医療活用事例: がん・緩和
がん・緩和分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : 周術期 / 術後予後 / サルコペニア / 浮腫
がん患者は重症度や化学療法の副作用などによって浮腫が発生し、栄養状態が悪化しやすくなります。また、がんの種類によっては手術や長期入院を要する場合もあり、長期にわたる臥床生活によって低栄養状態に陥りやすくなることもあります。定期的な栄養状態のモニタリングによる適切な栄養・運動介入は治療効果を高めたり、様々な合併症のリスクを下げたりするなど、患者の早期回復に重要な役割をします。
ここで、InBodyが提供する筋肉量や細胞外水分比(ECW/TBW)、位相角は栄養状態の指標として使用でき、術後予後の予測にも活用されます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
細胞内水分量が減少し、浮腫がなくても全身の細胞外水分比が高くなる
全身の細胞外水分比が高くなる中、体幹と下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
殆どの指標が標準範囲を下回り、SMIも低くなる
位相角が低くなる
周術期における体成分の急激な変化は患者の予後に大きく影響します。高齢患者の肝切除後において、術前骨格筋量の減少と肝切除術方法が術後合併症のリスク因子であると報告されており¹⁾、骨格筋量のモニタリングは高リスクの高齢患者を予め把握する1次スクリーニング方法として活用できます。特に患者に負担が大きい手術では事前の栄養管理が術後生存率上昇や合併症リスクの減少と関連しています。また、悪性腫瘍による肝胆膵手術の術前リハビリは栄養状態の悪化を防止し、術前の身体機能や全身筋肉/脂肪比を改善させることで、術後の入院期間を有意に短縮させることが報告されています²⁾。筋肉量や体脂肪量などの体成分をモニタリングし、適切な介入を行うことは患者の早期回復に繋がります。
乳がんは女性特有のがんの中でも最も多いがんであり、女性のおよそ11人に1人がかかると言われています。乳がん術後に発生するリンパ浮腫は寛解ができないとされており、圧迫療法などによる患部の持続的な管理で悪化しないようにすることが重要とされています。患部の浮腫みが悪化すると細胞外水分比(ECW/TBW)が上昇するため、ECW/TBWのモニタリングは重症度や治療の効果を確認に活用できます。リンパ浮腫の治療法の一つであるリンパ管静脈吻合術(LVA)において、上肢・下肢問わずBIA法でLVAの水分減少効果が評価できると示されており³⁾、下肢リンパ浮腫部位のECW/TBWは片脚もしくは両脚リンパ浮腫の進展及び重症度評価に活用できることも示唆されています⁴⁾。このようなことから、健側と患側の測定値を比較することで、治療計画も立てやすくなります。
サルコペニアとは、加齢に伴う骨格筋量の減少と共に握力や歩行速度などの筋力低下が発生している状態を指します。サルコペニアの診断基準のうち、骨格筋量の減少は四肢骨格筋量(筋肉量)の合計を身長(m)の2乗で除した値である四肢骨格筋指数(SMI)で評価できます。尚、アジアで広く使用されているアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)が定めているSMIのカットオフ値は男性<7.0kg/㎡、⼥性<5.7kg/㎡となっています⁵⁾。高齢の胃がん患者において、術前のサルコペニア患者は術後に重度の合併症を患う割合が高く、サルコペニアが重度合併症の危険因子であることが示されている⁶⁾など、サルコペニアと悪い予後の関係は明らかになっています。また、術前の栄養管理は術後の結果に影響を及ぼすため、早期の筋肉量管理が必要であることも示唆します。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、症状が進行して浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。筋肉は体水分を含んだ概念のため、浮腫によって体内に余分な水分が貯留するとそれらは筋肉量として数値に表れるため、筋肉量が多く測定されます。
また、長期入院・長期臥床による筋肉量の減少で主にICWが減少することもECW/TBWが高値になる要因です。筋肉量の減少は長期臥床だけでなく加齢や低栄養・悪液質などによっても発生するため、重症度が高くなればなるほど、浮腫だけでなく筋肉量の減少も加わることでECW/TBWは更に高い値を示します。
ECW/TBWは水分均衡を評価するだけではなく、栄養状態の指標としても用いられます。ECW/TBWが高い肺がん患者は低い群に比べて治療成功期間が有意に短いと報告されています⁷⁾。また、術前ECW/TBWは肝細胞がんにおける肝切除術後の合併症の予測因子であることも示されています⁸⁾。このようにECW/TBWのモニタリングは術後合併症の予防や治療の効果予測に役立ちます。
位相角(Phase Angle; PA)を簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁹⁾。そのため、細胞膜の健康状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角は筋肉量よりも栄養状態の改善に敏感に反応して変化するため、浮腫の影響で筋肉量による評価が難しいがん患者の評価に適しています。高齢の胃がん患者において胃切除術後の低い位相角は術後のリスク因子であることが報告されており¹⁰⁾、位相角のモニタリングと適切な介入が術後合併症の予防に繋がることが示唆されています。
但し、位相角はBIA機器の電極が触れる位置によって、インピーダンスを測定する範囲が変わるため、メーカー間・機種間で値が異なる場合があります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的での活用が望ましいです。
参考文献
1. Tomita K et al., A New Preoperative Risk Score for Predicting Postoperative Complications in Elderly Patients Undergoing Hepatectomy. World J Surg. 2021 Jun;45(6):1868-1876.
2. Nakajima H et al., Clinical Benefit of Preoperative Exercise and Nutritional Therapy for Patients Undergoing Hepato-Pancreato-Biliary Surgeries for Malignancy. Ann Surg Oncol. 2019 Jan;26(1):264-272.
3. Yasunaga Y et al., Water Reductive Effect of Lymphaticovenular Anastomosis on Upper-Limb Lymphedema: Bioelectrical Impedance Analysis and Comparison with Lower-Limb Lymphedema. J Reconstr Microsurg. 2020 Nov;36(9):660-666.
4. Yasunaga Y et al., Extracellular Water Ratio as an Indicator of the Development and Severity of Leg Lymphedema Using Bioelectrical Impedance Analysis. Lymphat Res Biol. 2020 Nov 13.
5. Chen LK et al., Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2.
6. Fukuda Y et al., Sarcopenia is associated with severe postoperative complications in elderly gastric cancer patients undergoing gastrectomy. Gastric Cancer. 2016 Jul;19(3):986-93.
7. Hirashima T et al., Extracellular Water-to-total Body Water Ratio as an Objective Biomarker for Frailty in Lung Cancer Patients. Anticancer Res. 2021 Mar;41(3):1655-1662.
8. Lee GH et al., Bioelectrical impedance analysis for predicting postoperative complications and survival after liver resection for hepatocellular carcinoma. Ann Transl Med. 2021 Feb;9(3):190.
9. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997.
10. Yu B et al., Bioelectrical Impedance Analysis for Prediction of Early Complications after Gastrectomy in Elderly Patients with Gastric Cancer: the Phase Angle Measured Using Bioelectrical Impedance Analysis. J Gastric Cancer. 2019 Sep;19(3):278-289.
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