HIIT
-現代人向けの時短トレーニング法-

HIIT(ヒット、High-Intensity Interval Training)というトレーニング法をご存じでしょうか。
日本語では高強度インターバルトレーニングと表し、短時間の激しい運動を繰り返し行うことで大きくエネルギーを消費するトレーニング法です。 “定期的かつ適切な運動は、健康であり続けるために重要” と分かってはいても、実際に運動する時間を確保することは、仕事や家事、育児など日々時間に追われている現代人にとって至難の業となっています。そんな現代人にお勧めしたいトレーニング法がこのHIITです。毎日たった数分運動するだけで、何十分も運動を行ったことと同様の効果が得られます。今回はこのHIITについてお話ししていきます。


HIITとは?

「全力の運動を反復して行う」という運動は心肺機能を高めるために昔から行われていましたが、科学的な根拠はなく、これまでの経験則によるものでした。少しずつ研究は行われていましたが、1990年代に日本でスピードスケート選手のトレーニング法として科学的に取り入れられてから¹⁾、世界的に注目されるようになっており、関連研究の発表も増えています。HIITは20秒~数分間の激しい運動とそれより短い時間での休息や軽い運動を繰り返し行います。激しい運動・軽い運動の内容はダッシュ運動やジョギング、筋トレ、ジムで用いられるエアロバイクなど様々です。ここでは、いくつかHIITのトレーニング例をご紹介します。
➤ (全力自転車エルゴメーター20秒+休息10秒)×8セット
全力(最大酸素摂取量の170%にあたる強度)で自転車エルゴメーターを20秒間行い、休息は10秒と短めに取ります。これを1セットとして、最低8セットは繰り返し行います。セット間の休息は取らずに、連続で8セット行います¹⁾。
➤ (全力ダッシュ4分+ジョギング3分)×4セット
全力(最大心拍数の90-95%の強度)でのダッシュ4分と、最大心拍数70%程の強度でジョギングを3分間行います。これを1セットとして、セット間休憩は入れずに4セット繰り返します²⁾。
➤ (水泳自由形全力100m+休息20秒)×8セット×2回
全力で100mの自由型と休息20秒を1セットとします。セット間休憩は入れずに8セット繰り返します。8セット行った後、2分間の休息を取り、同じ8セットをもう1回行います³⁾。

他にも腕立て伏せやスクワット、腹筋など、自分の好きな運動にHIITを取り入れることができます。いずれの運動でも重要なのは、激しい運動を行う際は手を抜かずに自分が出せる力を出し切る点です。短時間で行える分、いかに自分を追い込むことができるかで得られる効果が大きく変わってきます。


HIITが身体に与える効果

➤ 筋肉
有酸素運動と無酸素運動を組み合わせているため、筋肥大だけでなく筋持久力も上がります。これまでは目標に応じてトレーニングの強度や回数を調整する必要がありましたが、HIITを行うことで有酸素運動と無酸素運動を一緒に行うことができます。運動時間を短くすることができるだけでなく、行う運動の種類も減らすことができます。
➤ 最大酸素摂取量(VO₂max、単位:ml/kg/min)
最大酸素摂取量とは、1分間に体重1kgあたり取り込むことができる酸素の量です。私たちは体内で糖や脂質を分解してエネルギーを作り出す際、酸素を利用しています。VO₂maxが増加することで体内に取り込むことができる酸素の量が増え、運動強度が高くなっても、長時間運動できるように耐性が付くことから全身持久力の指標としても用いられます。脂質の分解にも酸素が使われることから、脂肪燃焼効率も上がります。HIITを行うことで持久力が上がるだけでなく、脂肪が燃えやすい身体になっていきます。また、前項のように、運動強度を決める指標としても用いられます。
➤ 体脂肪
HIITは内臓脂肪だけでなく皮下脂肪も燃焼するとの報告があります⁴⁾。皮下脂肪は皮膚のすぐ下に付いている脂肪で、内臓脂肪は内臓や腸の周りに付いている脂肪を指します。女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪が多い傾向があります。体脂肪が落ちるとき、内臓脂肪→皮下脂肪の順で体脂肪は落ちていきます。最初に内臓脂肪が落ちていくことから、トレーニングを始めてもすぐに体型は大きく変わらず、本当に効果があるのか疑心暗鬼になってしまいますが、継続して行うことで皮下脂肪も落ち始め、体型に変化が起こってきます。InBody570・470・270では体脂肪量以外にも内臓脂肪レベルで内臓脂肪量を推定することができます。

内臓脂肪レベルは推定された内臓脂肪断面積の1桁を切り捨てて、レベルとして表した値です(ex.内臓脂肪レベル7=70~79cm²、15=150~159cm²)。肥満診断で、内臓脂肪断面積≧100cm²が肥満として診断されることから、内臓脂肪レベルは10以下を維持することを目指します。このように、体脂肪量と内臓脂肪レベルの減少からもトレーニング効果や進捗度合い、健康状態を確認することができます。定期的に測定することで自分の身体の変化を楽しみながら、HIITに取り組むと良いでしょう。体成分の変化を追うには2~4週間毎に測定を行うことを推奨します。


リハビリにおけるHIIT

現在、HIITはプロアスリートのトレーニングだけでなく、リハビリの現場でも用いられています。病気や事故から日常生活に戻れるようリハビリを行う際に、このHIITを応用したトレーニングが用いられます。リハビリとして行われるHIITはプロアスリートが行うような激しい運動ではなく、徒歩や階段の昇降といった日常の動作です。日常の簡単な動作でも、リハビリを行う患者にとっては十分強度の高い運動となります。ノルウェーで行われた研究⁵⁾では安定した冠動脈疾患患者において、トレッドミル上でHIIT(VO₂peakの80-90%強度の歩行)と従来の中程度の持続運動(VO₂peakの50-60%強度の歩行)をそれぞれ行うと、VO₂peakの改善率が、従来の中程度の持続運動よりもHIITの方が約10%有意に高くなったことを報告しました。
※VO₂peak…最高酸素摂取量のこと。最大酸素摂取量(VO₂max)は酸素摂取量の理想値を示すのに対し、最高酸素摂取量は酸素摂取量の実測値の最大値を示します。

日本国内では患者の安全性が指摘されており、実際にHIITをリハビリに導入している施設はとても少ないです。しかし、欧米では長期にわたるHIITのリハビリ効果や安全性に関する研究が進められており、今後、日本でも導入例が増えてくるかもしれません。ここで注意すべき点は、高強度というのは絶対強度ではなく相対強度であるという点です。リハビリを行う患者にとって、無理のない範囲で運動を行えるよう、適切な運動強度を設定することはとても重要です。
また、苦しいリハビリは何かしらの目標がないと継続するモチベーションを維持することができません。InBodyで測定した各部位の筋肉量や基礎代謝量といった数値の改善を、リハビリのモチベーションに繋げることができます。実際にInBodyを、リハビリの評価や動機づけとして使っている施設や企業はたくさんあります。
※リハビリの評価として活用している企業の一つを取材した「活用事例:取材 ツクイ~要介護高齢者向けの機能訓練の尺度~」もご覧ください。


終わりに

HIITは勿論のこと、トレーニングで効果を上げる最善の方法はトレーニングを習慣づけることです。せっかく始めたトレーニングも継続的に行わなければ効果を得ることはできません。習慣づけを断念する大きな要因の一つが、トレーニングに時間を多く取られてしまうということだと思います。短時間で行えるHIITは習慣づけのハードルを下げ、日々のちょっとした時間に行うだけで十分トレーニング効果が期待できます。

参考文献
1. Tabata I et al., Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Med Sci Sports Exerc. 1996 Oct;28(10):1327-30.
2. Helgerud J et al., Aerobic high-intensity intervals improve VO2max more than moderate training. Med Sci Sports Exerc. 2007 Apr;39(4):665-71.
3. Petros G. Botonis et al., Concurrent Strength and Interval Endurance Training in Elite Water Polo Players. J Strength Cond Res. 2016 Jan;30(1):126-33.
4. Boutcher SH., High-intensity intermittent exercise and fat loss. J Obes. 2011;2011:868305.
5. Rognmo Ø et al., High intensity aerobic interval exercise is superior to moderate intensity exercise for increasing aerobic capacity in patients with coronary artery disease. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2004 Jun;11(3):216-22.