医療活用事例: 循環器
循環器分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : 心不全 / 生活習慣病 / うっ血 / 心リハ / 水分管理
心不全患者は心機能の低下で血液を全身に循環させることがうまくできなくなり、体内でうっ血や浮腫が起こりやすく、余分に溜まった水分を除去して安定した水分均衡を維持することを目的とする治療が必要です。また、心不全を患っている状態では活動量低下や食欲不振などが原因で筋肉量が減少しやすいので、心臓リハビリテーション(心臓リハ)を行いながら筋肉量を維持・改善することも大切です。更に、心血管疾患は肥満・高脂血症・高血圧などの生活習慣病に起因することが多いため、適切な体脂肪量を維持して再発リスクを下げる努力も必要です。
ここで、InBodyが提供する細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡の評価に主に使用される項目であり、筋肉量・体脂肪量・位相角などの項目は栄養状態や心臓リハによる効果の評価に活用されます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
筋肉量の減少により、体脂肪率が高い
水分均衡が徐々に崩れるため、細胞外水分比もやや高めになる
下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
浮腫が強くない状態での骨格筋量・SMIなどは参考できる
心臓ペースメーカのような植込み型医療機器との併用は禁忌事項として定められています。InBodyは体内に微弱な電気を流してインピーダンスを計測する機器であるので、体内に位置する電子機器が何らかの影響を受けることを予防するための措置です。
勿論、InBodyが採用しているBIA技術はとても安全で、1981年に初めて商業化されて以来1件の医療事故も報告されておらず、海外では医師立会いの下でペースメーカの患者を測定し、安全性を検証した論文も発表されています¹⁾。従って、誤ってペースメーカ患者を測定してしまったときは、慌てずに経過を観察して次回から測定しないようにしてください。
全身浮腫によって筋肉が水増しされる
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
多量の輸液を行う部位は筋肉量(水分量)が増加し、細胞外水分比も更に高くなる
水増し状態の筋肉から求められた骨格筋量・SMIなどは参考しない
位相角が低くなる
筋肉の水増しが改善され、筋肉量が減少する
水分均衡が改善され、全身の細胞外水分比が低くなる
上半身の細胞外水分比がより改善する傾向が強い
下半身の筋肉量が減少する傾向がある
位相角が高くなる
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合を意味するECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、心機能の低下に伴ってうっ血や浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。特に急性心不全患者は体重が急激に増加するほどのうっ血が現れますが、その際に体内から除去すべき水分量を予測することは難しく、余分な水分が残っている状態では治療後でも再発のリスクが高まります。
この時、ECW/TBWはうっ血の除去に必要な体重減少量の予測に活用でき、作成された予測式の変数として組み込まれています²⁾。また、心不全患者の予後を予測して介入を判断する指標としても有用に使用されています。通常、カットオフ値としては0.400を採用することが多いですが、潜在的に心不全のリスクを持っている患者を特定するにおいて、0.390以上が悪い予後に繋がりやすいことが報告されています³⁾。それから急性心不全で治療を受けて退院した患者をモニタリングしながら適切な水分均衡を維持させるための薬物療法や運動・食事療法は、患者の死亡・再入院のリスクを明らかに減少させます⁴⁾。
筋肉と体脂肪は定量的な評価だけでなく、体重に対する両者の均衡程度も一緒にモニタリングする必要があります。標準体重であっても筋肉量が少なくて体脂肪量は多い、サルコペニア肥満の事例をよく見かけるためです。しかし、心不全患者における高い筋肉量は生存率を向上させるので⁵⁾、心臓リハでは筋肉量の維持・増加を目標にし、潜んでいるリスクを低減させる必要があります。また、高感度C反応性タンパク(CRP)は心血管疾患の強い独立危険因子であり、体脂肪率はこの数値と最も高く相関することから⁶⁾、体脂肪率の改善も同時に目指すことが望ましいです。
一方、強い浮腫では筋組織が過水和(Over Hydration; OH)状態となって筋肉が水増しされるので、浮腫の強い状態で測定された筋肉量は栄養状態やサルコペニア評価に適していません。ここで、ECW/TBW<0.400をドライ状態の筋肉量を評価するためのカットオフ値として活用される場合がありますが、実はECW/TBWは浮腫だけではなく、細胞の老化・栄養状態の悪化に伴う細胞内水分(Intracellular Water; ICW)の減少によって高まることも多いので、下記図のような見方が必要です。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
位相角(Phase Angle; PA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁷⁾。 そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角はこのような特徴から、筋肉量の変化よりも栄養状態の改善に敏感に反応するため、筋肉量の増加が見えにくい疾患者や高齢者などの栄養評価に有用です。心臓手術を受けた患者の位相角は術後の虚弱や死亡率と関連しており、低い位相角は入院期間を長くさせ、術後の罹患率と死亡率を高めてしまいます⁸⁾。また、入院心血管疾患者の位相角はサルコペニア・低栄養・悪液質など有用な栄養状態の指標として報告されており⁹⁾、浮腫症例では水増しされた筋肉量に代わる栄養状態の指標として位相角を活用することができます。
一方、位相角は加齢に伴い減少する傾向があり、麻痺や怪我などの損傷も細胞の弱体化または生理的機能を低下させるため、これらの部位の位相角も減少します。この変化とともに、位相角と極めて強い逆相関を持つECW/TBWは増加します。どちらも栄養状態を反映する指標のため、組み合わせて評価するとより重度の高い患者を分類することができます。
但し、位相角は実測値としてBIA機器の電極が触れる位置によっても値が異なります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的に活用するほうが望ましいです。
参考文献
1. Eric Bush et al., Effect of bioimpedance body composition analysis on function of implanted cardiac devices. PACE 2012; 35:681 684
2. Masahiro Yamazoe et al., Edema index measured by bioelectrical impedance analysis as a predictor of fluid reduction needed to remove clinical congestion in acute heart failure. International Journal of Cardiology 201 (2015) 190–192
3. Kristin J. Lyons et al., Noninvasive bioelectrical impedance for predicting clinical outcomes in outpatients with heart failure. Crit Pathways in Cardiol 2017;16: 32–36
4. Min-Hui Liu et al., Edema Index-guided disease management improves 6-month outcomes of patients with acute heart failure. Int Heart J 2012; 53:11-17
5. Elizabeth Thomas et al., Bioelectrical impedance analysis of body composition and survival in patients with heart failure. Clin Cardiol. 2019 Jan;42(1):129-135
6. Soo Lim et al., The relationship between body fat and C-reactive protein in middle-aged Korean population. Atherosclerosis 184 (2006) 171–177.
7. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997.
8. Louis Mullie et al., Phase angle as a biomarker for frailty and postoperative mortality: The BICS study. J Am Heart Assoc. 2018 Sep 4;7(17): e008721
9. Suguru Hirose et al., Phase angle as an indicator of sarcopenia, malnutrition, and cachexia in inpatients with cardiovascular diseases. J. Clin. Med. 2020, 9, 2554
*各項目に関する詳細は別途資料がございますので、必要な場合はお問合せください。