脳神経分野におけるInBody活用
脳卒中は侵襲性の高い疾患であり、意識・神経関連の後遺症は食事摂取に影響して低栄養を進行させやすく、治療の際は筋肉量の減少を防ぐ栄養管理がとても重要です。また、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病は脳卒中のリスク因子である上に再発率を高めるので、治療後も体脂肪量を減少させる努力が大切です。更に、脳卒中患者における激しい体重減少は体細胞量の損失に伴う水分均衡の崩れを招く恐れがあり、水分均衡も他の指標と同様にモニタリングする必要があります。
ここで、InBodyが提供する筋肉量・体脂肪量・位相角などは栄養状態やリハビリテーション効果を評価する指標として活用でき、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡を評価する項目として使用されます。
筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
下半身の筋肉量が減少しやすい
麻痺の部位は筋肉量がより少ない傾向がある
水分均衡が崩れ、細胞外水分比が高くなる
体細胞量が減少する
位相角が低くなる
麻痺による拘縮がある場合、測定結果の解釈に注意
後遺症の麻痺が原因で片半身または四肢の一部が拘縮すると、測定時に正しい姿勢を維持しにくくなります。しかし、InBodyは体内に微弱な電流を流して計測したインピーダンスから体水分量を算出するので、身体の一部が曲がった状態で測定を行うと、その角度によっては該当部位のインピーダンスが変わり、体成分も不正確になる恐れがあります。もし拘縮が酷くて正しい結果が得られない場合、測定値はモニタリングを目的に活用していただく必要があります。
筋肉と体脂肪は定量的な評価だけではなく、体重に対する両者の均衡程度も一緒に確認する必要があります。脳卒中では摂取量の減少によって筋肉量が急激に減る反面、相対的に体脂肪量は過剰になりやすいためです。
先ず、筋肉量の減少は、回復期リハビリによる機能回復を妨げて退院率を低下させてしまいます¹⁾。そのため、脳卒中患者のリハビリは発症直後からの実施が推奨されており、これは廃用性症候群の予防にも繋がります。また、嚥下障害はサルコペニアと関連しており²⁾、嚥下障害による栄養不良はサルコペニアを進行させる要因になり得ると予想できます。
次に、脳卒中は再発しやすいだけに、リスク因子の治療がとても重要です。生活習慣病はリスク因子の1つであり、過剰な体脂肪量との関係性が過去から様々な文献によって報告されています。そのため、体脂肪量を適切に管理することは再発リスクの低減に繋がります。
健常者における筋肉量は部位別に均衡よく発達している一方、脳卒中患者の場合は後遺症の影響で上下・左右の筋肉量が不均衡になる傾向があります。特に要介護状態に伴う歩行困難は主に下肢筋肉量を減少させ、転倒や関節炎³⁾を引き起こすだけでなく、高齢患者におけるインスリン抵抗性の増大⁴⁾や糖尿病患者における動脈硬化の発症⁵⁾など、更なるリスクに発展することがあります。また、片半身麻痺が原因で左右筋肉量の均衡が崩れると、身体の歪みが生じて内臓圧迫や血行不良などの様々な身体の問題に繋がる恐れがあります。そのため、リハビリの際は全身に加え、部位別に筋肉量をモニタリングする必要があります。
位相角(Phase Angle; PA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁶⁾。 そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角はこのような特徴から、筋肉量の変化よりも栄養状態の改善に敏感に反応するため、筋肉量の増加が見えにくい疾患者や高齢者などの栄養評価に有用であり、身体機能と関連していることから回復期におけるリハビリ効果の指標としても活用できます¹⁾。
一方、位相角は加齢に伴い減少する傾向があります。また、麻痺や怪我などの損傷は細胞の弱体化または生理的機能を低下させるため、これらの部位の位相角も減少します。この変化と共に、位相角と極めて強い逆相関のECW/TBWは増加します。従って、どちらも栄養状態を反映する指標のため、組み合わせて評価するとより重度の高い患者を分類することができます。
但し、位相角は実測値としてBIA機器の電極が触れる位置によっても値が異なります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値は存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的に活用するほうが望ましいです。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合を意味するECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、腎臓・心臓・肝臓関連の合併症に伴って浮腫が発生すると、主にECWが増える形で水分均衡は崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。このとき強い浮腫は関節可動域を制限してリハビリを阻害する要因になり得るので⁷⁾、リハビリの際は浮腫を軽減させる治療も検討する必要があります。
更に、ECW/TBWは浮腫が現れたときに高くなる一方、健常者でも加齢に伴って体細胞量が減少すると、体細胞量の構成成分であるICWの減少が水分均衡の崩れに繋がります⁸⁾。脳卒中患者は体重減少が激しい急性疾患であるだけに浮腫と関係なくECW/TBWが高くなる恐れがあるので、筋肉量・体脂肪量・位相角などの項目と一緒に管理する必要があります。
参考文献
1. Hiroshi Irisawa et al., Correlation of body composition and nutritional status with functional recovery in stroke rehabilitation patients. Nutrients 2020, 12, 1923
2. Ai Shiraishi et al. Prevalence of stroke-related sarcopenia and its association with poor oral status in post-acute stroke patients: Implications for oral sarcopenia. Clin Nutr. 2018 Feb;37(1):204-207
3. Yoshitaka Toda. The effect of energy restriction, walking, and exercise on lower extremity lean body mass in obese women with osteoarthritis of the knee. J Orthop Sci (2001) 6:148–154
4. Toshiaki Seko et al., Lower limb muscle mass is associated with insulin resistance more than lower limb muscle strength in non-diabetic older adults. Geriatr Gerontol Int. 2019 Dec;19(12):1254-1259
5. Yuji Tajiri et al., Reduction of skeletal muscle, especially in lower limbs in Japanese type 2 diabetic patients with insulin resistance and cardiovascular risk factors. Metabolic Syndrome and Related Disorders 2010 Apr;8(2):137-42
6. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997
7. 松尾 汎 (2013) 『あなたも名医! 患者さんのむくみ、ちゃんと見ていますか?』 日本医事新報社 (Not Using InBody)
8. Y. Ohashi et al., The associations of malnutrition and aging with fluid volume imbalance between intra- and extracellular water in patients with chronic kidney disease. The journal of nutrition, health & aging, February 2015
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