腸内環境を改善する方法
-3つのバイオティクスたち-

腸内フローラ(=腸内細菌叢)という言葉をご存じですか? 腸内フローラは腸内に存在する様々な細菌の集合体のことで、その様子がお花畑のように見えることからフローラ(flora)と呼ばれています。これまで腸内細菌に関する情報は「乳酸菌が健康や免疫力向上に良い」といった、漠然としたものしかありませんでした。しかし、ここ数年で腸内細菌に関する様々な研究が行われ、腸内環境の改善が多くの健康問題の予防・改善に役立つという事実が明らかになってきました。例えば、脳と腸は自律神経を介して相互作用していたり、肥満は腸内細菌のバランスと関連していたりなど、腸内フローラを整えることは健康管理に繋がるという認識が広まっています。

腸内には、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進したり病原菌の感染を予防したりするなど身体に有益に働く善玉菌、腸内で有害物質を作る悪玉菌、どちらにも属さず数が多い方の菌と同じ作用をする日和見菌(ひよりみきん)の3種類が主に存在しており、その数は100兆個に至ると言われています。その膨大な腸内細菌の殆どを占めているのは日和見菌で、この細菌の性質上、善玉菌の数が悪玉菌より多くなるように管理することが腸内環境の改善につながります。善玉菌の増殖には食生活の改善やストレス管理が重要ですが、腸内に善玉菌を送って育てる方法もあります。今回のテーマは腸内環境を改善させる方法の1つであるプロバイオティクスとプレバイオティクスについてお話しします。


プロバイオティクス? プレバイオティクス?

プロバイオティクス(probiotics)は1989年、イギリスの微生物学者Fullerによって「腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されたもので、現在では「十分量を摂取したとき、宿主に有益な効果を与える微生物」という定義も広く受け入れられています。また、これらの微生物を含む食品をプロバイオティクスと称することもあります。代表的な種類は乳酸菌やビフィズス菌が挙げられますが、乳酸菌類の中でも科学的に証明できる次の条件を満たす特定の菌株に限ってプロバイオティクスと呼びます。

<プロバイオティクスの条件> ¹⁾
・安全性が保証されている
・もともと宿主の腸内フローラの一員である
・胃液、胆汁などに耐えて生きたまま腸に到達できる
・下部消化管で増殖可能である
・宿主に対して明らかな有用効果を発揮できる
・食品などの形態で有効な菌数が維持できる
・安価かつ容易に取り扱える

コンビニなどで販売されているヨーグルトや乳酸菌飲料の中で、特定保健用食品(トクホ)とされているものは殆どプロバイオティクスに該当します。

一方、プレバイオティクスはプロバイオティクスより少し後に現れた概念で、1994年にGibsonとRoberfroidによって「大腸内の特定細菌の増殖及び活性を選択的に変化させることにより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分」と定義されました。この定義から分かるようにプレバイオティクスは菌株ではなく、特定の菌株を増殖・活性化させる食品成分を指し、最もよく使用される成分は難消化性オリゴ糖類とプロピオン酸菌による乳清発酵物です。また、プロバイオティクスと同様、次のような条件を満たすものをプレバイオティクスと呼びます。

<プレバイオティクスの条件> ¹⁾
・消化管上部で加水分解、吸収されない
・大腸に共生する一種または限定された数の有益な細菌の選択的な基質であり、それらの細菌の増殖を促進し、または代謝を活性化する
・大腸の腸内細菌叢(フローラ)を健康的な構成に都合のいいように改変できる
・宿主の健康に有益な全身的な効果を誘導する

これらの条件からわかるように、プレバイオティクスは腸内にある善玉菌に働きかけることで腸内環境を改善させます。更に、プロバイオティクスとプレバイオティクスの定義からわかるように、この2つは一緒に摂取することでお互いの効果を高めることができます。つまり、どれほど多くのプロバイオティクスの食品を摂取しても、菌株の増殖・活性化がうまくできないと腸内環境は改善されにくく、逆にプレバイオティクスだけ多く摂取しても、元々の菌株の数が少ないと増殖促進効果が現れるまで長く時間がかかってしまいます。


プロバイオティクスとプレバイオティクスの効果

プロバイオティクスは便秘や下痢症など老廃物排出作用の改善、乳糖不耐症の改善はもちろん、免疫機能の改善による感染防御、発がん抑制、炎症性腸炎の予防などのアレルギー抑制効果が報告されています。アレルギーは、免疫細胞が病原体ではない成分を病原体として認識して過剰反応することで発生します。腸は多種多様な細菌が存在する器官であるため体内に存在する免疫細胞の7割以上が配置されており、アレルギー反応と密接な関係を持つ臓器です。そのため、腸内環境の改善は過剰に反応して抗原を排出する免疫細胞(2型ヘルパーT細胞: 寄生虫排除などに重要な役割をする免疫細胞で、過剰反応するとアレルギー反応を引き起こす)の働きを抑え、他の免疫細胞(1型ヘルパーT細胞: 病原菌などを殺傷する機能を持つ免疫細胞で、過剰反応すると自己免疫疾患を引き起こす)を活性化させることができ、アレルギー症状を和らげるとされています。

また、長年の研究の中でプロバイオティクスには抗肥満効果があることも報告されています。腸内フローラのバランスが整うと代謝機能の改善や中性脂肪の吸収抑制などに加え、肥満と密接な関係を持つ2型糖尿病の予防にも効果的とされています²⁾。

一方、プレバイオティクスは消化器上部で分解・吸収されずそのまま腸に届き、腸内細菌によって発酵される特徴があり、発酵の結果として短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid)と乳酸が生産されます。この短鎖脂肪酸は大腸に吸収され、大腸上皮細胞のエネルギー源として使用されるだけではなく、様々な効果をもたらします¹⁾³⁾。短鎖脂肪酸には酢酸、プロピオン酸や酪酸などがあり、細かい効果は少しずつ違いますが、どれも腸内のpHを下げて酸性状態を維持することに役立ちます。このとき腸内のpHは菌の増殖と密接な関係にあります。具体的に言うと、動物性タンパク質などが多くなり腸内のpHがアルカリ性に傾くと悪玉菌が増え、オリゴ糖や食物繊維が多くなると腸内のpHが酸性に傾き、善玉菌が増殖しやすくなります。

つまり、プレバイオティクスを摂ることで短鎖脂肪酸の生産が増えて腸内の酸性状態が維持されると、善玉菌の増加に伴って腸内環境が改善されます。また、プレバイオティクスは大腸粘膜細胞の主要エネルギー源でもあるため、粘膜分泌を促進させて腸内免疫力を向上させたり、エネルギー代謝を調整することで肥満や糖尿病などの代謝性疾患を予防したりするなど、善玉菌の増殖を促す以上の効果も示されています。


プロバイオティクスとプレバイオティクスの摂り方

腸内フローラのバランスを維持することが、慢性疾患はもちろん、うつ病などの精神疾患の改善にも繋がるとされる中、様々なプロバイオティクス及びプレバイオティクス商品が販売されています。市販の商品からもプロバイオティクスやプレバイオティクスを摂れますが、腸内環境の改善は長期的かつ持続的に行うことが大事です。プロバイオティクスの乳酸菌やビフィズス菌は発酵食品によく含まれており、ヨーグルトやチーズ、納豆、漬物、発酵バターなどから摂取できます。

一方、プレバイオティクスは聞き慣れた言葉に変えると「オリゴ糖」や「食物繊維」です。難消化性オリゴ糖は消化酵素によって分解されないため、小腸で吸収・消化されず大腸に届き、善玉菌によって発酵され短鎖脂肪酸として吸収されます。オリゴ糖が多く含まれている食品には大豆、アスパラガス、玉ねぎ、キャベツ、バナナなどがあります。
※その他にも食物繊維(プレバイオティクス)に関する詳しい内容と代表的な食品については「五大栄養素番外編 -食物繊維Ⅰ-」をご覧ください。

普段から、これらの食品を摂取するよう心掛けることで自然と両者を摂ることができます。近年では、プロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に摂取することをシンバイオティクス(synbiotics)と呼び、更に高い相乗効果が期待できます。難しく考える必要はなく、バナナヨーグルトやおくら納豆のようにプロバイオティクスの食品とプレバイオティクスの食品を一緒に混ぜて食べることでシンバイオティクスになります。


腸内環境の改善に重要な要素

腸内フローラを整えるためには食習慣の改善が第一とされている反面、ストレスや疲労、睡眠不足などによる自律神経の乱れは腸内環境を悪化させる要因です。そのため、適切なプロバイオティクス及びプレバイオティクスの摂取とストレス管理、適切な睡眠による疲労回復など、健康管理の基本が腸内環境を改善させる最も効果的な方法となるでしょう。「腸活」という言葉が生まれるほど腸内環境改善の重要性が話題になっている今、善玉菌を育てる生活習慣を作ってより健康的な生活を送られてみるのはいかがでしょうか。

参考文献
1. 公益財団法人腸内細菌学会
2. 清水 秀憲ら, 腸内細菌由来短鎖脂肪酸における宿主エネルギー代謝機能制御. Glycative Stress Research 2019; 6 (3): 181-191
3. 宇佐美 眞ら, 多様な酪酸投与とその効果. 甲南女子大学研究紀要Ⅱ 第 13 号(2019 年 3 月)