アルコールが体成分に与える影響

お酒の話になると、様々な意見や説が飛び交います。赤ワインは動脈硬化や認知症予防に効果があると言って、毎日グラス1杯の赤ワインを飲む人がいれば、ビール腹(お腹周りが丸く内臓脂肪が蓄積した状態)を解消しようと禁酒している人もいます。果たして、お酒を楽しみながら健康的な体型を維持することは不可能なのでしょうか? 今回はアルコールと体成分の関係について、少し掘り下げたお話をします。


体内ではアルコールがどのように代謝されるのか

食事中にお酒を飲むとアルコールの代謝が優先され、炭水化物・脂質・タンパク質の代謝は抑えられます。その理由はアルコールの代謝副産物は体に有害な酢酸という化合物であり、体はこの毒素を優先的に除去しようと働くからです。アルコールの殆どは肝臓で酢酸に変換された後、血液内に流れ込んで循環しますが、ごく少量が脂肪酸に変換されます。カリフォルニア大学の研究ではアルコールが体脂肪へと変換されるのは摂取量の僅か3%であると報告しました¹⁾。24gのアルコールを摂取しても、肝臓では0.8gの脂肪しか作られなかったということですが、24gものアルコールを摂取するにはビールで650ml、赤ワインで260ml、梅酒で240mlほど飲酒しなければなりません
※文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より計算

炭水化物も、アルコール同様に脂質・タンパク質の代謝より先に分解が始まります。しかし、体がグリコーゲンとして蓄えられる量を超えた炭水化物は簡単に体脂肪へと変換されてしまいます。このようなアルコールと炭水化物の代謝特徴を踏まえて考えてみると、アルコールは人体にとっては毒素とみなされるものの、体脂肪を増やす直接の原因にはなりません。ビール腹はビールの飲み過ぎの結果というよりも、ビールと一緒に摂る揚げ物・スナック・焼肉・焼き鳥などのカロリーと脂質が多いおつまみが原因のようです。


お酒の種類による栄養の違い

前項では、アルコールそのもので太ることはないとお話ししました。では、ビール・ワイン・日本酒・梅酒などお酒の種類によって栄養学的な違いはあるのでしょうか? 炭水化物は体脂肪へと変換されやすいことから、炭水化物(糖質)の含有量を比較してみることも重要です。また健康にとってプラスとなる栄養素の含有量を比較してみるのも面白いです。こちらはお酒100g当たりに含まれるエネルギーや成分の含有量です。

お酒の種類エネルギー(kcal)炭水化物(g)カリウム(mg)アルコール(g)
日本酒(普通酒)1074.9512.3
ビール(淡色)393.1343.7
赤ワイン681.51109.3
白ワイン752.0609.1
ウイスキー2340133.4
梅酒15520.73910.2

文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より抜粋

これらのお酒をジュースや炭酸飲料で割って飲む場合は、割る飲料によってカロリーや炭水化物含有量が変わることに注意してください。ウイスキーは炭水化物が0gですが、炭酸飲料や果汁で割ったり、フルーツやハチミツなどをトッピングしてカクテルで飲むとその分、糖質を摂ることになります。


赤ワインはなぜ健康に良いと言われるのか

「赤ワインが本当に健康に良いのか? 」と疑念を抱く方もいるかと思います。その答えの一つで ”フレンチ・パラドックス” という面白い説があります。フレンチ・パラドックスとは、フランス人の食生活と病気の関連性が医学上の定説と異なっていることを指した言葉です。食生活と病気には関連性があり、動物性食品などの飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事を摂取し過ぎると動脈硬化を起こしやすくなるので心筋梗塞などの心臓病にかかりやすい、というのが医学上の定説です。しかし、フランス人は相対的に喫煙率が高く、お肉やバターなどの動物性食品をたくさん消費していますが、心臓病による死亡率が非常に低いという逆説的な結果となっています。

フォアグラ・牛肉の赤ワイン煮込み・チーズ料理・サラミやソーセージなどの加工肉…、フランス人は動物性食品(飽和脂肪酸)をたくさん摂取しているにもかかわらず、どうして心臓病による死亡率が非常に低いのでしょうか? この謎は、フランス人が嗜好している赤ワインに答えがあると様々な研究で明らかになってきています。次は赤ワインの効能と言われるものです。

➤血圧低下効果
高血圧の原因の一つとされているのが塩分の摂り過ぎです。塩分の摂取を控えれば良いのですが、外食やファストフードが続くとうっかり塩分を摂り過ぎてしまうこともあります。そこで注目してほしい栄養素が「カリウム」です。カリウムには利尿作用があり、尿と一緒に塩分を排出してくれる効果があります。体内の塩分が減ると、血圧を下げることができます。そして、赤ワインにはカリウムが豊富に含まれているので、血圧低下効果が期待できるのです。先程のお酒の種類と含まれる栄養素を比較した表からもわかる通り、白ワインにはビールの約2倍、赤ワインには3倍以上のカリウムが含まれています。更に、炭水化物も少ないので血圧を下げつつ、糖質の摂取も抑えられる魅力的なお酒と言えるでしょう。

➤動脈硬化予防
動脈硬化の原因として挙げられるのが悪玉コレステロールの酸化です。赤ワインに含まれる「ポリフェノール」には抗酸化作用があるため、悪玉コレステロールの酸化を防ぐことができます。厳密にはブドウの果皮に含まれるタンニン・フラボノイド・レスベラトロールと呼ばれるポリフェノール化合物が、動脈硬化のメカニズムを抑制する働きをします。そのため、醸造の際に果皮が含まれない白ワインには動脈硬化の予防効果は期待できません。また、ポリフェノールの含有量は若いワインよりも熟成させたものの方が多いことが分かっているので、熟成の進んだワインがお勧めです。

➤認知症予防
赤ワインに含まれる「レスベラトロール」という成分は、記憶に関係する神経細胞を増やして認知症やアルツハイマー病などのリスクを下げるなど、様々な健康効果があると報告されています²⁾。フランスのボルドー大学が行った高齢者の追跡調査では、赤ワインを毎日グラス3-4杯ずつ飲み続けた人は飲まない(0-1杯/週)人に対してアルツハイマー病の発症率が4分の1だったと報告しました³⁾。適量(3-4杯/日)の摂取は、アルツハイマー病の罹患率だけでなく、認知症や死亡率も最も低いことが分かります。しかし、1日にたくさん(5杯以上/日)飲んでしまうと、飲まない(0-1杯/週)人よりも死亡率が上がってしまう可能性があるので、適度な飲酒が大事なポイントです。

「レスベラトロールの健康長寿効果について ~最近の話題~」より引用


アルコールと体成分

アルコールと体成分の関係について様々な研究が出ていますが、まだまだ不明な点も多くあまり進んでいる分野ではありません。アルコール摂取が筋肉の成長や体成分に影響を及ぼさないと言及している研究もあれば、逆の結果が出ているものもあります。

ある研究では、1日に30-40gのアルコールを6週間摂取してもテストステロンは男性で僅かに減少、女性では変化しなかったことを報告しました⁴⁾。テストステロンは男性ホルモンの一種ですが、減少すると筋肉量や筋力が低下し、身体パフォーマンスにも影響すると言われています。また、運動後のアルコール摂取に対するホルモン反応を調べた研究でも、かなりの量のアルコールを摂取してもテストステロンへの影響は見られなかったと報告しています⁵⁾。

しかし、上記の研究とは逆の結果となったものもあります。激しいエキセントリック運動(ダイナモメータを使って大腿四頭筋の収縮を300回)をした後に適度なアルコールを摂取すると、筋肉の損傷とアルコールの相互作用によって運動後の筋力低下が増幅すると報告しました⁶⁾。また、運動後にアルコールを多量摂取するとアルコールのテストステロン分泌抑制効果が延長されたという報告もあります⁷⁾。慢性的に多量飲酒している人(=アルコール依存症)は筋タンパク質の合成能力が低下すると言われていますが、適度な飲酒が同じようにマイナスの影響があるのかは、はっきり分かっていません。


アルコールを健康的な食事の一部として取り入れる

禁酒をしなければ理想的な体を維持することは難しいのでしょうか? 適正体重や良い体成分を保つためには、全体的なカロリー摂取量をコントロールすることが重要です。アルコール自体は肥満等の直接的要因にはならないので、適量であればお酒も楽しみながら理想的な体を維持していくことは可能です。お酒を飲むときは、以下のことに気を付けてください。

・お酒を飲む日は、普段(お酒を飲まない日)の摂取カロリー量を超えないようにしましょう。
・運動の効果を打ち消さないためにも糖分の多い梅酒やカクテルは控えて、糖分の少ない淡色ビールやワインを選びましょう。
・アルコールには満腹感を与える効果がないので、満腹感を促す赤身のタンパク質を十分に摂取するようにしましょう。タンパク質は飲酒中の食べ過ぎを防ぐことにも繋がります。
・脱水しないように水分補給をしっかり行いましょう。アルコールは利尿作用もあり、アルコール分解の過程でも水分が使われるので、脱水が起こりやすくなっています。のどの渇き・頭痛・立ちくらみ等は脱水で表れる症状です。乾杯前にお水をコップ1杯程飲んで、チェイサーも活用しましょう。
・いつも通りの睡眠時間を確保しましょう。睡眠時間が足りなくて、朝の運動をサボってしまわないように。

適量であれば定期的な飲酒も問題ありませんが、過剰なアルコールは決して健康的ではありません。たった一度の暴飲暴食でも、努力して手に入れた理想の体を手放すことに繋がってしまうかもしれません。お酒の席では健康的な飲み方も心掛けて、楽しい時間を過ごしてください。

参考文献
1. Scott Q Siler, Richard A Neese and Marc K Hellerstein, De novo lipogenesis, lipid kinetics, and whole-body lipid balances in humans after acute alcohol consumption. The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 70, Issue 5, November 1999, Pages 928–936
2. 佐藤充克.レスベラトロールの健康長寿効果について.醸協107(10)740-749(2012)
3. J M Orgogozo et al., Wine consumption and dementia in the elderly: a prospective community study in the Bordeaux area. Rev Neurol (Paris) 1997 Apr;153(3):185-92
4. Aafje Sierksma et al., Effect of moderate alcohol consumption on plasma dehydroepiandrosterone sulfate, testosterone, and estradiol levels in middle-aged men and postmenopausal women: a diet-controlled intervention study. Alcohol Clin Exp Res, 2004 May;28(5):780-5
5. L P Koziris et al., Effect of acute postexercise ethanol intoxication on the neuroendocrine response to resistance exercise. J Appl Physiol (1985), 2000 Jan;88(1):165-72
6. Matthew J Barnes, Toby Mündel and Stephen R Stannard, Post-exercise alcohol ingestion exacerbates eccentric-exercise induced losses in performance. Eur J Appl Physiol, 2010 Mar;108(5):1009-14
7. E Heikkonen et al., The combined effect of alcohol and physical exercise on serum testosterone, luteinizing hormone, and cortisol in males. Alcohol Clin Exp Res, 1996 Jun;20(4):711-6