近畿大学 硬式野球部
-クラウドサービスを用いた大学部活動-

✓InBodyを活用する目的
● 部員の体成分を管理し、パフォーマンス向上に繋げるため

✓InBody470導入の決め手
● 体重の中身を評価できる点
● クラウド管理サービス 「LookinBody Web」 で部員の体成分の結果を一元管理できる点

✓得られた効果
● InBodyを測定することで、チーム全体や自身の身体への意識が高まった
● 選手の測定結果を観察し、気になる点があれば日々体調のヒアリングやアドバイスをするきかっけとなった
● 体脂肪率や骨格筋率での目標値を設定でき、部員たちの意識付けに繋がった

機種モデル:InBody470

近畿大学硬式野球部(以下野球部)は1949年に創部されて以来、関西学生野球連盟を始め、全国大会での優勝経験もある強豪チームで、多くのプロ野球選手も輩出しています。普段は奈良県生駒市にある生駒総合グラウンドで「日本一奪回」を掲げて日々練習に励んでいます。部員数は80名以上、そのうち約半数の48名がグラウンドに隣接する開明寮で生活しています。


農学部との連携で始まったInBody測定

▲ 所 裕久さん

硬式野球部コーチ兼任トレーナーの所 裕久(ひろひさ)さんは、近畿大学硬式野球部のOBでもあります。現役時代には怪我が多くトレーナーという存在の重要性やありがたさを身に染みて経験し、当時のトレーナーから仕事の内容などを聞いて、トレーナー職を志すようになりました。近畿大学卒業後は、専門学校で鍼灸師・マッサージ師の資格を取得して大阪市内の病院で運動指導を行っていました。その時から外部トレーナーとして硬式野球部の活動に関わっていましたが、2005年から硬式野球部専属のコーチ兼任トレーナーとして活動しています。

所さん:
「InBody導入前は体重のみで選手のコンディションを管理していたので、痩せている選手に対しては体重を増やすことばかり指導していました。寮では3食用意してもらえる環境が整っているので食事量を増やすよう選手によく言っていました。他に、各部位の周囲長の計測を行って選手の体格を数値化していました。病院でも手術前後で周囲長の計測をよく行っていたので慣れているとは言え、私1人で全員を測定するのは時間もかかります。そのため周囲長の計測は頻繁には行えず、年2回行っていました。」

また、野球部の選手は所さんのサポートの他に同大学の農学部学生による栄養サポートを受けることができます。この栄養サポートは5-6年前から始まっており、管理栄養士を志す学生が野球部の選手に対して、InBodyの測定結果や食事調査を元に栄養アドバイスを行います。所さんは全選手の測定結果をパソコン上で管理し、選手はそれぞれ結果用紙をファイルに閉じて4年間自己管理しています。測定結果は農学部の学生にも共有され、選手への栄養サポートに活用されています。
※同大学農学部の活用事例はこちらからご覧ください。

▲ 野球部寮の食堂前に設置されている、農学部の学生が作成した掲示物

所さん:
「栄養サポートをお願いする選手はこちらでピックアップしています。最初は増量させたい選手と減量させたい選手を数名ずつお願いしていました。しかし、ある時期から増量させたい選手が減ってきました。昔は体重が増えにくい選手が多かったのですが、今の時代はそこまで痩せている選手はいません。現在は増量・減量ではなく、能力の高い選手を更に伸ばしてもらうことをお願いしています。」

寮で提供される食事内容を個別に変えることはできないので、農学部の学生から同じ食事メニューの中で白ご飯の量を調整することや、間食の選び方についてアドバイスをもらいます。一度栄養サポートを受けると、次年度も栄養サポートを受けたいとの希望も多く、選手にも好評です。


気軽に測定できるようになったInBody470

▲ 寮内に設置されているInBody470

2021年3月、InBody470が開明寮に導入されました。InBodyと一緒に、測定データをパソコン・タブレット・選手のスマートフォンアプリなどからいつでも見ることができるLookinBody Web(以下LBWeb)も併せて導入されました。野球部にInBody470が導入される前は、農学部のInBody430を2ヶ月に1回借りて測定を行っていました。当時はコロナ前で寮生も今より多く、1日で寮生全員の測定を行うことは困難でした。所さんはInBodyを借りられる1週間、毎朝いつもより1時間早く寮に来て全選手の測定に立ち会っていました。農学部の栄養サポートも継続して行われており、野球部のLBWebにアクセスできるアカウントを栄養サポートチームでも一つ持つことでInBodyの機器本体を移動することなく測定データを離れた場所から閲覧することができます。

所さん:
「InBody470が導入されたことで、まずInBodyを借りに行ったり朝早く来たりする必要がなくなったことがとても助かりました。選手はいつでも自分の好きなタイミングで寮に常設されたInBodyを測定できるようになったことで、少なからずチーム全体で測定や自分の身体への意識が高まったと思います。これまでは結果用紙を並べて数値の変化を確認していましたが、LBWebを導入して結果用紙からアプリに変わったことで数値を折れ線グラフで瞬時に確認できるようになりました。私にとっても選手にとっても、分かりやすくなって良かったと思います。」


※測定データはサンプルです。

▲ InBodyアプリで体成分の変化を折れ線グラフで確認

所さんは全員の測定データをスマートフォンやパソコンで日々確認しています。数値に気になる点がある選手を見つけると、個別に最近の体調をヒアリングします。コロナ禍になってからは練習時間が制限されることもあったためか、選手の体成分がどんどん乱れていくのが確認できました。そこで怪我予防のため、日々のトレーニングに有酸素運動を追加するなど、測定データを追いながら状況に応じた対策ができるようになりました。一方で、体成分を良い状態でキープできている選手に対してはより伸ばせるよう別のアプローチも行っていきます。

選手A:
「高校のときも近くの施設でInBodyを測定していました。今は寮にInBodyがあることで定期的に自分の身体を手軽に測定できるようになって良かったです。また、紙の結果用紙よりもアプリで測定データを見る方が管理も簡単で助かっています。」


選手の自主性を重んじた指導方針

所さんは測定データの管理を徹底されているため、“○○選手はこれくらい” “△△選手はこれくらい” と選手全員の体成分を把握しています。

所さん:
「慣れてくると過去のデータは大体頭に残ります。私から唐突に『この前の測定で体脂肪率○%だったやろ?』と声を掛けると、選手はドキッとしたような表情をします。見られているから良い数字を残そうと少しでも選手に意識してもらえればと思います。」

所さんはトレーニングに関して基本的なアドバイスを行うものの、全てを詳しく教えることはしません。最近では選手自身がインターネットやYouTubeから自分に合ったトレーニングを見つけてくることもできます。プロ野球選手がこんなトレーニングをしている、あのサプリメントを飲んでいる、こんな食事をしていると山のように情報が出てくるので、選手自身で自分に合ったやり方を見つけてもらうように自主性を重んじています。

所さん:
「選手の試行錯誤の結果が測定値にどのように表れてくるか楽しみに見ています。ある選手がこのトレーニングを行ったら筋肉量が増えたからと言って、別の選手も同じトレーニングをすれば同様に筋肉量が増えるとは限りません。1人1人に合うトレーニングは異なるため、まず自分から積極的に取り組んでトレーニングを研究・勉強する気持ちや姿勢を大切にしたいと考えています。」

選手の自主性を重んじたトレーニングを行っていますが、BIG3(ベンチプレス・スクワット・デッドリフト)と懸垂は基本的なトレーニングとして、所さんから目標数値を選手に伝えています。

▲ 所さんが定める目標数値

1RM(RM:最大挙上重量)で高負荷をかけてばかりいると、過度な負荷がかかって怪我に繋がる可能性があるため、ある程度の重量×回数をこなせるように指導します。野球部は専用のトレーニング施設を有しており、各自の空き時間でいつでもトレーニングに取り組める環境があります。トレーニングの頻度は選手に任せていますが、投手と野手では求められる体格も異なるので、トレーニング内容や頻度も変わってきます。練習しすぎている選手や間違ったトレーニングを行っている選手に対しては、所さんが介入して直接指導する場合もあります。

▲ グラウンドに隣接するトレーニング施設

InBodyも同様に、測定頻度は選手の自主性に任せています。年2回の体力テストに合わせて測定することだけ選手全員に指示しているため、体力テストの直前になると普段あまり測定しない選手の列がInBodyの前にできることもあります。体力テストの結果を基に、次の半年で目標とする筋肉量・骨格筋量を設定します。体力テストの内容はBIG3・腹筋・柔軟性・3000m走・ジグザグシャトル・20m/60mダッシュ・立ち幅跳びで構成されています。中には体力テスト時以外にも積極的に毎週InBodyを測定している熱心な選手もいます。測定するタイミングは必ず朝食前、パンツ1枚で統一していますが、通学生に関しては朝食前の測定は難しいため寮に着いてトイレに行ってから測定するよう徹底しています。

測定データは所さんが管理しており、データをまとめて監督やチームスタッフに共有しています。主にまとめるデータは身長・体重・体脂肪量・体脂肪率・骨格筋量・InBody点数です。そして、所さんは骨格筋率(全身骨格筋量÷体重)にも注目しており、この値が50%を超えるよう、選手に意識させています。

所さん:
「体格がなかなか大きくならない選手、見た目の体格は良いがBIG3の数値があまり伸びない選手など、多くの選手の色々な数値を見比べてきた結果、骨格筋率が一番しっくりきました。骨格筋率を基に体重を増やした方が良いのか今の状態をキープした方が良いかなど選手にアドバイスしています。しかし、1ヶ月で急に5kg増やすような増量はよくありません。体重・筋肉量を短期間で爆発的に増やすために無理して食事量を増やすと、食べること自体がストレスになってしまうこともあるからです。無理なく1ヶ月に1kgずつもしくは体重の2%ずつ自然に増やした方が身体への負担なく成長することができます。そして、体重の増えた分は筋肉量なのか体脂肪量なのか自分で確認できる選手はよく伸びます。」

まず体重は (身長-100)kgが一つの目安となります。その体重まで増量が必要な選手は、食事量を増やすことが必須です。しかし、栄養バランスを考慮せずにただ食事量だけを増やすと体脂肪量が増えてしまいます。全体的に見ても体脂肪率が高い選手が多く、上級生になるにつれ食生活が乱れる傾向があります。そこで所さんは体脂肪率が18%を超えると、警告として食生活の改善を選手に求めます。投手に対しては、ピッチングのスタミナを蓄えるために体脂肪率が少し高めになる、という傾向を考慮します。しかし、体脂肪率が高くなったことで普段の動きのキレが落ちる・スタミナが切れやすいなどマイナス面が見られた場合は18%を超えていなくても同様に選手へ警告します。体脂肪率が高い選手へは、炭水化物の摂取量を減らすなどの具体的なアドバイスをします。


▲ InBodyでは体脂肪率の標準範囲を男性10-20%で設定

所さん:
「動きを見ていて良くも悪くも気になる選手がいれば 『明日InBody測ってみて』 とこちらから軽く声を掛けます。翌日の測定データを確認して骨格筋量が増えていれば褒めますし、体脂肪率が前回より高ければ ”やっぱりな” と思います。ポジション別に見ると、二遊間は特に俊敏性が求められるポジションなので体格の変化には注意が必要だと思います。その他のポジションではこのポジションだからというより、その選手の個性に合わせた指導を心掛けています。」


終わりに

▲ グラウンドにも「日本一奪回」が掲げられている

所さん:
「まずチーム全体の目標としては、去年リーグ戦が5位に終わったのでチャレンジャーの気持ちでリーグ優勝は絶対、という風に考えています。そのためにも大学の寮にInBodyがあることはとても恵まれた環境だと思いますので、これからもInBodyの測定結果を用いて選手のサポートをやっていきたいと思います。将来的には定期的な測定データから、疲労度や怪我のリスクなども管理できるようになれば良いなと考えています。私はコーチ兼任トレーナーなので、コーチとしては時に厳しい言葉を選手に投げかけますが、トレーナーとしてはできる限り選手の身近な存在でありたいと思っています。

これからトレーナーを目指す人へは、自分が発信する言葉に対してブレないことが一番大事だと伝えたいです。若い頃は色んな情報に触れることで、自分の中で考えが偏ったり迷ったりすると思います。ブレないだけの知識を持っておかないと、自分から発信することもできません。まずは自分の軸を一つ持ってほしいと思います。今の時代は恵まれていて、インターネットですぐに情報が手に入り、オンラインで遠方の講習会に参加でき、自分で選んだ物事にチャレンジすることができます。それらの情報を取捨選択して、ブレない軸を作ってほしいなと思います。ブレない軸があると、選手から頼ってもらえるようになり、信頼関係も築けるようになります。」