チョコレートの健康効果
チョコレートは美味しくて手軽なご褒美ですが、同時に「ニキビができる」「太る」など、マイナスなイメージを持つ方も少なくありません。一方で、最近の研究では適量のチョコレートが健康に様々なメリットをもたらすことが明らかになっています。チョコレートの原料であるカカオ豆は紀元前3000年ごろから中南米で栽培されていました。カカオは神々への供物とされ、儀式に使われる神聖な存在で、カカオ豆は通貨として使用されていたこともあり、当時の人々によって「神の食べ物」として珍重されてきました 。16世紀末にヨーロッパへ伝わると、17~18世紀には薬用飲料として広く活用されるようになり、疲労回復や消化促進、強壮効果が期待されていました。
このように先人たちが経験から見出していたカカオの効能の多くが、現代の研究によって科学的にも裏付けられてきています。チョコレートには健康に良い効果をもたらす成分が含まれており、適量を摂取することで体に様々なメリットをもたらすことが分かってきました。
今回は、チョコレートがもたらす健康効果や摂取のポイントについて詳しくご紹介いたします。
そもそも、チョコレートはどのようにしてできているのでしょうか。チョコレートの原材料はカカオ豆です。カカオ豆を破砕して外皮を取り除いた後、焙焼してさらに細かく磨り潰すと、ペースト状のカカオマスが作られます。その後、カカオマスを圧搾することでココアバターとココアパウダーに分離されます。このカカオマスとココアバターを原料として、砂糖や牛乳などを加えて固めるとチョコレートが完成します。
チョコレートの成分
チョコレートの原材料であるカカオ豆には様々な成分が含まれています。その成分の種類とそれぞれの効果をご紹介します。
カカオポリフェノール
カカオポリフェノールはカカオ豆に含まれるポリフェノールの一種で、強い抗酸化力を持っています。主に次のような健康効果があります。
➤血圧を下げる
血管を広げて血流を改善する作用があり、血圧を下げることが知られています。さらに、動脈硬化を予防する作用もあります。
➤抗酸化作用
老化や肌のダメージを防ぐ抗酸化作用があり、肌の健康をサポートします。
➤アレルギーの改善
過剰な活性酵素が引き起こすアレルギー反応を抑えます。
➤認知機能の改善
脳の活性化を促し、認知機能の向上に寄与することが期待されています。
➤ストレス軽減
ストレスホルモンの分泌を抑え、リラックス効果をもたらす作用があります。仕事や勉強の合間にチョコレートを食べることで、気分が落ち着きやすくなります。
また、食品100gあたりのポリフェノール含有量¹⁾を比較すると、チョコレートの中でも特にカカオの濃度が高いダークチョコレートは、他の食品と比べてもポリフェノールが豊富で健康効果が高いことが分かります。カカオポリフェノールは体内に長くとどめておくことができないため、毎日少しずつ分けて食べ続けることが大切です。
マグネシウム
無性にチョコレートが食べたくなることはありませんか? 実は、マグネシウムが不足しているとチョコレートを欲すると言われています。マグネシウムには栄養素を運ぶ働きがあり、不足すると疲労感が増すため、脳がエネルギー源として糖質を求めます。その結果、手軽に糖質を摂取できるチョコレートを食べたくなるのです。主に次のような健康効果があります。
➤ストレス軽減
体内で神経伝達を調整し、過度な緊張を和らげる役割を果たします。心地よいリラックス感を得るために、必要不可欠な成分です。
➤筋肉の緊張をほぐす
筋肉の機能にも影響を与え、筋肉の緊張を緩める効果があります。運動後や疲れた時にチョコレートを食べることで筋肉の疲れをやわらげる効果が期待できます。
カカオリグニン
カカオには不溶性食物繊維の一種であるカカオリグニンが含まれています。カカオ豆の殻やカカオの繊維質部分に含まれるリグニンの一種です。主に次のような健康効果があります。
➤便通の改善
腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラのバランスを整えます。これにより便通が改善され、腸内環境の正常化が期待できます。
➤免疫力の向上
腸内環境の改善は免疫力の向上にも繋がり、体全体の健康維持に役立ちます。
テオブロミン
テオブロミンは、自然界では主にカカオのみに含まれ、チョコレートの苦み成分です。カフェインと同様に人間の中枢神経に作用し、覚醒を促す働きがあります。人にとっては有益な成分ですが、犬や猫などの動物が摂取すると中毒を引き起こす可能性があるため、チョコレートを動物に与えてはいけないと言われる理由の一つです。主に次のような健康効果があります。
➤ストレス軽減・リラックス効果
テオブロミンには、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌をサポートする働きがあり、リラックスし気分が穏やかになります。ストレスやイライラを感じた時には、チョコレートを食べてリラックスしてみましょう。
➤疲労回復
軽い覚醒作用を持つため、疲労感を軽減し集中力やパフォーマンスをサポートします。長時間作業が続いた後や集中したい時にチョコレートを食べると、リフレッシュして気持ちを切り替えられます。
チョコレートの種類
チョコレートには様々な種類がありますが、カカオ含有量が多い種類ほど健康への効果は大きくなります。チョコレート売り場に並んでいるような、代表的なチョコレートの種類をご紹介します。
ダークチョコレート(ビターチョコレート)
カカオマス(40~80%以上)+ココアバター+砂糖
カカオの風味が最も強く感じられる甘さ控えめなチョコレート。カカオ含有量が多いほど、苦味とコクが際立ち、酸味や渋みも感じられることがある。カカオポリフェノールが豊富で、健康効果が期待されるチョコレートである。
ミルクチョコレート
カカオマス(20~40%)+ココアバター+砂糖+乳製品
乳製品が加わることで、まろやかでクリーミーな口当たりが特徴。ダークチョコレートよりも苦味が抑えられ、程よい甘さとコクがあり、なめらかな口溶け。
ホワイトチョコレート
ココアバター+砂糖+乳製品
カカオマスを含まないため、カカオ特有の苦味がなく、濃厚なミルクの風味とまったりとした甘さが特徴。なめらかな口どけで、バニラのような香りが感じられることが多い。
ダークチョコレートの中でもカカオ含有量が多い高カカオチョコレート(カカオ70%以上)を選ぶことで、より効率的に健康効果を得ることができます。ただ、カカオマス含有量が多くなるほど苦味が強くなるため、好みや気分に合わせて、自分に合ったチョコレートを選択しましょう。
チョコレートを食べるタイミング
これまでご紹介したチョコレートの健康効果を最大限に活かすためには、食べるタイミングが重要です。
効果的なタイミングを2つご紹介いたします。
朝食や昼食の前
カカオポリフェノールの効果は摂取後3~4時間持続するため、朝食や昼食前に少量を食べることで日中のエネルギーが持続し、集中力が高まります。
空腹時や小腹が空いたとき
カカオポリフェノールには食欲抑制作用もあるため、空腹時や少し口さみしくなった時にチョコレートを少し食べることで、過剰な食事摂取を防ぐことができます。食前に食べる場合は食事の30分前を目安に摂取しましょう。
チョコレートの適量
ここまでチョコレートの健康効果についてご紹介してきましたが、チョコレートが体に良いからといってたくさん食べすぎるのは良くありません。というのも、チョコレートにはカカオ以外にも砂糖や乳脂肪が使われており、脂質や糖質もたくさん含まれています。ついつい食べ過ぎてしまうと、気づかぬうちにエネルギー過剰になってしまいます。では、チョコレートの「適量」はどのくらいなのでしょうか。
厚生労働省や農林水産省の推奨する菓子・嗜好品の目安は「1日200kcal以下」とされています。また、日本チョコレート・ココア協会²⁾によるとチョコレートの健康効果に関する様々な調査や試験で、1日に高カカオチョコレートを少なくとも5~10g程度を食べ続けることで良い結果が得られたと報告されています。 ダークチョコレート10gは約2cm角の2~3個分程度 で、約60kcalです。これを適量の目安として考え、他の間食などと組み合わせて1日200kcalを超えないように摂取しましょう。
また、チョコレートにはテオブロミンに似た働きをするカフェインも含まれています。テオブロミン・カフェインは過剰摂取によって利尿作用や興奮作用が高まる可能性があるため、特に妊娠中・授乳中の方は気を付けて摂取してください。
終わりに
チョコレートは、美味しくて手軽なお菓子である以上の価値を持っています。その豊富な栄養成分と、それらがもたらす幅広い健康効果が私たちの健康的な生活をサポートしてくれる心強い味方です。ただし、メリットを最大限に活かすためにはカカオ含有量が多いチョコレートを選び、効果的なタイミングで適切な量を守ることが重要です。美味しいチョコレートを味わいながら、心の栄養と一緒に体にも栄養をプラスしてみませんか?
参考文献
1. Scalbert A and Williamson G. J Nutr 130:20735-85S,2000.
2. 日本チョコレート・ココア協会 HP