ただ寿命が長ければ幸せなのか?

人種や性別にかかわらず、私たちの寿命や健康寿命の延伸は永遠のテーマです。日本人の平均寿命は世界的にも高いことで知られていますが、健康寿命に関してはまだまだ改善の余地があります。高齢者の中には寝たきりの方も多く、そうならないためには体成分の情報を活用した健康管理法やアンチエイジングについて知ることが必要です。今回はこの健康寿命について、詳しくお話しします。


平均寿命と健康寿命のギャップ

平均寿命とは、ある集団(特定の国や地域)の人々が平均して生きる年数(寿命)を指します。平均寿命が伸びると、その集団に属する人々が長生きできることから、高齢者の割合も増加します。この指標は、生まれた時点での平均的な予測寿命でもあります。WHOのWorld health statistics 2023によると、日本の平均寿命は男性が81.5歳、女性が86.9歳と発表されています。

一方で健康寿命とは、人々が健康的な状態で日常生活が制限されることなく生活できる期間(寿命)を指します。健康寿命は日常生活の自立や社会参加を維持するために重要な指標とされています。WHOのWorld health statistics 2023によると、日本の健康寿命は男性が72.6歳、女性が75.5歳と発表されています。

世界全体の平均寿命は男性70.8歳、女性75.9歳、健康寿命は男性62.5歳、女性64.9歳で、各国と比べてみても、日本の平均寿命と健康寿命は共に世界第一位です。しかし、日本人の平均寿命と健康寿命は男性で約9年、女性で約11年ものギャップがあります。この差の数年分はすなわち ”不健康な期間(寿命)” を表しており、長きにわたって健康上で何かしらの問題を抱えながら日常生活を送っていることになります。充実した人生を送るには健康な状態で長生きすることが重要です。私たちは健康寿命を伸ばすためにどのような対策ができるのでしょうか?


なぜ日本の平均寿命と健康寿命は世界的に高いのか?

日本人の平均寿命と健康寿命が世界的に高い理由は、国の取り組みや文化の影響が大きいと言われています。日本は健康に気を使う文化が根付いており、食事や運動に対する意識が高い国です。和食はカロリーが控えめで健康的な食材が多く、一汁三菜で栄養素や食物繊維をバランスよく摂ることができます。学校での体育や部活動という仕組み、運動会という体を積極的に動かすイベントは、日本独自の文化の一つです。また、医療制度も充実しており、高齢者のケアにも力を入れています。これらの要素が組み合わさり、平均寿命や健康寿命の向上に繋がっています。

しかし、現在の日本では平均寿命が増加して高齢者の数も増えていることから、高齢者の医療・介護の需要が増大し、社会全体の負担も大きくなっていることが課題となっています。高齢者になると寝たきりになるリスクが高まり、日常生活の自立が困難になることから介護が必要になります。介護や入院などの期間が長くなると、身体的な健康だけでなく精神的な健康も損なわれてしまい、生活の質も低下します。年齢を重ねると身体機能や筋肉量は自然と低下していくため、特に高齢者は適切な栄養摂取と運動・ストレス管理・住環境の改善・転倒予防などの、寝たきりを予防する取り組みを積極的に行い、健康寿命を延ばすだけでなく生活の質を向上させることが重要です。


なぜ女性の方が長生きするのか?

男女間の寿命には性差があります。一般的に女性の方が男性よりも長生きする傾向がありますが、これは女性の方が生物学的に抵抗力が高いことや、進化的に有利な要素を持っているためと言われています。また、男性は生活習慣病やストレスにより健康を害しやすい傾向があるため、健康寿命が女性よりも短くなります。

ただし、女性は男性に比べて筋肉量の絶対量が少ないことなど様々な要因から、寝たきりになるリスクが高いと言われています。また、更年期障害や骨粗鬆症など特有の健康問題に直面する可能性もあるため、注意が必要です。性差を考慮して予防策や適切な健康管理法を選択することが重要かもしれません。年齢を重ねるごとに、身体機能や筋肉量、免疫力は衰えていきますが、健康な生活習慣を維持することでその影響を軽減することができるでしょう。


健康寿命を延ばすための国の取り組み

厚生労働省では2019年に 「健康寿命延伸プラン」 を策定し、2040年までに2016年時の健康寿命を男女ともに3年以上延伸し、75歳以上(男性75.14歳以上、女性77.79歳以上)とすることを目指しています。このプランでは 「Ⅰ 次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成」「Ⅱ 疾病予防・重症化予防」「Ⅲ 介護予防・フレイル対策、認知症予防」 の3分野を中心に取り組みが推進されています。

また、同じく厚生労働省が2024年に策定した 「健康日本21(第三次)」 では①健康寿命の延伸・健康格差の縮小、②個人の行動と健康状態の改善、③社会環境の質の向上、④ライフコースアプローチを踏まえた健康づくりの4つの目標を掲げています。個人の行動と健康状態の改善及び社会環境の質の向上に向けた取り組みを進めることで、健康寿命の延伸・健康格差の縮小の実現を目指しています。このように、日本では国をあげて健康寿命を延ばす取り組みを行っているのです。


健康管理法の具体例

国のプランや細かい目標を聞くと、少し難しく感じられた方もいるかもしれません。要は “私たち一人ひとりがいきいきと健康に長生きするように努力していきましょう” というメッセージで、いかに健康寿命を延ばすかは個人の健康意識や、日々の地道な努力が何より重要です。では、より具体的にどう行動すべきかを 簡単に紹介します。


➤適度な運動

適度な運動はアンチエイジングの基本です。適度な運動は筋力・筋肉量の維持に役立ち、骨密度を高めるなどの効果があります。何より、運動を習慣付けることが大事です。一日10分間の早歩きや、週末だけ40分のジョギングやスイミング、毎朝のラジオ体操など、負担に感じない程度に好きな運動を取り入れるように心掛けましょう。あまり運動が好きでない方は普段の移動時の歩きを意識して、いつもより速く歩く、ひと駅分だけ歩く、好きな音楽を聴きながらいつもより歩くなど工夫してみてはいかがでしょうか。


➤バランスの取れた食事

バランスの取れた食事は栄養バランスを整え、健康な体を維持するのに役立ちます。朝食を抜いている人は、牛乳1杯やおにぎり1個でも良いので何か口にするようにしましょう。また、現代人は野菜や果物が不足している人も多いです。食事にトマトなどの手軽に食べられる野菜、果物を1個プラスする、野菜ジュースやサプリメントを活用するなどして少しでも野菜や果物不足を解消するようにしましょう。

※朝食について、詳しくはトピック「朝ごはんはなぜ毎日食べるべきなのか?」をご覧ください。


➤ストレス管理と良質な睡眠の確保

ストレスは老化のリスクファクターの一つです。リラックス法や趣味に時間を使うなど、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。また、良質な睡眠を確保することも重要です。睡眠は体のリセットに欠かせないため、いつもより30分早く寝るなど十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。

※睡眠について、詳しくはトピック「睡眠の質を改善するには」をご覧ください。


➤InBodyを測定する

自身の体成分を分析することによって、健康のための具体的な目標を設定することができます。また、体成分で体型を定量化することで、普段は感じることが難しい僅かな変化も捉えることができます。変化を追っていくことで、運動や食事改善の進捗を確認し、成果を認識することができます。自分の体が健康的に変化していると実感できれば、モチベーションアップにも繋がります。体成分の変化を追うには2~4週間毎に測定を行うことを推奨します。

※InBody測定にご興味がある方は「InBodyが測定できる施設」をご覧ください。


終わりに

今回紹介した具体例は、今の生活を少し改善するだけでどれも実践できそうなものばかりです。これらは高齢者に限った課題ではなく、誰もが生活の質・人生の質を上げるために努力をすべきこととも言えます。是非今日から健康寿命の延伸と寝たきり予防として、できることから始めてみませんか?

参考文献
・WHO 「World Health Statistics 2023」 2023, 1-136
・厚生労働省 「健康日本21(第三次)の推進のための説明資料(その1)」 2023, 1-59