還元したいと思い、地元の魚沼基幹病院での勤務を始めました。魚沼基幹病院にも将来的にはこの制度を導入したいと考えています。」


臨床現場でのInBody S10活用

▲ 院内で活用されているInBody S10

魚沼基幹病院では、InBody S10を2台導入し、主にリハビリテーション技術科と栄養管理科で活用しています。リハビリテーション技術科では、心リハ対象者に多職種による包括的なアプローチをするにあたり体水分管理が必要になるということで、InBodyが必要となり導入に至りました。また、研究でも治療効果や状態の変化を数値化できるという理由から、InBodyを活用しています。現在は1ヶ月に50件近く測定を行っています。

栄養管理科では、栄養相談などにおいて主に基礎代謝量を確認する目的で活用しています。特に、栄養・運動療法の両面からのアプローチが必要な肥満患者に対しては、InBodyのデータも共有しながらリハビリテーション技術科と協力して治療を行っています。120kg程の肥満患者へリハビリ介入した症例では、InBody測定結果の他に食事摂取量や活動量、原疾患の重症度と併せて基礎代謝量を考慮し、減量計画を立てました。

阿部さん:
「臨床では基本的に、栄養摂取量や筋肉量が急激に落ちる患者様に対しての評価として経時的に測定を行っています。InBodyの項目の中でも、最も活用しているのはSMIです。患者様に説明する際にSMIがサルコペニアの基準値と比較してどうか、そこからどうしていけば良いかというような、簡単なフィードバックをしています。経時的に見ていく中で、体重は変化していないけれど体脂肪量が増えて筋肉量が減っている方が多くみられます。そのような方々には 『一見体重は変わっていなくてもその内訳である体成分はこんなに変化しているんですよ』 と分かりやすく伝えることを意識しています。」

佐藤さん:
「InBodyは自身の体成分を見える化でき、数値そのものはもちろん、%で表示されている項目などは患者様にも分かりやすく伝えやすいです。結果をお伝えする際には、一時点だけの結果や数値で一喜一憂しないようにお声掛けもしています。もし筋肉量が少ないという結果が出たとしても、初めは少ないからこそ、その後のリハビリテーションの頑張り甲斐があります。筋肉量が少しでも増えるように目標を立てて、リハビリを続けながらInBodyも定期的に測定し、経時的な変化を追うようにアドバイスしています。」

InBodyの測定結果は単独で見るのではなく、その他の検査結果も組み合わせることで、患者の状態を包括的に評価しています。

阿部さん:
「InBodyの測定結果と併せて、握力・上腕周囲長・下腿周囲長を測定し、記入できるような評価用紙を簡単に作成しています。その他では、カルテの中に記載されている摂取エネルギー量などの栄養に関連する項目も必ず評価に入れています。」

▲ 独自に作成した評価用紙

佐藤さん:
「急性期だと、意識障害や高次脳機能障害を伴っていて意思疎通がなかなか取れない場合が多くあります。上腕周囲長や下腿周囲長は意識レベルに関係なく測定が可能であり、InBodyと一緒に行う必須検査としています。意思疎通ができる方の場合は、握力を測定します。握力はサルコペニアの評価にも使用しています。」

症例によってInBodyの活用方法も様々です。例えば心臓バイパス術後で心不全を合併している患者の体水分管理では、このようにInBodyを活用します。

佐藤さん:
「浮腫みのある患者様だと、利尿薬や飲水の量は病態に直結する部分でもあるため、徹底した体水分管理が非常に重要となります。ある患者様は毎週心リハの外来で来院されるため、そのタイミングで循環器内科の医師と協力しながらInBodyを測定しています。この時に、体水分量やECW/TBWの値を見ながら現在の利尿薬及び飲水の量が適切かどうか、または利尿薬の増減を行うタイミングなどについて、循環器内科の医師たちとディスカッションしています。患者様自身も、結果用紙を見ながら自己管理ができるため、患者様・ご家族・理学療法士・循環器内科の全員でInBodyの結果を共有しながら、体水分管理を行っています。」

また、透析治療を行っている患者に対してもInBody測定を行っており、水分情報に関する項目だけでなく位相角を活用しています。

佐藤さん:
「透析治療を行う患者様は腎臓の機能が低下しているため浮腫みが生じています。浮腫みがあると、筋肉に余分な水分が含まれているため、InBodyの筋肉量も余分な水分が含まれた状態で算出されます。したがって、筋肉量は本来のドライ(浮腫みがない状態)な数値よりも多く算出されてしまい、四肢骨格筋量の合計÷身長(m)²で求められるSMIの値も影響を受けることになります。このような理由から、透析でのリハビリテーションにおいては、SMIの値をそのまま評価に用いることが難しいという問題があったので、浮腫みによって筋肉量が水増しされている症例でもそのまま栄養評価に使える位相角を活用しています。」


臨床・研究の両面で活用できる位相角

位相角とは、細胞膜で発生する電気抵抗(リアクタンス)を角度で表した数値であり、細胞の栄養状態や健康状態を表す指標として活用されている項目です。標準値は定められていませんが、0°は細胞の破壊・死を意味するため、その値が低値を示すほど疾患の重症度は高く、予後も悪化することが分かっています。

佐藤さん:
「急性期病院では平均在院日数が2週間以内と短く、変化に時間を要する筋肉量をアウトカムにするとリハビリの効果が見えづらいという問題があります。また、医原性サルコペニアのように、入院時と比較して退院時の方がむしろ筋肉量が減少しているということもあります。その場合、筋肉量を増加させようと頑張っている患者様や私達スタッフのモチベーションにも繋がりにくい要素だと考えています。その点、位相角は短期間でもリハビリの効果が表れやすく、アウトカムにしやすい項目です。」

阿部さん:
「S10の測定姿勢は基本的に仰臥位です。救急から入院して来られる患者様だと、体重測定が困難な場合があります。その場合はベッドスケールでの体重測定を行い、意識状態によっては体重をご家族に確認してからInBody測定を行います。位相角は入力した体重に影響されない項目なので入力体重に誤差があったとしても信頼でき、特に体重が測れないことがある急性期で活用しやすいです。」

このような背景から、お二人が執筆した論文では位相角に注目したテーマが多いことが特徴です。

佐藤さん:
「位相角自体はもともと大学院で使用していたので知っていましたが、脳卒中領域での認知度が低い印象でした。しかし、位相角は短期間の変化も反映するため急性期でも活用可能ですし、意識障害がある方に対しても客観的な評価として活用できるのではないかと考えていました。」

参考文献 1)より引用

阿部さん:
「以前勤めていた病院でもInBodyは全症例に対して活用していました。しかし位相角の認知度は低く、私も魚沼基幹病院に来て佐藤さんから教えていただき初めて知り、研究項目として着目しました。実際に骨格筋量と比較して、位相角の方が身体機能予後の予測性能が良いという研究結果も得られました¹⁾(上図参照)。この研究が位相角の重要性を再認識するきっかけとなり、さらに調べるようになりました。」

参考文献 2)より引用

位相角は明確なカットオフ値が定められておらず、様々な研究で検討がなされています。佐藤さんもその研究に取り掛かっている一人であり、急性脳卒中患者における栄養状態及びサルコペニア診断指標としての位相角のカットオフ値を検討した論文を執筆しています²⁾(上図参照)。
また、2022年の研究では急性脳卒中患者の予後を予測する因子として、SMIと位相角を併せた評価が有用であることを示しています。筋肉の量を示すSMIと、筋肉の質を反映する位相角がどちらも低値であればサルコペニア同様の状態なのではないかという仮説について検討したところ、SMIと位相角がどちらも低値である患者では、身体機能の予後が良くない傾向が強いことがわかりました。このように、SMIと位相角を併せて評価することで身体機能の予測性能が高くなることを示しています³⁾。

佐藤さん:
「もちろん、位相角以外の項目で研究を行うこともあります。立つ・座るなどの日常動作に深く関係しているのは体幹の筋肉であるため、体幹筋肉量とADLには関連があるのではないかという仮説のもと検討を行いました。結果は、やはりこの2つには相関が見られ、体幹筋肉量が多いと機能的自立度評価法(FIM)のスコアが高いという傾向が見られました。今後は体幹筋肉量も、急性脳卒中患者の機能予後を評価するにあたり非常に有効な指標になると考えています⁴⁾。脳卒中患者において、嚥下機能をアウトカムとし、部位別筋肉量との関係を検討した研究では、四肢筋肉量のみ相関が見られました。骨格筋量は、部位ごとにアウトカムに与える影響が異なることも考慮すべきだと考えています⁵⁾。」


臨床と研究の相互作用

臨床及び研究の両面でInBodyを活用する中で、互いに影響を及ぼしている点も多々あります。

阿部さん:
「意識障害のある患者様が多くみられる脳卒中では、予後予測として臨床で活用できる評価項目が少ない事が問題であると考えていました。そこで意識障害や治療に伴う安静があっても測定可能なInBodyに興味を持ちました。今は、InBodyの結果項目をより深く活用するという視点で、最近は栄養にも興味を持っています。臨床で生じた疑問に対して、研究を行っていくという意味で、これらはまったくの別物という訳ではなく相互に作用していると思います。」

佐藤さん:
「研究で位相角を活用する中で、2°台の患者様は予後が良くない印象を受けました。そこで、入院時に測定した位相角が2°台だった患者様に対しては、退院後の在宅治療への移行が円滑に進むように、介護保険の申請準備などを早期に行ってもらうことを視野に入れて介入しています。他にも、住居や家族の環境を確認しておくことで、退院してから介護が必要になった場合でも柔軟に対応できるようにしています。もちろん、位相角以外の因子も総合的に評価した上で判断しています。一方で、位相角の値が非常に高い患者様でも予後が良くなかったり、反対に位相角が低値でも予後が非常に良かったりという、稀なケースに出会うことがあります。このようなケースに対して、 ”そこに影響している要素は何か?” という疑問は常にあります。もしその特徴を研究で見出せれば、位相角という項目の価値が更に高まり、より広く応用できるのではないかと考えています。」


今後の展望

侵襲性の高い検査や高額な検査は臨床において非常にハードルが高く、検査数の減少にも関わってきます。そこで、簡便に短時間で測定でき、侵襲性を伴わないInBodyを用いることで患者はもちろんのこと医療従事者の負担も減り、検査を気軽に行えるようになります。

阿部さん:
「InBodyを使用したサルコペニアやフレイルの研究は最近すごく増えた印象ですが、まだまだInBodyで測定できる体成分や栄養という部分に着目していない人が多い気がしています。しかし、エビデンスが多く出てきていますので、そういったところに着目すれば臨床業務においても視野が広がって仕事も楽しくなるのではないかと思います。もっと医療従事者の中でInBodyの活用が周知されていってほしいと思います。また、InBodyがすぐに使えない状況であったとしても、いつでも誰でも検査ができるように、道具不要な簡易的な検査方法がないかも考えています。その疑問から私たちはInBodyで測定した低筋肉量を予測する下腿周囲長のカットオフを算出し、身体機能との関連を検討した論文を報告しています⁶⁾。」

佐藤さん:
「最近は、病院以外のトレーニングジムなどでもInBodyがたくさん導入されていますよね。そういった、地域の身近なところにもInBodyが導入されているおかげで、筋肉量の測定が以前よりも気軽に行えるようになってきていると感じます。医療従事者だけではなく、一般の皆様にも自分自身の体調や体成分に着目していただくことで、地域全体での健康意識や筋肉量の底上げにも繋がり、地域レベルでサルコペニアも減少していくのではないかと思います。入院時にサルコペニアであるかどうかで急性期病院退院後の予後も変わってきますし、“1回きりの測定数値だけではなく定期的な測定によって経時的な数値の変化を追う” という評価の仕方も、もっと広まっていけば良いなと思います。」

魚沼基幹病院は「地域全体でひとつの病院」を合言葉に、包括的な高度医療の提供、医療人の教育など、様々な角度から今後も魚沼地域の医療発展と、地域住民の健康を支えていきます。

参考文献
1. Takafumi Abe et al. Impact of Phase Angle on Physical Function in Patients with Acute Stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021 Sep;30(9)
2. Yoichi Sato et al. Phase Angle as an Indicator of Baseline Nutritional Status and Sarcopenia in Acute Stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2022 Jan;31(1)
3. Takafumi Abe et al. A Combined Assessment Method of Phase Angle and Skeletal Muscle Index to Better Predict Functional Recovery after Acute Stroke. J Nutr Health Aging. 2022;26(5): 445-451
4. Yoichi Sato et al. Relationship between trunk muscle mass and activities of daily living at discharge in acute stroke patients. Nutrition. 2022 Nov-Dec;103-104
5. Yoichi Sato et al. Impact of trunk and appendicular skeletal muscle mass on improving swallowing function in acute stroke patients. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2022 Sep;31(9)
6. Takafumi Abe et al. Validity of sarcopenia diagnosis defined by calf circumference for muscle mass to predict functional outcome in patients with acute stroke. Archives of Gerontology and Geriatrics. 2023 Feb;105