栄養分野におけるInBody活用
様々な疾患において栄養状態の悪化は予後の悪化や合併症リスク増加、治療の長期化に繋がります。従って、患者の栄養状態を評価し、適切な栄養介入を行うことは重症化の防止と予後の改善に欠かせない要素となります。近年はNSTやリハ栄養といったチーム医療による多職種連携が進んでおり、栄養療法と運動療法を並行することで身体機能と栄養状態の改善を確認することの必要性も増加しています。栄養評価に最も一般的に使用されるのはBMIですが、サルコペニアと疾患または身体機能の関連性が明らかになってくるようになり、筋肉量を用いた栄養評価の重要性が更に増しています。
ここで、InBodyが提供する筋肉量は栄養状態の評価やサルコペニアの診断に活用される項目であり、強い浮腫や低栄養の患者においては細胞外水分比(ECW/TBW)または位相角を用いた栄養評価も可能です。また、適切な摂取カロリーを算出するツールの一つとして基礎代謝量も活用されます。
筋肉量と体脂肪量の両方が減少し、筋肉量は浮腫によって水増しされることもある
下半身の筋肉量が少ない傾向が強い
水分均衡が崩れ、全身の細胞外水分比が高くなる
体幹と下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
浮腫が発生している場合、水増しされた状態の筋肉量やSMIなどは参考にしない
筋肉量は栄養状態を反映する指標であり、栄養状態と免疫力も密接な関係があります。特に侵襲性の高い手術を受けた患者の生命予後や合併症など、術後のリスクと筋肉量の関係については様々な分野で研究発表が行われています。侵襲度が高い生体肝移植患者における術後合併症・感染症は低骨格筋量によってリスクが高くなり、術前栄養状態が悪い患者を対象に早期介入を行って栄養状態を改善させると予後も改善すると報告されているなど¹⁾、特に患者に負担が大きい手術では事前の栄養管理が術後生存率上昇や合併症リスクの減少と繋がります。
一方、筋肉量の減少は、特に高齢者において嚥下障害のリスクを高めます²⁾。嚥下障害は食物の経口摂取を妨げることで栄養摂取量の低下を招き、更に筋肉量の減少を進行させるという悪循環に繋がるため、早期介入が重要になります。他にも、下半身の筋肉量は歩行などの身体活動において重要なもので、左右のバランスが崩れると転倒による骨折や再入院のリスクも高まるため、部位別に筋肉量を管理することは患者のQOL向上にも繋がります。
部位別筋肉量を用いて算出できるSMIはサルコペニアの診断基準としても活用されます。筋肉量の減少と筋力・身体機能の低下と定義されるサルコペニアの診断基準としてはアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)の基準が広く使用されており、SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフ値は男性<7.0kg/㎡、⼥性<5.7kg/㎡と定められています³⁾。サルコペニアは様々な疾患の危険因子であることが明らかになっていますが、近年ではサルコペニアと肥満が共存するサルコペニア肥満の評価も重要視されています。サルコペニア肥満の診断基準はまだ統一されておりませんが、一般的にはサルコペニア診断基準+体脂肪率(男性30%・女性35%)をカットオフ値としています。サルコペニア肥満は患者の運動機能回復と最も有意に相関したと報告されており⁴⁾、栄養介入の際には体脂肪率も高くなりすぎないような管理が必要です。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、疾患によってうっ血や浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。筋肉は体水分を含んだ概念のため、うっ血や浮腫によって体内に余分な水分が貯留するとそれらは筋肉量として数値に表れるため、筋肉量は水増しされます。
細胞外水分比は栄養介入の効果を客観的に確認するための指標にもなります。特に、浮腫みを伴う疾患または侵襲性の高い手術を受けた患者などにおいては、筋肉量を客観的に評価することが難しいとされていますが、ECW/TBWと筋肉量を一緒に確認することで筋肉量の増減の原因を明確にすることができます。経口栄養補助食品を回復期リハ患者へ投与した研究では、介入前後で骨格筋量の増加が見られましたが、ECW/TBWの変化に有意差がなかったことから、浮腫の影響ではなく純粋な骨格筋量の増加であったと考察しています⁵⁾。
一方、臨床的に浮腫が確認されておらず、長い病床生活で痩せている患者でもECW/TBWが高値になることは多々あります。これはICWが減る形で水分均衡が崩れて高くなっているもので、筋肉も水増しされている状態ではありません。従って、筋肉量を用いて栄養評価をすることが可能ですが、筋肉量の変動がなくてもECW/TBWの変化から栄養状態の改善・悪化の評価が可能です。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
基礎代謝量を求める式は数多くありますが、InBodyではカニンガム式を採用しています⁶⁾。カニンガム式は【基礎代謝量=除脂肪量×21.6+370】で、除脂肪量を使用して基礎代謝量を求めます。腹膜透析患者を対象に、呼気ガス分析による間接熱量測定法の基礎代謝量と様々な間接公式の基礎代謝量を比較した研究では、高い浮腫状態で筋肉が過水和(Over Hydration)されている患者であったにも関わらず、体重・性別・年齢などを使用する他の間接公式に比べ、カニンガムの基礎代謝量が最も高い相関を示しました⁷⁾。実際に代謝活動に関与する除脂肪量から基礎代謝量を算出することで、より患者に適したカロリー管理を行うことが可能です。
位相角(Phase Angle; PA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁸⁾。そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角は筋肉量の変化よりも栄養状態の変化に敏感に反応します。高齢入院患者の位相角は性別関係なく、GNRIで評価した低栄養と関連する重要な因子であることが示されています⁹⁾。また、低い位相角は低筋肉量と共に高齢者の大腿部骨折のリスク因子であること¹⁰⁾や、高齢入院患者の移動能力と関連している¹¹⁾など、様々な要素との関連性が示されているため、患者の状態をモニタリングする際に有効活用できます。
但し、位相角はBIA機器の電極が触れる位置によって、インピーダンスを測定する範囲が変わるため、メーカー間・機種間で値が異なる場合があります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的での活用が望ましいです。
参考文献
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2. Fujishima I et al., Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 2019 Feb;19(2):91-97.
3. Chen LK et al., Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020 Mar;21(3):300-307.e2.
4. Yoshihiro Yoshimura et al., Sarcopenic Obesity Is Associated With Activities of Daily Living and Home Discharge in Post-Acute Rehabilitation. J Am Med Dir Assoc. 2020 Oct;21(10):1475-1480.
5. 馬場 正美ら, コラーゲンペプチドが高齢者の骨格筋量に及ぼす影響~回復期リハビリテーション病棟患者への経口栄養補助(ONS)介入研究~. 日本老年医学会雑誌 57(3), 291-299, 2020
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10. Chen J, Lu K, Chen H, Hu N, Chen J, Liang X, Qin J, Huang W. Trunk Skeletal Muscle Mass and Phase Angle Measured by Bioelectrical Impedance Analysis are Associated with the Chance of Femoral Neck Fracture in Very Elderly People. Clin Interv Aging. 2020 Jun 12;15:889-895.
11. Daisuke Ishiyama, Shingo Koyama, Naohito Nishio, Yosuke Kimura, Mizue Suzuki, Hiroaki Masuda, Minoru Yamada, Masato Yamatoku. Bioelectrical Phase Angle as a Factor Associated with Mobility Limitation in Older Cardiac Inpatients. Aging Medicine and Healthcare. 2021.
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