公益財団法人JKA日本競輪選手養成所
-自分のベストコンディションを求めて-
✓InBodyを活用する目的
● 候補生のトレーニング効果や進捗を確認するため
● 指導内容に関するデータを細かく収集し、客観的な数値としてフィードバックできる体制を整えるため
✓InBody470導入の決め手
● 測定時間が短い点
● 非侵襲的であることや簡便性・正確性に加えて論文での採用実績も十分である点
✓得られた効果
● 競輪では筋肉バランスが重要であり、InBodyでは腕や脚の左右差まで確認でき、トレーニングの指標となった
● InBodyの測定結果を基に、食事内容を見直すことができるようになった
● 定期的に測定することで自身のコンディションの良し悪しやベースラインとなる値を把握できるようになった
機種モデル:InBody470
公益財団法人JKA日本競輪選手養成所(以下養成所)は豊かな自然と森に囲まれた伊豆半島の中央に位置し、最新設備と練習環境を有する日本唯一の競輪選手養成機関です。広大な敷地内には宿舎・体育館・屋内ローラー練習場・自転車整備室・格納庫・三つの競走用練習場(333m・400mの屋外バンク、250mの室内バンク)などが揃い、世界屈指の充実した練習環境が整備されています。克己・誠実・親和を基本方針とし、厳しい訓練と規則正しい生活を通じて、アスリートに必要な技能・知識だけでなく社会人として必要な人格・良識を磨いています。
養成課に所属する伊藤 宏人さんは競輪選手の養成に携わっています。関西の大学で修士課程を修められた後、学生時代に伊藤さん自身も自転車競技に取り組んでいた経験や大学で学んだスポーツに関する知識を活かしたいという想いから、2019年より現職に至ります。
伊藤さん:
「養成所での業務は多岐に渡ります。選手候補生(以下候補生)は約10ヶ月間養成所で生活し、競輪に関わる知識や技能を習得します。午前中は座学を受け、コンディション管理やパフォーマンスに関わる内容、競輪の競技規則などを学びます。その中で私は運動生理学やトレーニング科学などの講義を担当しています。競輪選手は経済産業省管轄の国家資格であることから、定められた勉学のカリキュラムに沿って講義を受けなければなりません。午後は実際に自転車に乗っての乗車トレーニングや、ウエイトトレーニングなどの実科訓練を行います。
また、年3回開催される記録会の前後の週に、私が主担当となって体力・ペダリング能力などを確認する測定会を行っています。InBodyもこの測定会の中で活用しています。他にも、養成所は選手だけでなく競輪に関わる審判員や検車員の講習・指導も行います。競輪は1大会で3-6日間開催されますが、競走に使用する自転車を開催前日から毎日検査する必要があります。整備や検査に携わる人員の育成も、養成所での大切な業務内容の一つです。」
▲ 自転車競技経験有無で変わる入所試験内容
養成所に入所するためには入所試験を受ける必要があります。試験内容は自転車競技経験の有無で変わりますが、毎年5月に男子約70名女子約20名の計90名ほどが入所します。自転車未経験者はGW前に少し早く入所して自転車の基本的な乗り方や整備方法などを学びます。年齢は高校を卒業したばかりの10代から30代まで様々です。座学の受講内容は殆どが男女共通で一緒に受けますが、競輪のルールが男女で異なっているため、競技規則については男女分かれて受講します。
▲ 女子候補生の実科訓練風景
伊藤さん:
「実科訓練は男女に分かれて行います。年3回ある記録会の成績に応じて、ハイパフォーマンスディビジョン(HPD)、成績上位、成績下位の3グループに分けられます。女子は人数がそこまで多くないため、HPDとそれ以外の2グループに分けられます。HPDは男女各数名が選ばれます。特に記録会の成績が優秀で将来性のある候補生が該当し、養成所に隣接する練習場で行われる自転車競技日本代表チームの練習に加わります。自転車競技の日本代表選手は、競輪や別の仕事をしながら日本代表として活動しています。候補生は基本的に養成所を卒業すると競輪選手になるため、日本代表チームと二足の草鞋を履くことがあります。」
※競輪は、日本国内で開催されている公営競技を指します。自転車競技はオリンピック種目にもなっている、室内バンクで走行するいくつかの種目を指しており、これらは全く異なる別の競技です。アルファベット表記の「KEIRIN」は日本の競輪から生まれた自転車競技種目の一つです。
InBody導入
2019年5月に日本競輪学校から日本競輪選手養成所に改称した際、トレーニングや指導内容を見直す中で、候補生のトレーニング効果や進捗を確認するためにも体成分が考慮されるべきであるという意見が出たことから、2020年5月にInBody470が導入されました。それまでは簡易の体組成計を用いて体脂肪率を確認していましたが、トレーニングの高度化・細分化に伴い、指導内容に関するデータを細かく収集し、候補生へ客観的な数値としてフィードバックできる体制を整えることが目的でした。
伊藤さん:
「InBody470を選んだ理由は、測定時間が短いことを念頭に、確認できる測定項目が多い機種という点です。大学時代ではInBody720・730(いずれもInBody770の旧機種)を使用していたのですが、約90名の候補生を短時間で測定するためには測定時間が比較的長い上位機種は候補から外さざるを得ませんでした。大学時代はInBodyだけでなくDXAやMRIも使用していましたが、それらは高価かつ稼働に資格が必要などの導入に関するハードルが高いことがネックでした。InBodyは非侵襲的であることや簡便性・正確性に加えて論文での採用実績も十分であり、電源さえあれば設置場所を選ばない点も便利だと思います。」
▲ 測定会でのInBody測定の様子
年3回(5~6月・9月・12~1月)の記録会に合わせて、その前後の週で測定会を行います。養成所では全寮制の集団生活をしているため、InBody測定前に揃えたい基本的な生活条件などは概ね統制されていて、測定のタイミングは必ず月曜日の午前中に実施しています。年3回の測定会とは別で、HPDの候補生は月1回の計測を実施し、日本代表チームのスタッフと測定データを共有しています。測定会ではInBody測定以外にも、基礎筋力測定(背筋力・垂直飛び・長座体前屈・握力)や形態計測(胸囲・大臀囲・大腿囲・下腿囲)、自転車エルゴメーターを使用したペダリング測定など様々な測定が行われています。
伊藤さん:
「記録会は単に現状の能力を測るためだけでなく、成績に応じて報奨金や早期卒業にも関わってくることから、候補生全員がこの記録会に合わせてベストコンディションを整えてきます。その状態を数値化できるよう、なるべく記録会と測定会は近い日程で行うように心掛けています。」
▲ 測定会の記録は伊藤さん自作のシートに集約
伊藤さん:
「InBodyの測定結果はすぐに紙で印刷されるため気になる数値についてはその場でフィードバックしますが、各測定結果は私が自作しているフィードバックシートに集約して、後日候補生に説明する時間を設けています。基礎筋力測定は入所試験でも採用している種目を用いています。周囲長の測定は筋断面積との関連なども理由にありますが、競輪選手になると公式ホームページ(KEIRIN.JP)のプロフィール紹介で胸囲と大腿囲が掲載されるなど、昔から周囲長を用いる機会が多いことも理由の一つです。」
候補生は養成所内での電子デバイスの使用が禁止されているため、測定結果は結果用紙を印刷してフィードバックします。養成課の職員間では、データ管理ソフトであるLookinBody120から出力したExcelデータを組織内のクラウドに保管・共有しています。養成所では年3回の測定会への参加が義務付けられていますが、自分の体型や能力に関する測定データは、本当に必要になったときに初めてその価値を実感することになります。
伊藤さん:
「競輪選手になってから怪我をしてリハビリメニューを組みたいとなったときに、リハビリの強度を決めるための指標がなく困ることがあります。測定会に関する講義の中でも毎回候補生に伝えていますが、測定値は自身のコンディションが良いときには必要なく、悪くなったときに初めて、良いコンディションに戻るためのベンチマークとして必要になります。InBody測定もそうですが、情報が必要になるときに備えて養成所を卒業してからも定期的に基礎筋力などを測定する重要性を伝えたいと思う反面、現実はなかなか難しいなと感じます。」
自立したコンディション管理を促していく
測定会後の講義では測定値だけでなく、伊藤さんがBIA法の測定原理から説明しています。体に微弱な電気を流してどうやって筋肉量を測定しているか、電極の数の違いが測定値にどう影響するか、測定条件を揃える意味やBIA法以外の測定技術なども丁寧に紹介しています。
▲ InBody470結果用紙
伊藤さん:
「InBody測定結果の中でも、体重・除脂肪量・骨格筋量をよく説明しています。候補生がまず気にするのが体重なのですが、ではその体重の内訳はどうなっているか、どのような成分で体重が構成されているのかを一緒に確認します。他にも、自転車のペダリング運動は左右均等の動作ではありますが、利き脚などの要因がありますので左右差も確認しています。候補生によっては、過去のスポーツ経験、例えばテニスのように非対称性のある動きを含むスポーツ経験があることで筋肉量に左右差が生じてしまっている人もいます。利き脚などの要因もあって完全な左右均等を目指すことは難しいですが、左右差が大きく存在する状態が続くと腰痛や膝痛に繋がってしまうため、過度なアンバランスの状態はできるだけ避けるように伝えています。
InBodyを含めて多くの測定値・数字が出されると、候補生はそれを見るたびにどうしても一喜一憂してしまうのですが、他者と比べるのではなく過去の自分と比較することを常々伝えています。数値が変わったときにパフォーマンスはどう変わったのか、体調に変化はないかなど様々な項目を自分の中で繋げて解釈することで、最終的に自分のベストコンディションを主体的に探してほしいと思います。」
▲ 売店で販売されている各種サプリメント
養成所では、食品衛生などの観点により外部からの食品の購入・持込を禁止しています。そのため、普段の食事以外は養成所内の売店で販売されているプロテイン・サプリメント・補食の中から必要に応じて買うことになります。
▲ (左)夕食の一例 (右)白米は各自で計測して重さを確認
伊藤さん:
「候補生は、食堂にいる管理栄養士さんにいつでも食事相談ができます。夕食後など定期的に相談しに行く候補生が見受けられますが、管理栄養士さんが担当しているスポーツ栄養学の講義後の相談が特に多いようです。内容は増量に関する相談が多く、経験してきたスポーツによっては減量の相談もあります。増量の場合、養成所では食べ物の選択肢が限られるため、朝昼晩の食事で白米をたくさん食べてもらうことが多いです。また練習の合間にゼリー飲料やパンを食べる候補生もよく見かけます。人によっては脂質が足りない場合もありますが、これは調味料でも補えることがあるので工夫して摂取しています。
候補生が相談に行くときは必ずInBodyの結果用紙を持参してくるようで、増・減量の相談に役立っています。特に、『体重を増やさずに筋肉量を増やしたい』 という相談には、InBodyの結果用紙があることで具体的に食事内容を見直すことができます。時には体脂肪量を減らしすぎてしまう候補生もいるので、ただ体重と筋肉量だけを見るのではなく、適切な体脂肪量とのバランスを説明する上でもInBodyは便利です。」
競輪のパフォーマンスとInBody測定項目の関係
競輪のパフォーマンスを決める要因は複雑で、InBodyにおける各項目の基準や最低ラインなどを特定することは困難です。競輪選手は体をよく絞っているかと言うと必ずしもそうではなく、どちらかと言うと筋肉量と体脂肪量の両方がしっかりとある、体格ががっしりした選手が多い特徴があります。競輪選手の体重が重いことは悪いことばかりではなく、ペダルを力強く踏めたり、慣性によって自転車のスピードが乗りやすくなったりするという利点があります。一般的なスポーツ選手だと筋肉量が多くて体脂肪率が低いことが理想とされるかもしれませんが、そういう面では競輪選手は少し特殊かもしれません。かといって、過度な体脂肪量は怪我や故障に繋がってしまうリスクもあるため、適度な体脂肪量を保ちつつ、自分に合った体成分を見つける必要があります。
伊藤さん:
「競輪はオン・オフシーズンがなく年間通して全国で開催されているため、じっくりとコンディションを整えることが難しい競技で、常に開催される目の前の競走に全力を注ぎ続ける必要があります。大会は全国で開催されますので気候の違いもありますし、競技時間も朝早くから、遅いときには23時に出走する深夜レースもあります。そんな厳しいスケジュールで戦い続けていくためには体脂肪量もある程度は必要だと説明しています。
時にはコンディションが満足のいく状態でなかったとしても、競技に出続けなければならないときもあります。競輪は大会の規模や着順によって点数が付与されますが、この点数が一定基準を下回ると競技を強制的に引退しなければなりません。コンディション不良で長期休養などを取って点数が得られない期間が続いてしまうと競技人生自体が終わってしまう恐れもあるため、いかにコンディションを維持しながら戦い続けられるかが重要です。養成所に入所する年齢はバラバラですが、競技人生が短い選手で 1年半、長いと60代まで現役を続けている選手もいます。」
▲ 三神候補生の3回の記録会成績(日本競輪選手養成所ホームページより抜粋)
2024年度HPDに所属する三神 遼矢候補生は自転車競技でインカレや全日本でも表彰台に上がった実力者です。養成所入所当初は細身な印象がありましたが、普段から食事やトレーニングにおける増量への意識が高く、またその成果がしっかりと持ちタイム(記録会の成績)にも表れています。特に3回目の記録会における200mTTと1000mTTは記録の伸びが素晴らしく、同期の中でもトップクラスの成績です。
伊藤さん:
「彼は、この1年で特に体を大きくすることに成功した候補生の一人です。大学時代からInBodyで頻繁に測定していたこともあり、同期の中でも特に自己管理能力が高いと感じています。彼はInBodyの測定項目のうち、骨格筋量と体脂肪率をよく見ていて、特に体脂肪率を重視しています。普通は筋肉量や骨格筋量に目が行きがちですが、体脂肪率がその日のコンディションとよく関連していて、調子の良し悪しが反映されやすいと感じているそうです。
ウエイトトレーニングの量は大学時代とそこまで変わらないそうですが、養成所での規則正しい生活と、白米を毎食600g食べる努力の甲斐あって、1回目(6月)から3回目(12月)の測定会の間で、体重が+1.7kg、筋肉量が+1.5kg増加しました。その間も体脂肪率は11-12%前後を維持している理想的な体重の増え方ができていて、体格もしっかりしてきたと感じます。また、これまで見てきた選手の中には入所期間中に体重が約7kg増えた選手や、除脂肪量で約6kg増えた選手もいました。」
▲ 三神候補生のInBody測定結果
自転車未経験者の場合、それまでに経験してきた各スポーツの特性が体格や体成分にもよく反映されます。そこから約10ヶ月間の養成所生活を過ごす中で、例えばラグビー経験者が養成所に入所してから自然と減量していくように、候補生たちの体は競輪に適した体成分に変化していきます。授業やバイト・仕事もなく養成所での規律正しい生活を送っていく中で、多くの候補生たちは筋肉量の増加や、体脂肪率の低下を経験します。
伊藤さん:
「体重の増減は過去の経験種目や個人差にも依りますので、他人と比べずにあくまで自分の中で変化を見ていくことが大事だと伝えています。競輪選手はバックグラウンドが様々なこともあって、どんな練習をやれば強くなるかという正解がありません。養成所を卒業すると全国各地の地方競輪場に所属することになりますが、地方柄などもあって各地での練習法も様々です。そのため、競輪はどうすれば強くなれるのか、自分には何が足りていないのかなど、他のスポーツ以上に自分自身で考えることが求められる競技と言えるかもしれません。
ただ、私の方針としてあまり候補生に対して干渉しすぎないようにしています。候補生が自分からアドバイスを求めてきたときにはもちろんサポートしますが、卒業して競輪選手になると同時に個人事業主にもなりますので、養成所を卒業した後に自分で考えて行動できるようになってほしいという想いもあります。」
終わりに
伊藤さん:
「InBodyは簡便かつ正確に、低侵襲で短時間に多くの測定値が得られることが最大のメリットだと思います。養成所のように多人数の測定が必要な場合は、測定に資格などが不要で誰でも測定できるという利点もありますし、InBodyが特に適していると思います。1回の測定結果に一喜一憂するのではなく、定期的に測定することで自身のコンディションの良し悪しやベースラインとなる値が見えてくると講義では話していますが、現状InBody測定を年3回しか行えていません。候補生のコンディションをより詳細に把握するために、今後はもっと頻回に測定できる環境を整備していきたいです。」
競輪というスポーツ自体は広く認知されているものの、実際の競技ルールや養成所でどのようにして競輪選手になるのかなど知られていない部分が多くあり、まだまだ未知の競技でもあります。最近はホームページやInstagramやYouTubeでの情報発信なども積極的に行われていて、競輪のことを知れば知るほど奥が深い競技だと感じられます。
伊藤さん:
「競輪は、他競技を経験した後に新しく挑戦してくる人が多いという点が他のスポーツと大きく違うところだと思います。競輪に興味を持ってくださった方が安心して入所し、挑戦してもらえるように、養成所での練習や寮生活の様子などを発信しています。
養成所の候補生たちは皆、入所時点のバックグラウンドも体成分もバラバラです。だからこそ養成所で、もしくは養成所を出てからも、自分にどんな練習が合うのか、どんな体成分が適しているのか、各々の答えを探してほしいと思います。彼らにとって、InBodyを含む各測定データは良い道標です。今後は、経験してきたスポーツ別の特徴をInBodyの測定値から掴むことで、バックグラウンドに合わせたより適切なアドバイスを行えるようにしたいと考えています。」