医療活用事例: 呼吸器
呼吸器分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : COPD / 肺がん / 胸水 / 肺炎 / 呼吸リハ
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、健常者に比べて呼吸に消費されるエネルギーが多い反面、摂取エネルギーは食欲不振で少なくなりやすいので、筋肉量が減少して栄養状態が悪くならないように管理する必要があります。また、過剰な体脂肪量は呼吸を妨げる要因である上に、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を招く恐れがあるので、肥満患者においては体脂肪量の減少に努めることも大切です。一方、肺がんの場合は、胸膜の炎症で胸水が発生しやすく、過剰な水分を除去して安定した水分均衡を保つ治療も重要です。
ここで、InBodyが提供する筋肉量や体脂肪量は栄養状態や呼吸リハビリテーション効果を評価する指標として活用でき、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡を評価する項目として使用されます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
筋肉量の減少、または体脂肪量の増加によって体脂肪率が高い
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比がやや高くなる
下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
InBodyは体内に微弱な電気を流し、その際に発生するインピーダンスから体水分を算出します。しかし、電気が上手く流れない部位に位置する水分は非伝導体として体脂肪量に反映されます。その代表的な例が、胸水・腹水・羊水(胎児含む)・胃腸内水分であり、胸水の変動は主に体脂肪量の増減として表れます。そのため、治療に伴って胸水を含む体幹・下半身の浮腫が改善されると、胸水の減少は体脂肪量の減少、胸水以外の過剰水分の減少は細胞内・外水分量の減少やECW/TBWの改善として表れます。また、水分の減少は筋肉量の減少としても表れますが、これは筋肉組織の過水和(Over Hydration)状態が改善されることを意味します。
浮腫によって筋肉が水増しされる
胸水の重さは体脂肪量として反映される
下半身の筋肉が水増しされ、細胞外水分比も高くなる
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比がやや高くなる
胸水が位置する体幹の細胞外水分比が高くなる
水増し状態の筋肉から求められた骨格筋量・SMIなどは参考しない
筋肉の水増しが改善され、筋肉量が減少する
胸水の減少は体脂肪量の減少として反映される
下半身の浮腫が改善され、下半身筋肉の水増しが改善される
水分均衡が改善され、全身の細胞外水分比が低くなる
胸水が減少した体幹組織の細胞外水分比が低くなる
まだ高い細胞外水分比は浮腫でなく、栄養状態の悪化(細胞内水分量の減少)によるもののため、骨格筋量・SMIなどは参考できる
筋肉と体脂肪は定量的な評価に加え、両者の均衡程度も一緒にモニタリングする必要があります。特にCOPDは低栄養状態になりやすく筋肉量が少ない傾向がある反面、体脂肪量は過剰になりやすいためです。
先ず、サルコペニアは呼吸機能と関連しており¹⁾、呼吸機能の衰えに伴う身体活動量の低下は低栄養を進行させる悪循環に繋がります。また、加齢に伴って筋肉量が減ることは自然な現象ですが、高齢患者におけるこのような体成分の変化は肺炎発症のリスク因子であり²⁾、誤嚥性肺炎を患う方の死亡率を高めてしまいます³⁾。
次に、COPD患者の肥満は、呼吸機能や横隔膜の動きに影響して呼吸困難を増長させる要因であり⁴⁾、過剰な体脂肪量と生活習慣病の関係性はこれまで多様な文献によって明らかにされています。従って、体脂肪量を適切に管理することは息苦しさの改善や併存症のリスク低減に繋がり、その治療では抵抗運動を伴う摂取エネルギー制限が効果的であると報告されています⁵⁾。
健常者における筋肉量は部位別に均衡よく発達している一方で、COPD患者の場合は身体活動量の低下が下肢筋肉量を減少させ、上下の筋肉不均衡を招くことがあります。下半身の筋肉は歩行機能と深く関連しており、その減少は転倒や関節炎⁶⁾の要因であります。また、高齢患者のインスリン抵抗性を増大させるだけではなく⁷⁾、糖尿病患者の動脈硬化を発症させるなどのリスクに繋がる恐れがあります⁸⁾。そのため、リハビリの際は下肢筋肉量を中心にモニタリングしながら、上下の筋肉均衡を維持する必要があります。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合を意味するECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、肺がんによる胸水の影響で浮腫が発生すると、主にECWが増える形で水分均衡は崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。この時、ECW/TBWは肺がん患者のフレイルを発見することに役立ち⁹⁾、化学療法または免疫チェックポイント阻害薬治療への耐久性を予測することにも活用できます¹⁰⁾。
また、強い浮腫が発生すると、筋組織は過水和状態となって筋肉が水増しされることを説明していますが、浮腫がある状態で測定された筋肉量は栄養状態やサルコペニア評価に適していません。通常、ドライな状態の筋肉量を評価するときのカットオフ値としてECW/TBW<0.400が使用されますが、実はECW/TBWは浮腫だけではなく、細胞の老化・栄養状態の悪化に伴うICW(Intracellular Water; ICW)の減少によって高まることも多いので、下記図のような見方が必要です。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
参考文献
1. Olgun Deniz et al., Diaphragmatic muscle thickness in older people with and without sarcopenia. Aging Clin Exp Res. 2020 May 13
2. Tatsuma Okazaki et al., Respiratory muscle weakness as a risk factor for pneumonia in older people. Gerontology. 2021 Feb 23; 1-10
3. Keisuke Maeda and Junji Akagi. Muscle mass loss is a potential predictor of 90-day mortality in older adults with aspiration pneumonia. J Am Geriatr Soc. 2017 Jan;65(1): e18-e22
4. Tamao Takahashi. Dyspnea in obesity and rehabilitation. Jpn J Rehabil Med. 2017(54): 961-964 (Not Using InBody)
5. Vanessa M. Mcdonald et al., Should we treat obesity in COPD? The effects of diet and resistance exercise training. Respirology. 2016 Jul;21(5): 875-82
6. Yoshitaka Toda. The effect of energy restriction, walking, and exercise on lower extremity lean body mass in obese women with osteoarthritis of the knee. J Orthop Sci. 2001(6): 148–154
7. Toshiaki Seko et al., Lower limb muscle mass is associated with insulin resistance more than lower limb muscle strength in non-diabetic older adults. Geriatr Gerontol Int. 2019 Dec;19(12): 1254-1259
8. Yuji Tajiri et al., Reduction of skeletal muscle, especially in lower limbs in Japanese type 2 diabetic patients with insulin resistance and cardiovascular risk factors. Metabolic Syndrome and Related Disorders. 2010 Apr;8(2): 137-42
9. Tomonori Hirashima et al., Extracellular water-to-total body water ratio as an objective biomarker for frailty in lung cancer patients. Anticancer Research. 2021(41): 1655-1662
10. Yoshimi Noda et al., The association between extracellular water-to-total body water ratio and therapeutic durability for advanced lung cancer. Anticancer Research. 2020(40): 3931-3937
*各項目に関する詳細は別途資料がございますので、必要な場合はお問合せください。