医療活用事例: 腎・泌尿器
腎・泌尿器分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : 透析 / ドライウェイト / シャントモニタリング / 腎リハ / サルコペニア
腎不全患者は腎機能の低下により水分や老廃物の排出がうまくできなくなることで、定期的に透析を行って体内に溜まった余分な水分や老廃物を除去する治療が必要になってきます。その分、腎不全患者の治療において普段の生活で一定の水分均衡を保たせることや透析の際に適切な除水量を決めることはとても重要な問題です。また、透析患者は飲食や運動に制限があるだけに筋肉量が減少しやすいので、栄養状態を管理して筋肉量を維持することも大切です。
ここで、InBodyが提供する体水分量(Total Body Water; TBW)、細胞内水分量(Intracellular Water; ICW)、細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分管理に使用される代表的な項目であり、全身・部位別の筋肉量や位相角などの項目はサルコペニアの診断や栄養状態の評価に多く活用されています。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
シャント部位は筋肉量(水分量)が増加し、細胞外水分比も高くなる
位相角が低くなる
勿論、透析の前後でInBodyを測定して結果を活用することもできますが、透析現場において最も効率的にドライウェイト(Dry Weight; DW)や栄養状態の評価を行うとしたら、透析が終わった直後に測定することがお勧めです。透析前の患者は浮腫の影響を受けてECWだけでなくICWも一緒に増加するため、この状態のICWは過剰なECWを推定するための基準になりづらいです。また、体外に排出されずに体内に溜まった水分は筋組織を過水和(Over Hydration; OH)状態にし、筋肉量を水増しさせるために、浮腫んでいる状態で測定された筋肉量は栄養評価に適しません。このような理由から、InBodyは透析後の返血が終わった直後に測定することが最も理想的であり、今回の情報を次回以後の透析に生かすことが一般的な運用方法です。
腎機能低下による浮腫で筋肉が水増しされる
水増しされている状態でも体脂肪量に比べ筋肉量が少なく、バランスが悪くなる
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
シャント部位と下半身の細胞外水分比がより高い傾向がある
水増し状態の筋肉から求められた骨格筋量・SMIなどは参考しない
位相角が低くなる
水増しが改善され、筋肉量が減少する
シャント部位の細胞外水分比は反対側よりやや高く、左右差が生じる
水分均衡が改善され、全身の細胞外水分比が低くなる
上半身より下半身の浮腫が改善しづらく、筋肉量と細胞外水分比がやや高くなる
位相角はやや高くなる
人体におけるTBWに対する標準的なECWの割合は0.380前後とされており、健康な人では常に一定な数値が維持されます。しかし、腎不全患者は主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、0.400を超えて高いと評価されることが多々あります¹⁾。高くなった数値は透析を受けることで下げられ、その際にECW/TBWは理想なDWを算出するための最も重要な指標です。
InBodyの水分情報から理想DWを推定するには、健康な人体における標準的なICWとECWの比率が62:38である生理学的な背景から、目標とするECW/TBWを0.380とし、測定されたICWを基準に適切なECWを求めます。ここで計算された適切なECWに対して超過したECWを過剰水分と見なし、現在体重から過剰水分を差し引いた値が理想DWになります。つまり、体成分の観点から定義する理想DWは、ICWを基準に過剰なECWが除外され、TBWに対するECWの比が理想な状態である場合の体重を意味しており、下記の公式にまとめることができます。
【公式1】 理想ドライウェイト=体重-過剰ECW
【公式2】(ECW-過剰ECW)÷(TBW-過剰ECW)=0.380
ただ、ECW/TBWは浮腫によるECWの増加で高まると知られていますが、実は老化や栄養状態の悪化に伴う体細胞量の減少によっても高まり、健常者でも加齢に伴うICWの減少でECW/TBWが増加することが明確にされています²⁾。TBWはICWとECWで構成されるため、ICWが減少すると分母が小さくなってECW/TBWが高まるわけです。従って、目標とするECW/TBWは一律ではなく、患者の年齢も考慮して設定する必要があります³⁾。
また、患者の栄養状態によっては筋肉量が同年代の平均より少ない場合があります。この場合、患者のECW/TBWはICWの減少によって同年代より高くなっている可能性があるので、目標ECW/TBWを同年代と同等に設定することは厳しくなります。そのように筋肉量がとても少ない患者においては、日本人健常者の平均骨格筋指数(SMI)⁴⁾を参考に、男女別SMIの年齢帯に合う目標ECW/TBWを推定するなど、更なる工夫が必要です。
ECW/TBWは部位別に均等でなく、一般的には重力の影響で上肢より下肢の数値が高く、特に透析患者の場合はシャントの位置から遠い部位が最も高い傾向があります。そのため、全身のECW/TBWが高く計測された場合、どの部位が最も影響しているかを調べて適切な対応を取ることができます。また、透析患者においてはこの部位別水分均衡の情報が血管狭窄の簡易的なスクリーニング法として生かされています。
主に腕に作られることの多いシャントは、透析中に大量の血液が流れる経路となるため、透析患者の結果用紙はシャント部位の水分量・筋肉量が反対側より有意に多く、ECW/TBWも高く測定されます⁵⁾。
通常は新陳代謝の働きにより、透析後はシャント部位に集中していた水分が時間の経過と共に全身に広がって反対側との差も徐々に縮まりますが、もし血管に狭窄や閉塞の問題が起こっている場合はECW/TBWの高い状態が維持されます。このような現象を利用して、シャント部位と非シャント部位におけるECW/TBWの差を定期的にモニタリングすることで、シャント部位で起こりうる問題を早期に発見することができます。
全身と部位別に提供される筋肉量の情報は、栄養状態の評価だけでなく、身体均衡の評価やサルコペニアの診断にも活用できます。特に、腎不全患者は一般健常人よりも筋肉量が少ない傾向にあり、サルコペニアや合併症のリスクが高まります。腎臓移植患者は移植3ヶ月後から筋肉量の減少が見られ、移植前のプレサルコペニアは移植後のプレサルコペニアに繋がります⁶⁾。また、透析患者において高い頻度で発生する低血圧はECW/TBWと正の相関関係にあり、低い筋肉量とも関係します⁷⁾。
更に、高齢の透析患者は若年患者に比べて筋肉量が減少しやすく、心血管疾患のリスクが高くなるため、特に注意する必要があります⁸⁾。このように、筋肉量の減少はサルコペニアや合併症と関連しており、それらを予防するためには筋肉量を正確に評価した上、維持・改善に向けての積極的な介入が必要です。
透析患者において筋肉量を評価する際の注意点として、筋肉が水増しされている状態の測定を避けるために、透析後のDWに近づいた状態で評価しないといけません。腹膜透析患者の場合は排液後の結果で評価します。また、ECW/TBW<0.400をドライな状態の筋肉量評価のカットオフ値として活用される場合がありますが、前述のようにECW/TBWは浮腫と関係なく細胞の老化・栄養状態の悪化によって高まることも多いので、厳密にはこの図のような見方が必要です。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
位相角(Phase Angle; PhA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁹⁾。そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角はこのような特徴から、筋肉量の変化よりも栄養状態の改善に敏感に反応するため、筋肉量の増加が見えにくい疾患者や高齢者などの栄養評価に有用です。
特に慢性維持透析患者の位相角は有用な栄養状態の指標であると報告されており¹⁰⁾、腎臓移植患者の位相角からサルコペニアを予測できるとも報告されています¹¹⁾。腎不全患者は活動量の低下や栄養不良などが原因でサルコペニアが進行しやすい傾向にありますが、浮腫の影響を受けて筋肉量が水増しされる症例もあるため、強い浮腫が見られる腎不全患者においては位相角がサルコペニアを予測する指標の1つとなり得ます。
一方、位相角は加齢に伴い減少する傾向があります。また、麻痺や怪我などの損傷は細胞の弱体化または生理的機能を低下させるため、これらの部位の位相角も減少します。この変化とともに、位相角と極めて強い逆相関を持つECW/TBWは増加します。従って、どちらも栄養状態を反映する指標のため、組み合わせて評価するとより重度の高い患者を分類することができます。
ただし、位相角は実測値としてBIA機器の電極が触れる位置によっても値が異なります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的に活用するほうが望ましいです。
参考文献
1. Andrew Davenport et al., Is extracellular volume expansion of peritoneal dialysis patients associated with greater urine output? Blood Purif 2011, 32: 226–231
2. Yasushi Ohashi et al., Dry weight targeting: The art and science of conventional hemodialysis. Semin Dial. 2018 Nov;31(6):551-556
3.上野幸司 et al., InBody-S20 使用における透析患者の標準化DW算出の試み. 医工学治療 Vol.32 No.1 2020
4. Satoshi Seino et al., Reference values and age differences in body composition of community-dwelling older Japanese men and women: A pooled analysis of four cohort studies. PLoS One. 2015 Jul 6;10(7):e0131975
5. John Booth et al., The effect vascular access modality on changes in fluid content in the arms as determined by multifrequency bioimpedance. Nephrol Dial Transplant 2011, 26: 227-231
6. D Koji Nanmoku et al., Deterioration of presarcopenia and its risk factors following kidney transplantation. Clinical and Experimental Nephrology (2020) 24:379-383
7. Qin Zhou et al., Correlation between body composition measurement by bioelectrical impedance analysis and intradialytic hypotension. International Urology and Nephrology 2020, May; 52(5): 953-958
8. Chi-Sin Wang et al., Hyperhomocysteinemia associated with low muscle mass, muscle function in elderly hemodialysis patients: An analysis of multiple dialysis centers. BioMed Research International Volume 2019, Article ID 9276097, 8 pages
9. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997
10. 増田尚江 et al., 慢性維持透析患者の栄養評価に対するPhase Angleの一考察. 日本臨床工学技士会会誌 No. 65 2019
11. Akihiro Kosoku et al., Association of sarcopenia with phase angle and body mass index in kidney transplant recipients. Sci Rep. 2020 Jan 14:10(1):266
*各項目に関する詳細は別途資料がございますので、必要な場合はお問合せください。