整形分野におけるInBody活用
リンパ浮腫の基本的な治療目的は、該当部位の浮腫をモニタリングしながら疾患の進行を抑えることであり、その治療において体水分情報はとても重要な指標の1つです。また、関節リウマチは全身で炎症が起こり、それに伴う身体活動量や食欲の低下が原因で低栄養状態になりやすく、筋肉量の減少を防ぐ管理が必要です。
ここで、InBodyが提供する細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡を評価する指標として活用でき、筋肉量や位相角は栄養状態や治療効果を評価する指標として使用できます。
体内に金属が埋め込まれている場合、測定結果の解釈に注意
関節疾患や骨折などで体内に埋め込んだ金属性の人工関節やプレートは、ペースメーカなど電子機器と違って測定の安全性に問題ありません。しかし、InBodyは微弱な電流を流して計測したインピーダンスから体水分量を算出しているため、水分に比べて通電性の高い金属が入っている方を測定すると、該当部位を中心にインピーダンスが低下し、体水分・筋肉量は多く、体脂肪量は少なく測定されます。また、その影響度は金属の材質・形状・大きさ・挿入位置によって異なります。従って、このような症例に対しては、単回測定の結果で体成分の状態を評価するのではなく、モニタリングを目的に活用する必要があります。但し、電流が流れない指先・頭部に位置する金属や血管内に位置するステントなどは測定値に影響しません。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合を意味するECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。ECW/TBWは部位別に均等ではなく、一般的には重力の影響で上肢よりも下肢の数値が高くなります。しかし、局所的に浮腫が発生するリンパ浮腫の場合、主にECWが増える形で該当部位の水分均衡は崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。
一方、リンパドレナージや圧迫療法などの治療を行うと、該当部位の体水分量は他部位に移動して一時的に減少しても、ECW/TBWは維持されます¹⁾。しかし、ECW/TBWの上昇はリンパ浮腫の進行を意味するため、この数値は重症度の指標として活用できます²⁾。また、同項目は複合的理学療法における周囲長の変化を予測するのに役立ち³⁾、リンパ管静脈吻合術における水分減少の効果を確認するためにも有用です⁴⁾。
浮腫によって患部の筋肉が水増しされる
水増しされた部位によって、左右・上下の筋肉均衡が大きく崩れる
患部の細胞外水分比が高くなる
圧迫包帯は患部の水分を一時的に他の部位に移動させる
患部の位相角が低くなる
筋肉は定量的な評価だけはなく、部位別の均衡も一緒にモニタリングする必要があります。健常者における筋肉量は部位別に均衡よく発達しますが、関節リウマチを患っている状態では身体活動量の低下によって下半身筋肉量が減少しやすく、上下筋肉が不均衡になることが多いです。
このとき、筋肉量の減少は関節の破壊だけでなく⁵⁾、疾患活動性や機能障害を進行させる要因にもなります⁶⁾。また、筋肉量は骨密度と有意に相関しており、サルコペニアは関節リウマチの合併症である骨粗鬆症のリスク因子でもあります⁷⁾。特に下半身の筋肉は歩行機能と深く関連しており、その減少は転倒・関節炎⁸⁾・腰痛⁹⁾に繋がる恐れがあるので、リハビリの際は下肢を中心に筋肉量を管理する必要があります。
筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
水分均衡が崩れ、細胞外水分比が高くなる
患部の細胞外水分比が高くなる
体細胞量が減少する
位相角が低くなる
位相角(Phase Angle; PA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します¹⁰⁾。そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角はこのような特徴から、筋肉量の変化よりも栄養状態の改善に敏感に反応するため、筋肉量の増加が見えにくい疾患者や高齢者などの栄養評価に有用で、ロコモティブシンドローム¹¹⁾や骨粗鬆症¹²⁾の予測にも役立ちます。
また、麻痺や怪我などの損傷は細胞を弱体化させて生理的機能を低下させるため、部位別位相角は該当部位の損傷・回復程度を表す指標としても使用でき、位相角の減少は細胞内・外の水分均衡の崩れにも繋がるので、ECW/TBWと合わせて評価することも多いです。
但し、位相角は実測値としてBIA機器の電極が触れる位置によっても値が異なるので、このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値は存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的に活用するほうが望ましいです。
参考文献
1. Pereira De Godoy JM et al., Mobilization of fluids in large volumetric reductions during intensive treatment of leg lymphedema. Int Angiol. 2013 Oct;32(5):479-82
2. Yoshichika Yasunaga et al., Extracellular water ratio as an indicator of the development and severity of leg lymphedema using bioelectrical impedance analysis. Lymphat Res Biol. 2020 Nov 13
3. Leesuk Kim et al., Prediction of treatment outcome with bioimpedance measurements in breast cancer related lymphedema patients. Ann Rehabil Med 2011; 35:687-693
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11. Satoshi Tanaka et al., The decrease in phase angle measured by bioelectrical impedance analysis reflects the increased locomotive syndrome risk in community-dwelling people: The Yakumo study. Mod Rheumatol. 2019 May;29(3):496-502
12. Satoshi Tanaka et al., A low phase angle measured with bioelectrical impedance analysis is associated with osteoporosis and is a risk factor for osteoporosis in community-dwelling people: the Yakumo study. Archives of Osteoporosis (2018) 13:39.
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