サルコペニアの予防に活用できるInBody(握力計連携)

現在、日本は超高齢社会に突入しています。特に2025年には、75歳以上の後期高齢者の割合が5人に1人に達すると予測されており、日本が抱える深刻な課題の一つとして「2025年問題」と呼ばれています。このような高齢化に伴い、日本社会は様々な側面から大きな影響を受けることが予想されています。その一例として医療・介護利用者の増加が挙げられ、その結果として医療費の増大・医療従事者の不足・医療施設数の減少・在宅医療の拡大など、多くの問題が懸念されています。

2025年問題に起因する影響への対策として、世界的に予防医療の重要性が高まっています。予防医療とは、病気になってから治療するのではなく、病気を未然に防ぐための対策を講じることを指します。その中でも、私たちの健康維持において重要視されているのが「サルコペニア(加齢による筋肉量・筋力・身体機能の低下)」の予防です。サルコペニアは転倒・骨折のリスクを高め、要介護状態に繋がる大きな要因となります。そのため、高齢になっても健康で自立した生活を維持するためには、適切な運動や栄養管理を通じてサルコペニアを予防することが不可欠です。

※サルコペニアについて、詳しくはトピック「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。


サルコペニアの評価方法

日本・中国・韓国・マレーシア・タイなどの研究者により組織されたアジアのサルコペニアワーキンググループ(AWGS)では、アジア人におけるサルコペニアの評価基準を次のように定めています。

サルコペニアの診断では、筋力や身体機能の測定・評価が重要ですが、筋肉そのものの絶対量の評価が欠かせません。筋肉量の評価ができない場合は、サルコペニアの「診断」やその重症度を評価することができません。

その筋肉量の評価指標として、骨格筋量の指標である「骨格筋指数(SMI)」が用いられます。骨格筋量とは、骨に付いていて自分の意思で動かせる筋肉を指し、私たちの体を動かしたり姿勢を維持したりする際に欠かせない筋肉です。心臓や内臓など、自分の意思とは関係なく動かされる筋肉とは概念が異なります。骨格筋指数とは、骨格筋のみで構成されている四肢(両腕・両脚)の筋肉量を身長(m)の二乗で割った値であり、英語表記であるSkeletal Muscle Mass Indexの頭文字を取ってSMIと呼ばれます。このSMIの測定はBIA法で行うことが推奨されており、InBodyでは四肢と体幹の体成分をそれぞれ直接測定しているため、この「骨格筋指数(SMI)」を簡単に評価できます。

また、筋肉量の簡易的な評価方法として、下腿周囲長が用いられる場合があります。下腿周囲長とはふくらはぎの最も太い部分の周囲の長さを指し、メジャーなどで測定する評価指標です。これは加齢によって特に減少しやすい下肢の筋肉量を反映する簡便な手法として活用されています。

下肢周囲長のカットオフ値(男性<34cm、女性<33cm)を基準にサルコペニアのリスクを判断できますが、これはあくまで簡易的なスクリーニング方法であり、サルコペニアを診断するには「骨格筋指数(SMI)」の評価が必要です。特に、筋肉量が少なく体脂肪量が多い「サルコペニア肥満」や、もともと「痩せ型」の方の場合、下腿周囲長では正確な評価が難しくなることがあります。そのため、サルコペニアの診断には骨格筋指数(SMI)・握力・身体機能を組み合わせた評価が必要です。

実際に多くの施設がInBodyで測定した「骨格筋指数(SMI)」をサルコペニアの診断基準として活用しています。適切な評価を行うことで、サルコペニアの予防や対策に役立てることができます。

※サルコペニアの研究にInBodyを活用される「熊本リハビリテーション」様の活用事例はコチラ


InBody測定結果に「骨格筋指数(SMI)」と「握力」を表示できる

InBodyではサルコペニアの指標として骨格筋指数(SMI)のみを提供していましたが、2024年7月から握力を測定できるInBodyの握力計「InGrip」を販売開始しました。

【InGripの特徴】

➤ロードセルセンサーの搭載
ロードセル方式は、内部のセンサーが力を受けるとわずかに変形し、その変形を電気信号に変換することで力を測定する仕組みです。過去に加わった力の影響で測定値がずれてしまう現象(ヒステリシス)が生じる心配もなく、高い耐久性を持つため、長期間にわたって安定した正確な測定が行えます。

➤再現性を助けるハンドルガイド
すべての測定者が同じ位置でハンドルを握ることができるように設計されており、結果のばらつきや測定値の誤差を最小限に抑えられます。

➤InBodyとワイヤレス連携可能
InBodyとBluetoothで連携することができ、InBody測定時に一緒に握力の測定が可能となります。さらに、Bluetoothで他のプログラムとワイヤレスに通信することも可能です。

InGripは大きく3つの特徴がありますが、中でも最大の特徴は「InBodyとワイヤレス連携可能」である点です。InBodyとInGripを連携することで体成分測定と一緒に握力測定ができ、測定後に出力される結果用紙には「骨格筋指数(SMI)」と「握力」が表示されるため、サルコペニア診断に必要な項目をまとめて確認できます。

▲ 結果用紙に表示される「筋肉・筋力評価」の項目

握力測定は左右それぞれ2回ずつ行い、その最大値が結果に表示されます。また、「骨格筋指数(SMI)」や「握力(HGS)」の数値の右側に表示されている数値は、各項目における性別ごとのサルコペニアのカットオフ値です。InBodyの結果に表示されるカットオフ値は以下の通りで、AWGSの基準に基づいています。

・骨格筋指数(SMI)のカットオフ値: 男性<7.0kg/㎡、女性<5.7kg/㎡
・握力(HGS)のカットオフ値: 男性<28kg、女性<18kg

また、毎年スポーツ庁が実施する「体力・運動能力調査」では、年代ごとに「握力・上体起こし・持久走」などの測定を行い、日本国民の体力・運動能力の現状を明らかにするための調査が実施されています。2024年10月に発表された令和5年度の体力・運動能力調査結果報告書では、年代ごとに握力の平均値を確認できます。表1からも、40代以降は加齢に伴い握力(筋力)の平均値が低下していることが分かります。サルコペニア評価における握力のカットオフ値や年代ごとの平均値を参考にすることで、筋力低下のリスクを早期に察知し、適切な運動習慣の導入やトレーニングの強化を検討するきっかけになります。

年代男性握力平均値女性握力平均値
20-2444.11kg26.84kg
25-2945.60kg27.66kg
30-3445.67kg27.78kg
35-3946.28kg28.13kg
40-4445.78kg28.16kg
45-4945.30kg27.84kg
50-5444.31kg27.05kg
55-5943.41kg26.78kg
60-6441.94kg26.84kg
65-6939.36kg25.08kg
70-7437.50kg23.75kg
75-7935.07kg22.80kg

▲ 表1: 令和5年度体力・運動能力調査の統計数値表より抜粋(詳細はコチラ ※P2を参照)


実際の測定の流れ

InBodyとInGripを連携し、実際に測定する流れをご紹介します。
※InBodyの機種によってInGripと連携できない場合がございます。連携できるか確かめたい場合は弊社までお問い合わせください。

①InBodyとInGripをBluetoothで連携させる

InBodyの電源を入れ、その近くにInGripを用意してください。InBodyとInGripの連携方法はコチラをご参照ください。

上の画像のように、握力計に「Bluetooth ID」が表示されていれば、連携が完了しています。
※機種によって設定方法が少し異なるため、連携方法がご不明な場合は、弊社までお問い合わせください。

②InBodyで「体成分測定」を行う

InBodyの「体成分測定」を選択して、測定を進めてください。体成分を正確に測定するためには、測定上の注意事項を守る必要があります。注意事項はコチラよりご確認ください。

③InGripで「握力測定」を行う

体成分測定が完了すると、握力測定画面に自動で遷移します。画面の指示に従い、握力測定を行ってください。左右それぞれ2回ずつ握力測定を行います。握力測定時はInBody本体から降りても問題ありません。

▲ InGripでの握力測定の流れ

④結果用紙もしくはInBodyアプリで測定結果を確認

握力測定の結果は、「本体画面・結果用紙・InBodyアプリ」から確認することができます。

▲ 本体画面・結果用紙・InBodyアプリでの「握力」の見え方

➤本体画面
2回ずつ測定した握力の数値と握力の最大値を確認することができます。

➤結果用紙
右側に表示されている「筋肉・筋力評価」の項目にて、左右それぞれ2回ずつ測定した中での握力の最大値が表示されます。骨格筋指数(SMI)も一緒に表示されるため、両方をまとめて確認でき、サルコペニアの評価に活用しやすくなります。

➤InBodyアプリ
ダッシュボード画面から「握力」を確認できます。握力は、「絶対握力」と「握力体重比」の2項目がそれぞれ表示されます。絶対握力はInGripで測定した握力の最大値を指し、握力体重比とは、絶対握力を体重で割った数値を示します。握力体重比(%)は、握力実測値(kg)÷体重(kg)×100という計算で求められます。握力は筋力を評価する代表的な指標ですが、体重が重いほど高い値が出やすい特徴があります。そこで、体重の影響を排除した握力体重比を確認することが重要です。また、体重の異なる複数の測定者で握力を比較する際は、この握力体重比を用いることで平等な評価ができます。握力と握力体重比は履歴グラフも確認できるため、経時的な変化も簡単に評価できます。図1の画像をご参照ください。

※握力測定したにもかかわらず結果数値がダッシュボードに表示されていない場合は、ダッシュボードの最下部にある「ダッシュボード項目編集」より握力の表示をONにしてください。

また、詳細画面にて「骨格筋指数(SMI)」の数値と履歴グラフが確認できます。握力や握力体重比と照らし合わせることで、サルコペニア評価にご活用いただけます。

▲ 図1: InBodyアプリで確認できる「握力」と「骨格筋指数(SMI)」


まとめ

日本の超高齢社会において、サルコペニアの予防は私たちの健康維持に欠かせない重要な課題です。筋肉量や筋力の低下が進行するサルコペニアは、転倒や骨折、要介護状態を引き起こす原因となります。また、筋肉量の減少は見た目に表れにくく、自覚することは非常に難しいです。予防のためには、運動や栄養管理だけでなく、適切な筋肉量の評価が不可欠です。

InBodyは骨格筋指数(SMI)の測定により筋肉量を簡単に評価し、サルコペニアの兆候を早期に発見するための基準を提供します。さらにInGripと連携して体成分測定と握力測定を一緒に行うことで、より包括的なサルコペニアの評価が実現します。また、定期的にInBodyとInGripの両方を測定することで、サルコペニア予防に必要な情報を手軽にモニタリングでき、適切な運動や栄養管理の指針を立てやすくなります。これらの活用が、今後の予防医療において重要な役割を果たすことが期待されます。