沖縄大学健康栄養学部 客員教授 吉田貞夫
-GLIM基準の導入と、これからの栄養管理のポイント-
✓InBodyを活用する目的
● 患者さんのSMIやECW/TBWなどの結果を医療スタッフ間で共有し、適切な栄養管理ができているかを確認するため
✓得られた効果
● GLIM基準における「骨格筋量減少」の評価にInBodyを活用できている
● GLIM基準において、ふくらはぎ周囲長では再現性や精度を安定的に保つことは難しかったが、InBodyのSMIはその点で信頼性が高い
機種モデル:InBody S10
国際的な低栄養の診断基準、GLIM基準とは?
2016年に低栄養を診断するための国際的な基準を決めるため、日本を含むアジア・ヨーロッパ・アメリカ・南米の栄養に関する学会の代表が集まりました¹⁾。そこで発表されたのが、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準です。日本では2024年度の診療報酬改訂以降、入院患者の栄養管理にGLIM基準を導入する動きが活発化していて、今後、介護などさまざまな領域にまで広がっていく可能性があります。
GLIM基準で低栄養診断に使用する評価項目は、大きく2系統に分けられます。一つは、①意図しない体重減少 ②低BMI ③骨格筋量減少の3要素からなる 『表現型基準』、もう一つは、①食事摂取量減少or消化吸収能低下 ②疾患による炎症の2要素からなる 『病因基準』 です。これらの計5項目の評価を行い、表現型で1項目以上、病因で1項目以上該当すれば低栄養と診断されます。
表現型 | 病因 |
■ 意図しない体重減少 □ 6ヶ月以内に5%以上の体重減少 □ 6ヶ月以上で10%以上の体重減少 ■ 低BMI(アジア人) □ 18.5kg/m²未満 (70歳未満) □ 20.0kg/m²未満 (70歳以上) ■ 骨格筋量減少 □ BIAによるSMIで男性7.0kg/m²未満、女性5.7kg/m²未満 | ■ 食事摂取量減少/消化吸収能低下 □ エネルギー必要量の50%以下が1週間以上 □ 食事摂取量の低下が2週間以上 □ 消化吸収障害、慢性的な消化器症状 ■ 疾患による炎症 □ 急性疾患/外傷などによる侵襲 □ 慢性疾患 |
▲ GLIM基準による低栄養診断で用いられる5項目
吉田先生:
「2024年以降日本では、入院患者の低栄養診断にGLIM基準が広く用いられるようになりました。回復期リハビリテーション病棟の入院料1を算定するためには、GLIM基準による低栄養診断を行うことが必須要件となりました。また、DPC(Diagnosis Procedure Combination、診断群分類別包括評価方式)による診療を行う病院などでも、GLIM基準による低栄養診断が行われています。GLIM基準による低栄養診断が普及することにより、栄養管理においても大きな変化が起こっています。」
GLIM基準による低栄養診断には前述のように、評価項目として骨格筋量減少が含まれます。これは、疾患や加齢、低栄養などによるサルコペニア(骨格筋減少症)が、疾患治療の予後を悪化させるためです。入院患者の場合、低栄養がサルコペニアをさらに悪化させることも危惧されます。低栄養を早期に診断し適切な栄養管理を行うことにより、サルコペニアの進行を防ぎ治療のアウトカムを改善させることができると考えられています。
―日本や海外の医療現場では、骨格筋量の測定は普及しているのでしょうか?
吉田先生:
「自分は以前、GLIMの体組成ワーキンググループに参加させていただきました²⁾。当時、日本ではGLIM基準による低栄養診断を導入したいが、骨格筋量の測定が困難という話をよく聞いていました。海外では、日本よりも骨格筋量測定がずっと普及しているのかと思っていましたが、各国の先生方のディスカッションを聞いていると、決してそうではないことがわかりました。むしろ日本の方が、BIA法による測定が普及しているくらいでした。さまざまな事情で骨格筋量測定が困難だという問題は、日本だけでなく世界中の至る所で大きな悩み事だったのです。」
GLIM体組成ワーキンググループは、GLIM表現型項目の骨格筋量評価のガイダンス²⁾を作成し、機器による骨格筋量測定が困難な場合は、ふくらはぎ周囲長などの身体計測結果を骨格筋量の指標として代用してもよいと記載しています。
▲ GLIM基準での骨格筋量の測定
参考文献2)より作成
ふくらはぎ周囲長はふくらはぎの最も太い部分の周囲長をメジャーで測定します。ふくらはぎは比較的皮下脂肪が少ないため、皮下脂肪厚の補正などを行わずに骨格筋量の評価に用いることが可能ですが、肥満症例では本来の値よりも大きな値となってしまいます。また浮腫のある症例も実際より大きな値となり、診断の信頼性が低下してしまいます。浮腫の程度は病態や治療状況などによって刻々と変化するため、ふくらはぎ周囲長の結果を一律に補正することも困難です。また、メジャーによる測定は、測定者が変わることによっても結果が変動しやすいことから、再現性や精度が低下することも危惧されます。
吉田先生:
「骨格筋量を評価する際に注意していただきたいのは、GLIM体組成ワーキンググループのガイダンスでは、InBodyなどの機器による骨格筋量測定が困難な場合、やむを得ずふくらはぎ周囲長を使ってもよいというニュアンスであることです。色々な施設の話を聞くと、『GLIM基準を導入するために、とにかくふくらはぎ周囲長を測定しないと』 と誤解を生んでしまっているように見える時があります。確かに、ふくらはぎ周囲長の測定はコストがかかりませんし、患者さんへの侵襲もないのでよい評価方法の一つだとは思いますが、まずはBIA・DXA、あるいはCT・MRIなどで骨格筋量の測定を適切に行うことを検討していただきたいです。骨格筋量を何かしらの測定機器で測ろうとする努力が、まずは前提だと思います。」
―今後、GLIM基準による低栄養診断が必要となる施設は増えていくのでしょうか?
吉田先生:
「今後、回復期リハビリテーション病棟の入院料1以外でも、GLIM基準による低栄養診断を行うことが望ましいとされる施設が増える可能性があります。仮に、全入院患者にGLIM基準による低栄養診断が必須という状況になると、これまで栄養アセスメントを行ってきたスタッフではマンパワーが不足し、栄養に詳しくないスタッフが体重やふくらはぎ周囲長の測定を行い、結果を記載するということも多くなるかもしれません。医療DXが普及してくると、浮腫や肥満などを考慮せず何cmとふくらはぎ周囲長の数値だけが記載され、その数字だけで低栄養の有無が判定されてしまうということもあるかもしれません。しかし、このような運用では正しい診断はできないと思います。」
サルコペニア診断における握力とSMI(骨格筋指数)論争
2014年にAWGSがアジア人におけるサルコペニア診断基準を提示した後、2015年あたりから、サルコペニアの診断でSMIを測定すべきか、握力で代用してもよいのかという議論がありました。吉田先生は 『骨格筋量の測定は必須で、SMIをサルコペニアの診断、治療の指標にしていくべき』 という考えを持っていますが、骨格筋量と握力が相関するというデータをもとに 『指標は握力のみで十分』 という意見を持つ先生もいます。
吉田先生:
「以前 『サルコペニアを合併する症例の治療の指標として、最適なパラメーターは何か? 』 といったテーマのシンポジウムに参加したことがありました。そのとき、他のシンポジストは総じて握力を支持し、SMIと答えた医師は私だけでした。いつまでもSMIにこだわっているのは時代遅れだとまで言われてしまい、とても悔しかったことを覚えています。一部の患者では確かに骨格筋量と握力が相関するかもしれません。しかし、たくさんの高齢者を測定してみた結果、SMIと握力は全く相関していませんでした。脚が細くてもパワフルな方、一見骨格筋量が維持されているようでも、筋力のみが低下している方もいます。高齢者では、糖尿病や脳血管障害などの疾患だけでなく生活スタイルなどさまざまな背景が影響しているわけです。」
AWGSのサルコペニア診断アルゴリズムでは、①筋力の指標としての握力 ②身体機能の指標としての歩行速度 ③BIAやDXAなどで測定できる骨格筋量(SMI)と、三つの評価指標が用いられています。
吉田先生:
「筋力・身体機能・骨格筋量という三つの指標は、それぞれ独立したパラメーターで、個別に評価しないとサルコペニア診断の精度を高めることはできないと思います。GLIM体組成ワーキンググループのガイダンスでは『(筋力の指標である)握力は、骨格筋量の評価に用いることはできない』 と、はっきり記載しています。」
InBodyを多職種でフル活用するメリット
▲ 吉田先生がはじめてInBody S10を測定した時の様子
InBodyによる測定結果はさまざまな研究発表に活用されていますが、臨床場面では主に栄養管理や運動プログラム作成などに活用されています。
吉田先生:
「InBodyによるSMIの測定を定期的に行うことで、骨格筋量が減少している症例、思うように増加していない症例を検出することができます。治療方針を多職種で検討する際にも、InBodyの測定結果をもとに、『エネルギー摂取が不足していないか』 『タンパク質摂取をもう少し増やした方がよいのではないか』 『運動量が不足していないか』 などの検討を行うことができます。」
―InBodyによる測定は、どの職種が行うのがよいのでしょうか?
吉田先生:
「施設によって管理栄養士の方が測定を行うところもあるでしょうし、臨床検査技師の方やセラピストの方が測定を行うところもあるでしょう。大切なことは、機器の測定はその機器について熟知した人が対応することです。そうすることによって、操作や設定を効率良く行うことができますし、測定エラーなども防ぐことができると思います。」
GLIM基準を導入した臨床現場におけるInBodyの活用モデル
吉田先生:
「2025年、GLIM基準に関する解説書を出版しました³⁾。その際に、さまざまな臨床現場でGLIM基準をどのように導入していくべきかを、いくつかのモデルケースを想定して解説しました。冒頭でも述べたように、GLIM基準では骨格筋量の評価が重要です。この書籍では、InBodyによるSMIの活用法についてもいくつかの提案をさせていただきました。」
➤脳血管疾患のケース
吉田先生:
「脳梗塞、脳出血といった脳血管疾患(脳卒中)は、日本人の死因の第4位です⁴⁾。一命を取り留めたとしても、四肢の麻痺・構音障害・嚥下障害などの重篤な後遺症につながることがあります。高齢者では、嚥下障害により肺炎を発症することもありますし、リハビリテーションのために長期入院が必要になることもあります。こうした症例でGLIM基準をどのように導入するかを考えてみました。」
脳血管疾患の症例は急性期を経過し、その後1〜数ヶ月にわたって体重(BMI)が減少することがあります。こうした症例では、SMIも減少している可能性があります。嚥下障害によって食事摂取量が減少していたり、抗菌薬の投与や経腸栄養のため、下痢などの消化器症状を発症することが原因と考えられます。また、麻痺により活動量が制限されるのも、SMIが低下する原因となるかもしれません。GLIM基準で低栄養と診断される症例も少なくありません。
吉田先生:
「脳血管疾患の症例は、元々2型糖尿病などの基礎疾患を持っている方も多く、既に骨格筋量が低下していることがあります。また、体重減少を認めることも多いので、ほとんどの症例でGLIM基準の表現型のうちいずれかの項目に該当します。しかし病因の項目では、経腸栄養を行っている場合、経口摂取は困難でも食事摂取量は維持されているため、食事摂取量減少に該当しないことがあります。また、脳血管疾患が炎症を発症する急性疾患かというと、軽症の場合は必ずしもそうではありません。したがって、症例によっては低栄養ではないと診断される場合もあるかもしれません。ここで、主病名以外の状況にも注目してみてください。2型糖尿病で血糖コントロールが不良であったり、誤嚥性肺炎を発症していたりする場合には、急性または慢性炎症があると考えられ、食事摂取量が充足していても低栄養と診断することができ、適切なケアを開始できます。」
栄養管理を行いながらリハビリテーションを行うことによって、数ヶ月後には体重(BMI)が増加する症例も少なくありません。症例によってはSMIも増加しますが、元々重度の骨格筋量低下を認めた症例では、カットオフ値を上回るまでの回復は難しいかもしれません。表現型の項目が該当しなくなるか否かは、SMIが改善するかどうかによる部分が大きいといえます。経過中、誤嚥性肺炎を発症したり、抗菌薬の使用によって下痢を発症する症例もあります。こうした問題が解決すれば病因の項目は該当しなくなるため、GLIM基準では低栄養には該当しなくなります(経過表)³⁾。
▲ 脳血管疾患モデル症例(男性)のGLIM基準による診断結果経過表
(重度低栄養の診断が続いているが、中身を見るとチェック項目が減っており改善傾向であることがわかる)
参考文献3)より引用・改変
吉田先生:
「『GLIM基準による診断は入院時だけでよいですか? 退院時や、それ以外のタイミングでも行った方がよいですか?』 という質問をよく受けます。入院時と退院時のほか、術後や、人工呼吸器装着時など、症例の状態が変化した際に、その都度評価を行うとよいと思います。NSTでサポートを行っている症例では、状態の変化がなくても、月1回程度、定期的に評価するとよいと思います。とくに脳血管疾患でリハビリテーションが必要な患者さんは、数ヶ月という長い期間入院されます。定期的に評価することで、栄養状態の改善などの変化がわかりやすいと思います。」
➤肝硬変で腹水と下肢浮腫が著明なケース
肝硬変で多量の腹水を認める症例では、体重は腹水と浮腫の影響で元々の値より増加しており、InBodyでも骨格筋量が実際の値よりも大きく測定されます。その結果、GLIM基準による低栄養診断を行うと表現型の項目は該当しないと判定され、病因で食事摂取量低下などの症状があったとしても栄養状態は問題ないという診断になってしまいます。
▲ 肝硬変で腹水と下肢浮腫が発生したモデル症例(女性)の体成分結果
※当社で再現したサンプル結果用紙で、実際の測定結果ではありません。
吉田先生:
「肝硬変の症例は低栄養であることが少なくありません。また、経過中に低栄養が更に進行することがあるため栄養管理が重要です。栄養スクリーニング(MNA®-SF)で低栄養のリスク(at risk)と判定されても、GLIM基準による診断では上記のように問題なしと診断されることがあります。別の低栄養診断ツール(PG-SGA)を用いて再評価を行うと、総合評価はステージCで高度の栄養障害となることもあります。GLIM基準による診断だけを行った場合、低栄養と診断されないために適切な栄養管理が開始されないのは大きな問題です。」
肝硬変・心不全・腎不全・リンパ浮腫・がんの終末期・大量輸液後など浮腫が生じている患者は、BIA機器で体成分を測定すると筋肉量(SMI)が多く算出される特徴があります。筋肉の主な構成成分は水分で、筋肉重量の約75%を占めるといわれています。浮腫の影響で体水分量が増加すれば、その分、見かけ上の筋肉量も増加します。ふくらはぎ周囲長も実際より高い値となるため骨格筋量の指標に使用することは困難です。このようなケースではPG-SGAによる評価を追加したり、骨格筋量測定を工夫するなど、何かしらの対策を用意しておくことが重要です。
浮腫症例の骨格筋量測定について
吉田先生:
「InBodyのSMIや筋肉量が予想した値よりも大きいと感じたときは、細胞外水分比(ECW/TBW)の値を確認します。ECW/TBWが0.400を超えている場合、浮腫による影響があると考えられます。多量の腹水を認める肝硬変の症例では、ECW/TBWは0.400を大きく超えていることが少なくありません。また、両下肢の筋肉量がとても高い値になった場合も、ECW/TBWが0.400を超えているようであれば、下肢浮腫を表していると考えられます。」
ECW/TBWとは体水分量(TBW)に対する細胞外水分量(ECW)の割合を意味する項目で、健康な人では0.380(38%)前後を示します。しかし、浮腫により蓄積した余分な水分は主にECWとして反映されることから、浮腫が生じている患者はECW/TBWが上昇します。浮腫症例では次のような方法で骨格筋量評価を正しく行えるようになります。
※細胞外水分比(ECW/TBW)に関しては、ぜひこちらのトピック「体水分均衡の特徴と重要性」もご覧ください。
方法①: 浮腫んでいない部位の筋肉量(主に腕)を使用する⁵⁾
疾患によって異なりますが、強い浮腫は体幹や下肢で見られることが一般的です。浮腫で全身のECW/TBWが高くても腕に浮腫が見られない場合は、腕のみの筋肉量の合計を身長の2乗で除した値(腕SMI)を用いて栄養評価を行うことができます。肝硬変患者と糖尿病患者を対象に、腕SMIをサルコペニア評価に用いることの妥当性について研究した三重大学の論文では、糖尿病患者の腕SMI平均値から-1SD未満に該当する値(男性<1.7kg/m²、女性<1.2kg/m²)をサルコペニアのカットオフ値と定義しており、この数値が一つの目安として活用できる可能性があります。
方法②: 吉田先生が開発した骨格筋量推定式(eSMI)⁶⁾
血液検査で得られた血清シスタチンCとクレアチニンの濃度から算出したeGFR比(シスタチンCによるeGFR/クレアチニンによるeGFR)を用いて骨格筋量(eSMI)を推定する方法です。男性はeSMI=2.3×eGFR比+4.7、女性はeSMI=3.6×eGFR比+2.6という式から骨格筋量が推定できます。肝硬変の症例などでは、eSMIの方が実際の状態に近いと思われる値を示しました。
吉田先生:
「InBodyのSMIは非常に便利ですが、中にはペースメーカーを留置した症例・四肢の重度浮腫・人工関節置換後の症例・高度肥満などの理由でInBodyでの測定ができない、または結果の解釈が困難な場合もあります。このような患者の骨格筋量を評価するためにも、BIAの代替法として使用できる骨格筋量推定式が必要ではないかと考えました。そうした目的で開発したのが、血清シスタチンCとクレアチニンの濃度から算出したeGFR比(シスタチンCによるeGFR/クレアチニンによるeGFR)を用いて骨格筋量を推定する方法(eSMI)です。eSMIの正確性・有用性・GLIM基準における低栄養の診断精度を分析しました⁶⁾。eSMIは浮腫・腹水・胸水といった体水分量の影響を受けにくい可能性がありますが、今後浮腫を合併したさまざまな症例を集積し、信頼性などについて検討していく必要があると考えています。」
方法③: ECW/TBWを活用して体成分を補正する⁷⁾
InBodyではECW/TBWやTBW・ECW・細胞内水分量(ICW)を測定できることから、ECW/TBW標準値0.380を用いて過剰ECW(Over Hydration: OH)を算出することができます。透析などの浮腫管理が必須である臨床現場では、このように体重から過剰ECWを差し引くことで求められた乾燥体重(ドライウェイト)がよく使われており、こちらを応用した筋肉量の補正方法です。
オランダの論文では、ICUに入院したCOVID-19患者の体成分結果をECW/TBWを基準に一律0.380で再計算し評価を行っています。この方法は浮腫起因の余分な水分がECWのみに加わっていることを前提としているので、重度浮腫のように余分な水分がECWだけでなくICWにも流入しているようなケースでは、完全に浮腫の影響を除外することができていないという限界がありますが、いくらかは浮腫による筋肉量の過大評価、体脂肪量(体脂肪率)の過小評価の是正を行うことができます。
終わりに
吉田先生:
「InBodyで測定したSMIやECW/TBWなどの結果を医療スタッフ間で活用することで、筋肉量の減少を防ぐことができているか、あるいは、リハビリテーションも含めて、治療が筋肉量の維持・増加につながっているのか、適切な栄養管理が行えているのかといった検討を行うことができます。将来的には、入院時と比較してこのくらい筋肉量が増えましたなどといった、患者さんへのフィードバックもできたらよいなと思います。
InBodyを測定することで、患者さんの治療に有益な情報が得られます。血液検査をして肝機能や腎機能の状態を診るのと同じような感覚で、InBodyのデータを活用してほしいと思います。InBodyは非侵襲で測定時間も短く、とても使いやすいので、健診や自治体レベルでの健康増進活動など、さまざまな分野で普及していくことを期待しています。」
本取材では、InBodyを使用したGLIM基準による低栄養診断に焦点を当ててご紹介しました。吉田先生の著書 『これですぐ始められる! GLIMで低栄養診断 徹底解説』³⁾ では、GLIM基準の全体像や、さまざまなモデル症例を用いた実際の運用法が、わかりやすく詳細に解説されています。是非そちらも併せてご覧ください。
参考文献
1. GLIM Core Leadership Committee, GLIM Working Group, GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition -A consensus report from the global clinical nutrition community. Clinical Nutrition 38 (2019) 1-9.
2. Charlene Compher et al., Guidance for assessment of the muscle mass phenotypic criterion for the Global Leadership Initiative on Malnutrition diagnosis of malnutrition. J Parenter Enteral Nutr, 2022;46:1232–1242.
3. 吉田貞夫著, これですぐ始められる! GLIMで低栄養診断 徹底解説. 三輪書店
4. 厚生労働省, 令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況
5. Motoh Iwasa et al., Evaluation and prognosis of sarcopenia using impedance analysis in patients with liver cirrhosis. Hepatology Research 2014, 44: E316–E317.
6. Sadao Yoshida et al., Assessment of sarcopenia and malnutrition using estimated GFR ratio (eGFRcys/eGFR) in hospitalised adult patients. Clinical Nutrition ESPEN 48 (2022) 456-463.
7. Hanneke Pierre Franciscus Xaverius Moonen et al., Association of bioelectric impedance analysis body composition and disease severity in COVID-19 hospital ward and ICU patients: The BIAC-19 study. Clin Nutr. 2020 Oct 21;40(4):2328–2336
吉田 貞夫先生の略歴
1991年、筑波大学医学専門学群(現 医学群医学類)卒。医師、医学博士。2023年より、沖縄大学健康栄養学部管理栄養学科客員教授を兼任。日本栄養治療学会、日本病態栄養学会、日本臨床栄養学会指導医。一般社団法人 日本栄養経営実践協会理事。著書に、『GLIMで低栄養診断 徹底解説』(三輪書店)、『患者に話したくなる たんぱく質のすべて』、『患者に話したくなる 食物繊維・腸内環境のすべて』、『高齢者を低栄養にしない20のアプローチ MNAで早期発見 事例でわかる基本と疾患別の対応ポイント』(メディカ出版)、『認知症の人の摂食障害 最短トラブルシューティング』、『MNAガイドブック』(医歯薬出版)、『45歳過ぎたらたんぱく質の朝ごはん』(宝島MOOK)など。2013年、まだBIA法があまり普及していない当時から、いち早くInBody S10を導入し、栄養管理に役立てている。