医療活用事例: 糖尿病
糖尿病分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : インスリン抵抗性 / SGLT2阻害薬 / 生活習慣病 / 肥満
糖尿病の主な治療目的は血糖値を正常に保つことであり、その治療において体成分はとても重要な指標の1つです。例えば、糖尿病の患者はインスリンが十分に作用しなくなることが原因で、体はブドウ糖の代わりに筋肉を分解して活動に必要なエネルギーを生成しようします。そのため、治療の際は筋肉量の減少を防ぎつつインスリンの作用を改善させる介入が必要です。また、過多な体脂肪量は高血圧や脂質異常症などを併発しやすくし、最終的に心血管疾患に繋がる恐れがあるので、合わせて体脂肪量を減少させる努力も大切です。更に、主な合併症である糖尿病性腎症では、腎機能の低下によって浮腫が起こりやすく、余分に溜まった水分を除去して水分均衡を安定させる治療も必要になります。
ここで、InBodyが提供する筋肉量や体脂肪量は栄養状態や治療効果を評価する指標として活用でき、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡を評価する項目として使用されます。
筋肉量が標準でも体脂肪量は過多になる
BMIと体脂肪率の両方が高い
下半身の筋肉量が減る傾向が強い
腎機能の低下に伴って細胞外水分比が高くなる
下半身の筋肉量が弱まり、上下均衡が崩れる
ペースメーカのような植込み型や心電図のような装着型の医療機器との併用は、禁忌事項として定められています。その中で心電図を禁忌事項としている理由は、ペースメーカのように安全性に直接関与するためではなく、心電図がInBodyからの電流を心臓の電気信号と一緒に拾ってしまうことを防ぐための措置です¹⁾。しかし、持続血糖測定器のセンサー及びリーダーは心電図のように体内の電気信号を利用するものでないので、安全性と信頼性のどちらも問題ありません。但し、リーダーでセンサーをスキャンする時に限っては、InBodyからの電流がセンサーの誤作動を引き起こす恐れがあるので、InBody測定の最中はリーダーを操作しないでください。
筋肉と体脂肪は定量的な評価に加え、体重に対する両者の均衡程度も一緒にモニタリングする必要があります。2型糖尿病患者は筋肉量が減少しやすい反面、既に体脂肪量は過剰であることが多く、このような体成分の特徴はインスリン抵抗性に関係する重要な因子であります。そのため、体脂肪量に対する筋肉量の割合(筋肉/脂肪)を評価することは、まだ糖尿病の治療を受けていない患者におけるインスリン抵抗性の増大を予測することに役立ち¹⁾、同じ指標が肝臓の脂肪蓄積と相関していることから脂肪肝の推定にも役立ちます²⁾。
また、インスリン抵抗性の増大によって糖代謝が長期間阻害され続けると、他の部位より骨格筋の多い下半身筋肉の分解を早め、それが原因で動脈硬化のリスクが高まります³⁾。勿論、加齢に伴って筋肉量が減っていくことは自然な現象ですが、2型糖尿病の患者では健常者に比べてより激しく筋肉量が減少するので注意が必要です⁴⁾。筋肉量の低下は再び血糖コントロールの悪化に繋がり⁵⁾、心臓・肝臓・腎臓などに係る合併症を引き起こす可能性があり、低い筋肉量は腎疾患や低アルブミン血症のリスクを高めるため、筋肉量を維持・増加させることは合併症の防止に繋がります⁶⁾。
一方、肥満症例における過剰な体脂肪量は、高い血糖・脂質・血圧の危険因子であることは既に様々な媒体で報告されているので、体脂肪量は糖尿病患者が日頃の食事・運動療法に取り組むための基本的な指標であります。特に妊婦の場合は糖尿病が母体及び胎児に危険をもたらすだけに早期発見が重要ですが、妊娠初期の体脂肪指数は妊娠中期・後期のリスクを予測するのに有用です⁷⁾。
基礎代謝量は安静時の生命維持で消費されるエネルギー量を意味し、InBodyは下記のカニンガム公式を使用して間接的に求めた値を提供します。この公式は除脂肪量・筋肉量が基礎代謝量と高く相関するという理論に基づいているため、年齢・性別・身長・体重などの変数の影響を受けることなく基礎代謝量を求めます。
【公式】 基礎代謝量=370+21.6×除脂肪量
糖尿病患者は常にバランスの良い食事を心掛ける必要があり、摂取するエネルギー量を調節してインスリン作用や血糖コントロールの改善を目指します。その食事療法では一日に必要な総エネルギー摂取量を決定する必要がありますが、当項目に身体活動係数を掛けて計算する値も一つの目安として参考できます。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合を意味するECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、腎臓や血管の障害で浮腫が発生すると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。特に糖尿病性腎症は浮腫が現れやすく、余分な水分は心機能の悪化や網膜症に繋がるので、薬物療法を用いて除去することがあります。この時にECW/TBWは浮腫を評価する指標として活用されます。近年、血糖降下のためにSGLT2阻害薬が使用されますが、この薬は利尿作用の効果も期待でき、主にECWの減少に伴うECW/TBWの改善が短期間で現れると報告されています⁸⁾。更に、まだ腎臓機能が低下していない場合でも、ECW/TBWが0.400を超える患者において腎疾患の発症リスクが高くなるため⁹⁾、ECW/TBWが高い患者に関しては前もって管理することが重要です。
また、ECW/TBWは浮腫が生じたときだけ高くなるわけでなく、健常者であっても加齢に伴って体細胞量が減ると、体細胞量の構成成分であるICWの減少が水分均衡の崩れに繋がります10)。糖尿病患者の場合、筋肉量の減少が激しいだけに病状の進行と共に浮腫と関係なくECW/TBWが高くなる恐れがあるので、筋肉量・体脂肪量と一緒にECW/TBWもモニタリングする必要があります。
参考文献
1. Noboru Kurinami et al., Correlation of body muscle/fat ratio with insulin sensitivity using hyperinsulinemic-euglycemic clamp in treatment-naı¨ve type 2 diabetes mellitus. diabetes research and clinical practice 120 (2016)65–72
2. Noboru Kurinami et al., Ratio of muscle mass to fat mass assessed by bioelectrical impedance analysis is significantly correlated with liver fat accumulation in patients with type 2 diabetes mellitus. diabetes research and clinical practice 139 (2018) 122–130
3. Yuji Tajiri et al., Reduction of skeletal muscle, especially in lower limbs in Japanese type 2 diabetic patients with insulin resistance and cardiovascular risk factors. Metabolic Syndrome and Related Disorders 2010 Apr;8(2):137-42
4. Seok won park et al., Excessive loss of skeletal muscle mass in older adults with type 2 diabetes. Diabetes Care 32:1993–1997, 2009. (Not Using InBody)
5. Yuki Someya et al., Characteristics of Glucose Metabolism in Underweight Japanese Women. Journal of the Endocrine Society Volume 2, Issue 3, 1 March 2018, Pages 279–289 (Not Using InBody)
6. Low S, Pek S, Moh A, Khin CYA, Lim CL, Ang SF, Wang J, Ang K, Tang WE, Lim Z, Subramaniam T, Sum CF, Lim SC. Low muscle mass is associated with progression of chronic kidney disease and albuminuria – An 8-year longitudinal study in Asians with Type 2 Diabetes. Diabetes Res Clin Pract. 2021 Apr;174:108777
7. Yanping Liu et al., The body composition in early pregnancy is associated with the risk of development of gestational diabetes mellitus late during the second trimester. Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy 2020:13 2367–2374
8. Takahiro Masuda et al., Sodium-glucose cotransporter 2 inhibition with dapagliflozin ameliorates extracellular volume expansion in diabetic kidney disease patients. POJ Diabetes Obes.1(1):1-8(2017)
9. Low S, Pek S, Liu YL, Moh A, Ang K, Tang WE, Lim Z, Subramaniam T, Sum CF, Lim CL, Ali Y, Lim SC. Higher extracellular water to total body water ratio was associated with chronic kidney disease progression in type 2 diabetes. J Diabetes Complications. 2021 Jul;35(7):107930
10. Y. Ohashi et al., The associations of malnutrition and aging with fluid volume imbalance between intra- and extracellular water in patients with chronic kidney disease. The journal of nutrition, health & aging, February 2015
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