医療活用事例: 高齢者・介護リハビリ
高齢者や介護分野でどのようにInBodyが活用できるのか、見てみましょう。
加齢による筋力・筋肉量減少は、認知機能・身体機能・QOL等の低下を招きます。そのため、早期から適切な栄養評価と介入が重要です。
keyword : サルコペニア / 認知症 / オーラルフレイル / 転倒 / 隠れ肥満
人体は加齢によって様々な機能が低下します。例えば、筋肉を合成する能力は低下し、炎症性因子の増加によって分解される速度は速くなるため、筋肉量が徐々に減少して筋力などの身体機能も低下します。しかし、筋肉量の減少は糖尿病などの生活習慣病だけではなく、老年症候群とされる認知障害・嚥下障害、転倒、怪我や治療後の回復遅延にも繋がり、QOLを低下させるため早期管理が必要です。また、食事による栄養摂取が足りていない場合も多く、栄養状態が低下しやすい傾向があるため、適切な栄養評価と介入が重要となります。
InBodyが提供する全身・部位別筋肉量は高齢者の健康管理の指標及びサルコペニアの診断基準として活用でき、体脂肪率を用いてサルコペニア肥満の評価も可能です。また、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡や栄養状態を評価する指標として使用できます。
筋力は神経系の適応によって比較的短期間でも向上しますが、筋肉量は筋線維そのものが増えて体重が増加する必要があるため、変化には時間を要します。そのため、筋肉量は短期間で一喜一憂せず、2週間から1ヶ月の間隔で測定することが適切です。また、InBodyは体内に微弱な電気を流し、発生した抵抗を計測して体水分量の情報を求め、その情報を基に筋肉量・体脂肪量などを求める機器です。つまり、正確な結果を得るには、体水分の状態が安定していることが重要となります。理学・物理・作業療法など個別リハビリテーションを受ける前や、入浴の前など、体水分が安定しているタイミングで測定する必要があります。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる。定期的にサルコペニア肥満の評価を行う。
BMIが正常でも筋肉量が少ないことで体脂肪率が高い。低筋肉量と高体脂肪量の共存も多い。
下半身の筋肉量が減る傾向が強い。転倒予防のために、下半身筋肉量と左右均衡の維持を心掛ける。
細胞内水分量が減少し、浮腫がなくても細胞外水分比が高くなる。適切な運動と栄養摂取を心掛ける。
中でも筋肉量の減少が目立つ下半身は、細胞外水分比が高くなりやすい。
SMI・ASM/BMI・握力の数値が低くなる。身体機能やADLの維持・向上を目的に包括的なケアと的確な介入を行い、Muscle Healthを高めることを目指す。
*筋肉・筋力評価項目の握力は、握力計InGripをInBodyと連動することで結果用紙やアプリに記録します。
高齢者の筋肉量減少は様々な疾患のリスクを高めます。入院中の誤嚥性肺炎高齢者において、低筋肉量と長期死亡率が関連しているなど¹⁾、筋肉量の低下を防ぐのが高齢者の予後不良の抑止に有効である可能性が示されています。また、全身だけではなく部位ごとに筋肉量を評価することも大切です。非糖尿病高齢者の下肢筋肉量はインスリン抵抗性と関連しており²⁾、下肢筋肉量の低下はインスリン抵抗性を高めるとされています。
筋肉量は運動やリハビリの効果測定にも活用できます。加齢によって筋肉を合成するホルモンの分泌は減少し、40歳前後を境に筋肉の合成よりも分解のスピードが上回るようになります。そのため、高齢者においては筋肉量の増加だけでなく、維持だけでも改善として評価できます。尚、要介護支援の高齢者を対象に週3回のトレーニングを行った結果、1年後に約5.5%の筋肉量増加が認められ³⁾、運動だけでなく栄養介入を加えると3ヶ月で約5.4%も筋肉量が増加したと報告されています⁴⁾。年齢問わず、筋肉量を増やすには摂取量と活動量の両方を増加させることが必要です。
![]()
全身の筋肉量や筋力が低下するサルコペニアの状態は、噛む力(咬合力)や舌圧、食べ物を噛み砕く能力(咀嚼機能)、飲み込む力(嚥下機能)といった口腔機能の多角的な低下と密接な関係があるという報告があります⁷⁾。また、呼吸筋の弱化や体幹筋肉量の減少は、高齢者の肺炎発症における重大なリスク因子になるという報告もあります⁸⁾。全身に加え、体幹など部位別の筋肉量を正しく評価することは、口腔機能や呼吸機能の低下を早期に察知し、肺炎予防や適切な介入に繋がります。
高齢者の転倒リスクは、年齢や認知障害だけでなく、下半身の浮腫、骨格筋量の減少、およびサルコペニアの状態と密接に関連していることが報告されています。解析の結果、これらの身体的要因が1単位悪化するごとに、転倒リスクが段階的に高まる可能性が示唆されています⁹⁾。また、高いBMIや体脂肪量は、高齢者における転倒に対する恐怖感やバランス障害と関連していることも報告されています。実際のバランス能力が低いにもかかわらず転倒恐怖感が低いといった自覚と能力の不一致も、体成分の悪化と関連していることが示唆されています¹⁰⁾。
BMIは体重と身長のみで計算される値であるため、BMIのみでは正しい肥満の評価ができません。BMIが正常な場合の肥満(隠れ肥満、サルコペニア肥満)の見逃しを防ぐため¹³⁾、BMIと体脂肪率を用いて評価することが望ましいです。近年、BMI・体重が正常で体脂肪率が著しく高い「隠れ肥満」が増加傾向にあります。これは若年女性や運動不足の成人のみならず、高齢者においても同様です。数値上の「標準体型」に隠れた肥満のリスクは、世代を問わず広がっています。筋肉が少ない肥満は非アルコール性脂肪肝(MASLD)のリスクを高めたり¹⁴⁾、心血管疾患のリスクを高めたりする¹⁵⁾などの報告があり、体脂肪率を確認することは正しい肥満の評価はもちろん、疾患の予防や予後にも大きく関わります。
また、筋肉量と体脂肪率を一緒に見ることで、サルコペニアよりも様々な疾患リスクを高めるサルコペニア肥満の評価ができます。日本のサルコペニア肥満診断アルゴリズムでは、サルコペニアは四肢骨格筋量をBMIで除したASM/BMIが用いられ、肥満は体脂肪率で評価します¹⁶⁾。それぞれのカットオフは以下の通りです。
【サルコペニアのカットオフ】 男性<0.789kg/BMI、女性<0.512kg/BMI
【肥満のカットオフ】 男性≧20%、女性≧30%
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価できます。健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されますが、疾患によって浮腫などが現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。体水分は筋肉を構成する主な成分であるため、うっ血や浮腫によって体内に貯留した余分な水分は筋肉量として数値に表れます。その結果、筋肉量が実際よりも多く測定されます。一方、高齢者においては特に浮腫がなくても加齢による筋肉量の減少が原因で、主にICWが減ることで水分均衡が崩れ、ECW/TBWが高値になることもあります(下図中の▲)。この場合の筋肉量や体脂肪量はそのまま評価することができます。
ECW/TBWは体の状態を最も敏感に反映する指標で、近年はECW/TBWが身体機能(握力・歩行速度)と相関しているとの報告¹⁷⁾もあり、筋肉量が変化していない場合において運動の効果を確認できる指標であることが示唆されています。また、高齢入院患者のADLsとECW/TBW・SMIとの関連を検討した結果、ECW/TBWの方がADLsの評価に有用であることが示唆されています¹⁸⁾。
*SMI(四肢骨格筋量の合計÷身長(m)²)のカットオフは 「Chen, LK. et al. Nat Aging. 2025 Nov;5(11):2164-2175」 から引用
*ECW/TBWのカットオフは 「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」 から引用
InBodyの結果用紙から提示する標準範囲は身長と性別から決定される標準体重に対する理想値であるため、高齢者の方が標準値に達することは容易ではありません。しかし、一部上位機種で提供する評価結果用紙(Zスコア)やInBody Touchでは、弊社クラウドデータ上の同年代と結果を比較することが可能です。また、InBody Big Dataの一部を抜粋してまとめた健常者の体成分統計資料も別途資料で提供しており、自分の年代平均に対する体成分の過不足も確認することができます。(当資料が必要な方はお問合せください。)
RFITは「オーダーメイド・フィットネス」という運動プログラムを提供しており、プログラム構築や効果確認のシーンでInBody770を活用しています。実際に、通所開始当時は体重も筋肉量も低いことが課題であった利用者も、プログラムを継続して実施していく中で改善が見られました。
![]()
2年間で筋肉量は1.6kg増加させながら、ECW/TBWは0.006減少しています。これは「水分均衡を改善しつつ筋肉を増やせた」という非常にポジティブな変化として評価できます。また、InBodyで測定した体成分と身体機能を併せて評価することで、サルコペニアやフレイルなどの早期発見にも繋がります。利用者自身が感じた変化が客観的なデータで裏付けられることで、運動の効果に納得でき、モチベーション向上にも繋がっています。
神戸労災病院には「要介護になる一歩手前の状態であるフレイルを専門的にサポートする」フレイル外来があります。フレイルを予防・改善する中で、体の状態を正確に把握し詳細なアドバイスを提供するため、InBody720が活用されています。実際に、初診時は極端な痩せ型であった高齢患者も、ベジタリアンという個人の志向に合わせた綿密な栄養指導やケアにより、改善の傾向が確認できました。
![]()
3年間で筋肉量が2.7kg増加、体脂肪量が2.2kg減少と体成分のバランスが改善しています。全身ECW/TBWは0.018も大幅に減少していることから、水分均衡も改善していることがわかります。 同じデータから医療従事者と患者が一緒に治療効果を確認でき、数値の変化に対する認識や感情を共有できるコミュニケーションツールとしても活用されています。
参考文献
1. Maeda K, Akagi J. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. J Am Geriatr Soc. 2017 Jan;65(1):e18-e22.
2. Seko T et al., Lower limb muscle mass is associated with insulin resistance more than lower limb muscle strength in non-diabetic older adults. Geriatr Gerontol Int. 2019 Dec;19(12):1254-1259.
3. Yamada M et al., Effect of resistance training on physical performance and fear of falling in elderly with different levels of physical well-being. Age Ageing. 2011 Sep;40(5):637-41.
4. Yamada M et al., Nutritional Supplementation during Resistance Training Improved Skeletal Muscle Mass in Community-Dwelling Frail Older Adults. J Frailty Aging. 2012;1(2):64-70.
5. Ogawa Y et al., Sarcopenia and Muscle Functions at Various Stages of Alzheimer Disease. Front Neurol. 2018 Aug 28;9:710.
6. Ma W., Relationship between obesity-related anthropometric indicators and cognitive function in Chinese suburb-dwelling older adults. PLoS One. 2021 Oct 27;16(10):e0258922.
7. Kugimiya Y et al., Association between sarcopenia and oral functions in community-dwelling older adults: A cross-sectional study. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Feb;14(1):429-438.
8. Okazaki T et al., Respiratory Muscle Weakness as a Risk Factor for Pneumonia in Older People. Gerontology. 2021;67(5):581-590.
9. Zhang K et al., Correlation analysis between body composition, serological indices and the risk of falls, and the receiver operating characteristic curve of different indexes for the risk of falls in older individuals. Front Med (Lausanne). 2023 Jul 25;10:1228821.
10. Thiamwong L et al., Body composition, fear of falling and balance performance in community-dwelling older adults. Transl Med Aging. 2023;7:80-86.
11. Chen LK et al., A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025.
12. Maeda K, Takaki M, Akagi J. Decreased Skeletal Muscle Mass and Risk Factors of Sarcopenic Dysphagia: A Prospective Observational Cohort Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017 Sep 1;72(9):1290-1294.
13. Lin CL et al., Association of Body Composition with Type 2 Diabetes: A Retrospective Chart Review Study. Int J Environ Res Public Health. 2021 Apr 21;18(9):4421.
14. Liu S et al., Association of muscle mass, grip strength and fat-to-muscle ratio and metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease in a middle-to-elderly aged population. Ann Med. 2024 Dec;56(1):2390169.
15. Sandbakk SB et al., Combined Association of Cardiorespiratory Fitness and Body Fatness With Cardiometabolic Risk Factors in Older Norwegian Adults: The Generation 100 Study. Mayo Clin Proc Innov Qual Outcomes. 2017 May 12;1(1):67-77.
16. Ishii K et al. Diagnosis of sarcopenic obesity in Japan: Consensus statement of the Japanese Working Group on Sarcopenic Obesity. Geriatr Gerontol Int. 2024 Oct;24(10):997-1000.
17. Akemi Hioka et al., Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition 86(2021) 111175
18. Akazawa N et al., Extracellular water-to-total body water ratio and its relationship with activities of daily living in older inpatients in a convalescent setting. Nutrition. 2026 Feb;142:112965