ひまわり歯科 :後編
-地域にお住まいの皆様の健康を守るために-

✓InBodyを活用する目的
● 摂食外来・摂食嚥下外来での治療後、栄養状態が改善されているかを評価するため
● 栄養相談で患者の現状を評価する指標として活用するため
● InBodyで測定した基礎代謝量を食事摂取量設定の基準として用いるため

✓InBody S10導入の決め手
● 仰臥位・立位・座位の3姿勢で測定でき、患者の状況によって測定姿勢を変更できる点
● 持ち運びが可能で訪問診療でも活用しやすい点

✓得られた効果
● InBodyの測定結果と食事内容を結び付け、より詳細な評価ができるようになった
● 訪問診療でも院内と同様の評価が行えるようになった
● 僅かな体成分の増減も観察でき、患者とスタッフのモチベーション維持に繋がった

機種モデル:InBody S10

前編では、ひまわり歯科の概要と認定栄養ケア・ステーションについてお話を伺っています。


歯科治療から始まる健康

「食べれる外来」は摂食外来・摂食嚥下外来とも呼ばれ、食べることに問題を抱えた方の治療を目的としています。村田先生は主に小児を診ており、誤嚥が起こりやすい発達が遅れているお子さんの離乳食の形態やお口の機能などを診て、機能に応じた食形態の提案や機能訓練を行っています。村田先生は主に摂取する方法を教えますが、摂取すべき栄養素や量については吉本さんをはじめとした管理栄養士と連携して提案します。InBodyはその結果を確認する治療効果測定として活用しており、お子さんの成長度合いも考慮しながら筋肉量や体脂肪量の変動を確認します。InBodyの測定結果で数値が増えて、治療の成果や順調に成長していることが分かると親御さんもほっとされます。

村田先生:
「お肉など栄養面で食べた方が良いものが、歯や咀嚼動作に問題があって食べられない状況を改善するのも歯科治療の目的の一つです。治療後に食べられるようになった結果、栄養状態が改善しているかをInBody測定で体重ではなく筋肉量・体脂肪量の増減で確認します。数値に改善が見られたなら、それは歯科治療によって支障なく食事ができるようになった成果かなと思います。」

▲ 左:口腔機能検査 中:S10測定風景 右:フレイル予防教室での運動風景

院内で月に2-3回開かれているフレイル予防教室でもInBodyを活用しています。70-80代の方を中心に1回で5-6名が参加され、口腔機能・嚥下機能(RSST)・握力・血圧・オーラルフレイルなどの各種検査、食事やおうちでできる運動の紹介などを約1時間行います。InBodyが導入されてからは定期的に参加者の測定を行って、筋肉量なども確認しています。

吉本さん:
「この教室は歯科治療に来られた方を中心に案内しているので、治療のついでに参加される方が多いだけでなく、社会参加の場として遠方から参加される方もいらっしゃいます。InBodyで測定するようになって、前回の測定より筋肉量が増えていたりすると、皆さん大変喜ばれます。口腔機能検査の結果が前回と比較して維持もしくは低下傾向だったとしても、筋肉量の維持が確認できると皆さんのモチベーションに繋がって、次回以降も喜んで参加していただけます。」

2022年からは海田町の高齢者いきいき活動ポイント事業の一環であるスタンプラリーにも対象施設として参加しています。スタンプラリーに参加する海田町在住の高齢者は、社会参加の場に持参した手帳にスタンプを貯めることで奨励金が支給されます。この事業に参加したことで、新規の参加者が増えたり既存の参加者の参加頻度が上がったりするなどプラスに働いています。フレイル予防教室の取り組みは学会等でも発表しており、得られた成果の発信にも積極的です。


▲ 2022年日本臨床栄養代謝学会中国四国支部会での発表

インプラント術前の栄養相談でも、フレイル予防教室と同様な口腔機能検査に加えてInBodyで測定します。歯を失っている状態では食べづらいものが多く、栄養素が十分に摂取できていない可能性があるため、歯科衛生士・管理栄養士が携わります。失っている歯の場所によっては咀嚼に問題がない場合もありますが、術前にどれだけ噛めるかを評価する必要があります。

▲ インプラント術前の栄養相談

吉本さん:
「ただ、食べられていますと言っても、食形態を柔らかいものに置き換えているだけの場合も多いため、食事内容の聞き取りが大事です。InBodyを活用することで、現時点でどれだけ筋肉量・体脂肪量があるか、そしてこれらの数値と食べることがどれだけ密接に関わっているかを知ってもらうきっかけにもできれば良いと思っています。実際に術前の方を測定すると、筋肉量は標準に近くても体脂肪量が多い方が目立ちます。50代の方が多いということもありますが、仕事をしながら食生活の改善に取り組むのが難しく、隠れ肥満や肥満体型になりやすいためです。InBodyの測定結果を一緒に見ることで、筋力低下や体重を気にかけている方が多いことにも気付かされます。栄養相談を受けて “食事バランスについて気がかりではあったが、なかなか相談する機会もなくて…” という方も多く、これから食事を改善するにあたって、これは良い?悪い?と積極的に質問される方もいらっしゃいます。」


訪問診療の環境下で活きるS10

▲ 重心児の測定風景

ひまわり歯科では、通院が難しい患者に対して訪問診療を行っています。ここでもInBodyが活躍しており、訪問患者を定期的に測定しています。患者の自宅へは村田先生を含めた訪問診療の担当医師と、必要に応じて歯科衛生士もしくは管理栄養士の2名で訪問します。

村田先生:
「訪問診療でもInBodyを測定することで、摂食嚥下治療の効果を確認し、ちゃんと食べられるようになったか数値で確認します。訪問診療は外来と違って、使える機器や道具が限られており、必要な検査を行えないことがほとんどなので、限られた情報で診察を行わなければなりません。その中で、InBodyから体の中身のデータが得られることは診察の大きな助けになります。訪問する患者様は重心児や寝たきりの高齢者が多いため、InBodyで測定することが難しい方(麻痺・拘縮・体動など)になります。それでも、定期的に測定することで得られるデータから数値の変化を追っていくことに意味があるため、測定を続けています。」

S10は測定時に身長・体重の入力が必要です。身長は以前測定した数値もしくは直近に病院等で測定された数値を、体重はご自宅に体重計があればその場で計測し、なければ身長と同様に直近で測定した数値を入力します。小児のように手足が小さい方を測定する場合は装着式電極をスタッフが支える形で測定を行います。訪問時の荷物を減らすため、測定結果はサーマルプリンタを使ってその場で印刷します。


▲ サーマルプリンタで印刷される結果用紙

村田先生:
「全身筋肉量やSMIについて説明することが多いです。褒めて伸ばす指導を目指しているので、『維持できていますね』 『ここが良くなっていますね』 というような声かけを心掛けています。在宅患者様は活動量や栄養摂取量が少ない、痩せているといったイメージがあると思います。しかし、実際は全員がそうではなく、どうしても食事をちゃんと食べることが難しい人のみ痩せており、基本的にはそこまで痩せていません。胃ろうや経管栄養を行っている患者様は、吉本さんをはじめとした管理栄養士の皆さんと一緒に栄養面もサポートしています。主治医の先生とも連携を取って、栄養剤の処方をお願いすることもあります。嚥下に関する検査には病院でしか行えないものもあるため、必要に応じて主治医の先生へ検査を依頼します。」

基本的には前回訪問時からの変化をヒアリングします。前回から食べる量が変化したか、特に食べ始めは口内の汚れも増えるので、歯の隙間に食べ物が挟まっていないかを確認します。ご家族の方にも最近の食事状況を聞き、その食べ物の硬さを確認することで、どれくらいの硬さのものであれば自力で食べられるのかを把握します。そして、患者の食べる意欲、食べたいものが出てきたかを確認します。実際に目の前で食事の様子を観察し、お口や嚥下機能も確認します。食後は食べ物がどれくらい口に残っているかを確認するのも大切です。その後、歯科衛生士が口腔清掃を行い、入れ歯の噛み合わせや歯周病など他の問題が発生していないかを確認します。

訪問診療は小児の場合、訪問看護ステーションもしくは保護者からの要請が大半となりますが、高齢者の場合は、ケアマネージャーの “退院後の食事が気になるので診てほしい” という要望から繋がります。

村田先生:
「在宅NSTは医療の中では広まりつつあり、認定栄養ケア・ステーションの訪問看護・栄養指導と繋がっています。病院に入院されている患者様は院内NSTの一環としてInBody測定ができます。私達が取り組んでいる地域包括ケアの中で、在宅NSTを進めるためには院内NSTと同様にInBodyでの評価が必要不可欠だと思っています。S10であれば気軽に持ち運びができて、院内と同じように患者様のご自宅でも評価できるのはありがたいです。使える道具が増えると診察の精度も上がるのでInBodyを加えることで患者様の状態をより詳細に確認できるようになりました。」

身長は伸びても体重がずっと変わっていない重心児に対して、どれくらいの摂取量を設定すべきなのか、まだ具体的な指標がありません。そこで、ひまわり歯科ではInBodyで測定した基礎代謝量を摂取量設定の基準として用いることで、具体的な摂取量を決めて栄養指導にあたっています。InBodyで測定を続けると、体重や筋肉量の僅かな増加も確認できるので、治療に関わるスタッフにとっても励みになります。

▲ 訪問診療での測定風景

村田先生:
「高齢者でも訪問診療を続けることで、食べられるものが増えて摂取量が増加し、筋肉量を増加させることができます。そして、その方の日常動作にも改善が見られると、私達も治療の成果を確認できて安心します。印象に残っているのが70代後半の女性の患者様です。脳血管疾患で見当識障害があり訪問診療を始められました。言語障害がまだ残っているものの、体重が6kg増えて、筋肉量・ADLが改善しました。最初はミキサー食だったのですが、今では普通食が食べられるようにまで回復しています。ここまで回復ができたのは周りの方、特にご主人が献身的にサポートされていることが大きいと思います。ご主人も訪問時に一緒にInBodyを測定していますが、奥様に負けまいと体成分を維持されています。ご主人に運動時間を作ることを勧めたところ、介護で時間がないからと自宅にエアロバイクを導入されました。奥様だけでなく、ご主人の健康への意識も変えることができたことは訪問診療ならではだと思います。」

▲ 1年で体重が6kg増加した方 (上:2021年 下:2022年)

①体重6kgのうち、筋肉量+2.2kg・体脂肪量+3.8kgとなっていますが、②体脂肪率を見ると標準範囲内に収まっており、適切な体脂肪量の増加であることが分かります。③部位別筋肉量もそれぞれの部位で増加が確認でき、④ECW/TBWも全身・部位別共に減少傾向であることから、浮腫ではなく純粋な筋肉量が増加していることが確認できます。


終わりに

既に様々な事業に取り組んでいるひまわり歯科ですが、更に地域の人々の健康に貢献したいと、新たな活動も考えています。

吉本さん:
「現在、インプラント術前の栄養相談が1回きりで終わってしまっています。今後はインプラント術後に食べられるものが増えたことで体がどう変化しているか、術後半年などで再度栄養相談をしていきたいと考えています。患者様もあくまでメインは歯科治療で来られていると思うのですが、InBodyをきっかけに少しでも自分の体や栄養に興味を持ってもらえるように管理栄養士が主体となって会話する場を作っていきたいです。管理栄養士も現在は3名ですが、もっと人数が増えることで栄養に関するセミナーや料理教室などの啓発活動にも取り組んでいきたいと思っています。加えて新しいこととして歯列矯正中の患者様にも測定していきたいと考えています。小児のお子さんですと、矯正器具を付けることによる食べづらさから偏食が起きてしまう場合があります。栄養相談を行って偏食の改善に取り組みながらInBodyでも数値を追いかけられればと思います。」

村田先生:
「訪問診療を行っている患者様をはじめ、今後も継続してInBodyを測定していきたいと考えています。継続して測定していくことで栄養指導を充実させて、歯科治療の成果が確認できるようになればと思います。外来で行っている口腔機能検査とInBodyの関連について理解を深めることができれば、どういう患者様をInBody測定で追った方が良いかの目安にもなると思います。訪問診療に毎回InBodyを持って行けるわけではないので、普段行っている検査の結果などからInBodyの測定が必要なタイミングも分かってくると、InBodyをもっと有効に活用できると思います。」