消化器分野におけるInBody活用
肝硬変患者は肝機能の低下による体内のアルブミン減少が原因で浮腫が発生しやすく、過剰な水分を除去して安定した水分均衡を保つ治療が必要です。また、肝臓がうまく働かなくなると食事から十分なエネルギーを確保できず、筋肉量は減少してしまうので、栄養介入を行いながら筋肉量の維持・改善を目指すことも大切です。
ここで、InBodyが提供する細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡の評価に主に使用される項目であり、筋肉量や体細胞量などの項目は栄養状態や重症度の評価に活用されます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
体幹と下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
位相角が低くなる
体内で電気が流れない位置に存在する水分は体脂肪として測定
InBodyは体内に微弱な電気を流して、その際に発生するインピーダンスから体水分を算出します。しかし、電気がうまく通過しない位置に存在する水分は非伝導体として測定されるので、胃腸・膀胱・羊膜・腹膜・胸膜の中の重さは体脂肪として結果に反映されます。例えば、腹膜内の腹水が増えると体脂肪量は増加し、ドレナージによる除水を行うと体脂肪量は減少します。一方、その除水に伴って体幹・下半身ではECW/TBWの改善が見られますが、これは腹膜周辺における筋肉組織の過水和(Over Hydration; OH)の改善を現わしており、直接的に腹水の減少を示しているわけではありません。つまり、腹水の定量的変化は体脂肪量から把握でき、その程度はECW/TBWから間接的に評価できます。
浮腫によって筋肉が水増しされる
腹水の重さは体脂肪量として反映される
下半身の筋肉が水増しされ、細胞外水分比も高くなる
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
腹水の位置する体幹の細胞外水分比が高くなる
水増し状態の筋肉から求められた骨格筋量・SMIなどは参考しない
筋肉の水増しが改善され、筋肉量が減少する
腹水の減少は体脂肪量の減少として反映される
下半身の浮腫が改善され、下半身筋肉の水増しが改善される
水分均衡が改善され、全身の細胞外水分比が低くなる
腹水が減少した体幹組織の細胞外水分比が低くなる
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、アルブミンの低下とともに浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。肝疾患は進行すると様々な合併症を引き起こす可能性があり、前述の通り、特に腹水は体幹・下半身のECW/TBWに間接的な影響を及ぼし、患者の死亡率を高めてしまいます。
この時、ECW/TBWは腹水が現れていない患者の腹水出現の予測に役立つ指標です¹⁾。また、肝線維症や栄養状態の悪化など重症度を示す指標としても有用に使用できます²⁾。一般的に、浮腫の治療では利尿剤を投与することが多いですが、既存のものは脱水や電解質異常などの副作用が心配されます。しかし、非代償性肝硬変患者における長期間のトルバプタン治療は、深刻な有害事象が発生することなく、主にECWを減少させる形でECW/TBWを改善させることができます³⁾。
全身と部位別に提供される筋肉量の情報は、栄養状態の評価だけでなく、サルコペニアの診断にも活用できます。特に生体肝移植は侵襲的な手術だけにサルコペニアになりやすく、それが術後死亡率を高めるリスク因子となってしまいます⁴⁾。しかし、周術期の栄養療法は患者の生存率向上に繋がるので、移植待ち患者には適切な経路から栄養を投与して、栄養状態を改善させる努力が必要です。
一方、強い浮腫が発生すると、筋組織は過水和(OH)状態となって筋肉が水増しされるので、浮腫がある状態で測定された筋肉量は栄養状態やサルコペニア評価に適していません。通常、ドライな状態の筋肉量を評価するときのカットオフ値としてECW/TBW<0.400が使用されますが、実はECW/TBWは浮腫だけではなく、細胞の老化・栄養状態の悪化に伴うICW(Intracellular Water; ICW)の減少によって高まることも多いので、下記図のような見方が必要です。ただ、浮腫がある方においても腕は浮腫の影響を比較的受けにくく、ドライな状態の筋肉量として栄養状態やサルコペニア評価に用いることができます⁵⁾。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
体細胞量はエネルギー代謝に関与する細胞のタンパク質とICWの合計から構成されており、栄養状態・身体活動程度・疾患有無などを反映するバイオマーカーとして活用されています。浮腫の影響で主に増加するECWが除外されている情報なので、浮腫の影響を比較的受けにくい項目として評価できます。また、筋肉量とある程度の比例関係にあるため、肝硬変患者では有意に減少しやすく、栄養状態を現わす指標の一つとして管理する必要があります。
一方、体細胞量はMELDスコアと密接に関連しており、重症度の評価に役立ちます⁶⁾。更に、免疫力が低下する侵襲的な手術においては、低い体細胞量が術後の死亡率を高めてしまいます⁷⁾。そのため、生存率の向上を目標に、手術前から徹底した栄養管理を行って体細胞量の維持・改善を目指すことが望ましいです。
参考文献
1. Nagisa Hara et al., Value of the extracellular water ratio for assessment of cirrhotic patients with and without ascites. Hepatology Research 2009; 39:1072-1079
2. Kyohei Kishino et al., Association of an overhydrated state with the liver fibrosis and prognosis of cirrhotic patients. in vivo 34: 1347-1353 (2020)
3. Tomomi Kogiso et al., Safety and efficacy of long-term tolvaptan therapy for decompensated liver cirrhosis. Hepatology Research 2016 Mar;46(3): E194-200
4. T. Kaido et al., Impact of sarcopenia on survival in patients undergoing living donor liver transplantation. American Journal of Transplantation 2013 Jun; 13(6):1549-56
5. Motoh Iwasa et al., Evaluation and prognosis of sarcopenia using impedance analysis in patients with liver cirrhosis. Hepatology Research 2014; 44: E316–E317
6. Takumi Kawaguchi et al., Body cell mass is a useful parameter for assessing malnutrition and severity of disease in non-ascitic cirrhotic patients with hepatocellular carcinoma or esophageal varices. International Journal of Molecular Medicine 2008; 22:589-594
7. Toshimi Kaido et al., Impact of pretransplant nutritional status in patients undergoing liver transplantation. hepatogastroenterology 2010 Nov-Dec;57(104):1489-92
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