モナリザ症候群とは?
年々健康意識が高まる中、自分の体型を見直したいという方も多いのではないでしょうか。テレビや雑誌、インターネットで様々なダイエット法を簡単に調べられるため、生活習慣の改善や運動計画も立てやすくなりました。しかし、ダイエットを始めた後、「継続して運動をしているはずなのに、どうして体重が減らないんだろう。」「毎日カロリー制限をしているのにむしろ太っている。」と思ったことはありませんか? そのように感じる原因はもしかすると、『モナリザ症候群』かもしれません。
モナリザ症候群と自律神経
モナリザ(MONA LISA)症候群は、1990年に神戸で開かれた国際肥満学会において発表された「肥満者の大多数は交感神経の働きが低下している(Most Obesity kNown Are Low In Sympathetic Activity)」という研究内容の頭文字をとったものです。1991年にGeorge A. Bray博士が発表した論文では、肥満患者のうち、約7割がモナリザ症候群に該当するとも述べられています¹⁾。そして研究内容からも察せる通り、このモナリザ症候群のカギは『自律神経の乱れ』が握っています。
自律神経は自分の意志とは関係なく働き、体温調節・代謝活動・呼吸などの生命維持に必要不可欠な機能をコントロールしています。主に活動時に働く「交感神経」と休息時に働く「副交感神経」に分かれており、いわば交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキのようなものです。アクセルが踏まれているときは、代謝が活発になりカロリーを消費する方向へ調節されます。一方でブレーキが踏まれているときは、体の休息を優先し、代謝は落ち着きます。この2つが上手くバランスを取って調節し合うことで、私たちの体は暴走することなく安全且つ健康に暮らせています。
しかし、何らかの原因で自律神経の調節ができなくなりアクセルが効かない状態がモナリザ症候群です。交感神経の働きが低下して代謝が活発でない(=基礎代謝が低下している)状態では、いくら食事に気を付けてカロリーを抑えたり運動したりしていても、カロリーが十分に消費されません。消費されなかったカロリーは体脂肪に変換されて貯蔵されてしまい、体脂肪の増加に繋がります。
自律神経が乱れる原因
自律神経の乱れは、多岐にわたる症状を引き起こし、私たちの体に様々な悪影響を及ぼします。では、なぜ自律神経のバランスが崩れてしまうのでしょうか。主な要因を2つご紹介します。
①ストレス
ストレスは生きている以上どうしても発生してしまうものです。ストレスというと悪いイメージを思い浮かべる方が多いですが、本来ストレスは外部からくるすべての刺激において発生するものであり、生存にとって必要不可欠な反応です。そのため、緊張などからくる適度なストレスは交感神経を刺激して判断力や集中力を高めます。しかし、過度なストレスを受け続けていると、その影響は体の不調として至る所に現れ、自律神経も同様に悪影響を受けます。人の体はストレスを感じると、そのストレスに対抗するために交感神経の働きが活発になります。交感神経の働きのみが活発な状態が続くと、自律神経の調節が上手くできなくなってしまいます。休息時間である夜になっても眠れなかったり、活動時間である昼に眠くなってしまったりと日常生活にも影響を及ぼすことで、更に自律神経のバランスが崩れる悪循環に陥ってしまいます。
②不規則な生活やホルモンバランスの乱れ
人の体は本来、昼の活動と夜の休息という一定のリズムに沿って動いています。自律神経はこのリズムに合わせて働き、「生活リズム」が形成されます。しかし、寝不足が続いたり、昼夜逆転などの不規則な生活が続いたりすると、自律神経のリズムも崩れてしまいます。また、自律神経とホルモン分泌は互いに影響し合っています。そのため、ホルモンバランスが崩れると自律神経にも負担がかかり、共倒れになってしまいます。一般的に女性の方がホルモンバランスを崩しやすいことが知られていますが、ホルモンバランスの乱れはストレスや加齢なども原因となるため、男性も同様に注意が必要です。
自律神経を整える方法
では、どうすれば自律神経を整えられるのでしょうか。自律神経を整えるためのポイントをいくつかご紹介します。
①活動時間と休息時間のメリハリをつける
自律神経のリズムを整えるためには、活動と休息のメリハリがある生活リズムを作ることが大事です。朝起きたら、まずはカーテンを開けて日の光を体いっぱいに浴びてみましょう。幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンが活性化されることで、質の良い睡眠に欠かせないメラトニンという物質が夜に作られ易くなります。セロトニンとメラトニンの適切な分泌によって、活動・休息のリズムが整います。このリズムが、自律神経を整えることにも繋がります。
また、日々適度な運動を取り入れると自律神経を整えることはもちろん、ストレス解消にもなります。日中の活動的な時間と、夕方から夜にかけて休息する時間のメリハリをつけることで、自律神経の切り替えがスムーズに行われるようになります。毎日決まった時間に食事や睡眠を取ることは難しいかもしれませんが、大切なポイントは活動時と休息時の二つをしっかり区別して過ごすことです。
②体を冷やさない
万病のもとと言われる「冷え」ですが、体温調節を司る自律神経にも大きく関わっています。本来、人の体は体温を一定に保てるように調整していますが、エアコンがよく効いた環境で長く過ごしたりすると、室外温度とのギャップで自律神経が大きなダメージを受けてしまいます。そして自律神経のバランスが乱れ、血流が滞ることで温かい血液が全身を巡りにくくなり、更に冷えが悪化してしまいます。日常の中で、意識的に体を温めることが大切です。
体を温める代表的な方法としては入浴が挙げられます。38~40℃程度のぬるま湯にじっくり浸かることで、副交感神経が優位に働き、リラックス効果が期待できます。更に、その状態で入眠することで質の良い睡眠ができ、自律神経のリズムが整います。
※自律神経と冷えの関係については、InBodyトピックの「真夏の食欲低下対策」もご参照ください。
③腸内環境を整える
近年話題の腸活ですが、腸の働きにも自律神経が関係しています。交感神経が優位だと消化は停滞し、副交感神経が優位だと消化は活発になります。食事直後の運動は消化に良くない、と言われているのも、食後は体を休めて副交感神経を優位にして消化を促すためです。このように腸と自律神経は密接に関わっており、互いに影響し合って調整しています。従って、自律神経のバランスが乱れると腸の働きが低下し、腸内環境の悪化から便秘や下痢などになりやすいです。この状態を放置していると、過敏性腸症候群*に繋がる可能性もあります。しかし、逆に考えると、腸内環境を改善すると腸の働きが改善され、自律神経の安定にも繋がると言えるでしょう。何かと良いこと尽くしな腸活ですが、自律神経を整える面でも取り入れるべき習慣と言えます。
*過敏性腸症候群とは、通常の検査において特に異常が見られないにも関わらず、慢性的な腹痛や下痢、便秘などの便通異常を感じる病気です。
※腸内環境の改善に関する方法などはInBodyトピックの「腸内環境を改善する方法」もご覧ください。
終わりに
モナリザ症候群は交感神経の働きが低下したことによるものですが、だからといって交感神経だけを働かせれば良いというわけではありません。交感神経と副交感神経の両方がそれぞれの役割をバランスよく担うことが根本的な解決に繋がります。
体重や筋肉量などの変化が出ないことに焦りを感じ、より強度の高い運動や極端なカロリー制限をすることはむしろ体に負担をかけてしまいます。食事改善や運動の効果を最大限にするためにも、今一度体の中から見直してみてはいかがでしょうか。
参考文献
1. George A. Bray, Obesity, A Disorder Of Nutrient Partitioning: The MONA LISA Hypothesis. The Journal of Nutrition, Volume 121, Issue 8, August 1991, Pages 1146–1162