筋肉痛との正しい向き合い方

久しぶりに運動をした後や、強度の高いトレーニングをした後に、じわじわと現れる筋肉痛。痛みが気になる一方で、しっかりと筋肉を使った証として前向きに捉えられることも多い筋肉痛ですが、実際に体内ではどのような変化が起こっているのでしょうか。筋肉痛による体内の変化を整理しながら、筋肉痛時の最適な過ごし方やInBody測定結果への影響をご紹介します。


筋肉痛はなぜ起こる?

実は、筋肉痛のメカニズムは未だに完全には解明されていません。とはいえ、現在は 「運動によって筋繊維が損傷を受け、その回復過程で起こる炎症反応の一環」 という説が有力とされています。

筋肉は、直径約0.1mmと毛髪ほどの細い筋繊維がいくつも集まってできています。普段あまり使わない筋肉を刺激したり、同じ筋肉に連続して強い負荷がかかったりすると、この細い筋繊維が傷つきます。ただし、筋繊維そのものには痛みを感じる神経はありません。私たちが筋肉痛として感じる痛みは、傷ついた筋繊維を回復する過程で起こる炎症反応によるもので、筋膜(筋繊維を包む膜)に存在する神経が刺激されることで引き起こされます。このように筋肉痛が発生するプロセスは段階的に進むため、トレーニング直後ではなく、数時間〜数日後に痛みが現れるのです。


「筋肉痛が起きている=筋肉が増える」 ではない

筋肉を増やすためには、筋繊維が損傷を受け、それが回復する過程を繰り返すことが重要です。この回復の過程で新しい筋繊維が作られたり、既存の筋繊維が太くなったりすることで、筋肉の断面積が増加し、より大きく、強く、質の高い筋肉へと変化していきます。このような背景から、筋肉痛は筋肉の成長と関係していると一般的に考えられており、運動後に筋肉痛がないと 「トレーニングの効果が出ていないのではないか」 と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし、運動後に適切なストレッチやケアを行っていた場合は、筋繊維に損傷があっても筋肉痛が生じないことがあります。つまり、筋肉痛がないからといって、必ずしも筋肉が増えないわけではありません。反対に、筋肉痛があるからといって、トレーニングの効果が確実に出ているとは限りません。重要なのは、筋肉痛の有無に一喜一憂するのではなく、運動後の過ごし方に意識を向けることです。


筋肉痛があるときの過ごし方

筋肉痛は、筋繊維が損傷を受けたことによって炎症反応が起こっている状態です。痛みを感じている間は、筋繊維が十分に回復していない可能性が高いため、そのタイミングで再び強いトレーニングを行うと回復が遅れたり、炎症が悪化してケガに繋がる恐れがあります。筋繊維の回復(超回復)には、一般的に48〜72時間ほど必要とされています。この期間はできるだけ安静にし、以下のようなポイントを意識することでよりスムーズな回復に繋がります。

➤筋肉を回復する栄養素を摂る
筋肉の回復には ”タンパク質” が必要不可欠です。肉・魚・卵・大豆製品などからタンパク質を積極的に摂取しましょう。また、タンパク質の代謝やエネルギー生成に必要な ”ビタミンB群” は、主に豚肉(B1)や卵(B6)などに多く含まれています。さらに、梅やレモンなど酸味が強い食品に多く含まれる ”クエン酸” も、疲労回復の効果が非常に高い成分です。運動後の貧血予防に、鉄分とその吸収率を上げる ”ビタミンC” もお勧めです。これらの栄養素を積極的に取り入れ、バランスの良い食事を心掛けることが大切です。昨今はサプリメントなどで特定の栄養素を手軽に摂取できるようになりましたが、栄養摂取の基本は食事とし、サプリメントはあくまでも補助的な役割として活用しましょう。

※食事とサプリメントの違いについて、詳しくはトピック「現代の栄養戦略:食事とサプリメントの使い分け」をご覧ください。

ダイエットを目的としてトレーニングしている場合、体重を減らしたいという気持ちからトレーニング後の食事を抜いたり、野菜など低カロリーの食品だけ摂取するケースも少なくありません。しかしそのような食事では、必要な栄養が不足し、かえって筋肉が分解され減少してしまう恐れがあります。ダイエットは単に体重を減らすことではなく、より健康的な体を作ることを意味します。体重やBMIだけに惑わされず、筋肉量が多く体脂肪量が少ない理想的な体を目指しましょう。

➤適度なストレッチで血流を促す
筋肉痛がある状態は、その部位に炎症や痛みを引き起こす物質が留まっていることを意味します。そのため、血流が悪い状態ではなかなか炎症が治まらず、筋肉痛が長引く可能性があります。軽いストレッチやマッサージで血流を促進することで、筋肉痛の回復が早まることが期待できます。ただし、無理に筋肉を伸ばすと怪我のリスクが高まるため注意が必要です。入浴後など体が温まり筋肉が柔らかくなっている時に、ゆっくり時間をかけてストレッチをするように心掛けましょう。ストレッチをするのも難しいほどひどい痛みがある場合は、無理せず安静にしましょう。

➤質の高い睡眠を心掛ける
睡眠中は体が休息状態となり、タンパク質の合成やホルモンの調整などが積極的に行われることで、損傷した筋繊維が回復します。特に、ノンレム睡眠(深い睡眠)中に多く分泌される成長ホルモンには、筋肉の回復を促す働きがあります。しかし、睡眠不足や睡眠の質の低下によってノンレム睡眠が短縮されると、成長ホルモンの分泌量が減少し、筋肉の回復が遅れてしまいます。さらに、睡眠不足の状態ではストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールが増加します。このコルチゾールは筋肉の回復を遅らせ、筋肉の分解を促進する恐れがあります。トレーニングした効果を最大限に引き出すためにも、十分な睡眠時間を確保し、睡眠の質を高めることが大切です。

※睡眠の質を高める方法について、詳しくはトピック「睡眠の質を改善するには」をご覧ください。


InBodyで見る筋肉痛

筋肉痛がある状態でInBody測定を行うと、該当部位の水分量や筋肉量、細胞外水分比(ECW/TBW)がやや多く提示される傾向があります。これは、炎症が生じたことにより該当部位に血液が集まることが原因です。

ECW/TBWは、体水分量(TBW)のうち細胞外水分量(ECW)の割合を示した項目であり、体の水分均衡を表します。炎症によって集まる血液はECWに含まれるため、筋肉痛がある状態ではECWの割合が増加し、ECW/TBWが上昇する傾向があります。また、血液を含む体水分は筋肉の主な構成成分であるため、炎症が起きて体水分量が増加している場合は筋肉量も多く提示されます。ただし、これは体水分の増加による一時的な筋肉量の増加であることから、必ずしも良い評価であるとは限りません。

※細胞外水分比(ECW/TBW)について、詳しくはトピック「体水分均衡の特徴と重要性」をご覧ください。

▲ 長距離マラソン前後の体成分の変化

長距離マラソンに参加した前後の結果用紙です。マラソン参加後は特に下肢に強い筋肉痛があり、その状態がInBodyの結果用紙にもはっきりと表れていました。参加前後の結果用紙を比較すると、参加後は両脚の筋肉量が約0.5kg増加し、ECW/TBWも約0.01増加しています。このことから、長距離マラソンによって筋繊維が損傷を受け、両脚で炎症が起きていることが考えられます。

▲ マラソン参加日周辺の体成分履歴

体成分履歴を見ても、マラソン参加後の影響により筋肉量とECW/TBWが増加していることが確認できます。しかしその後、体の回復に伴って筋肉量が減少し、ECW/TBWもマラソン参加前の数値に戻ってきています。この筋肉量の減少は決してマイナスな変化ではなく、炎症によって主にECWに集まっていた血液が分散し、炎症が改善したことを意味しています。ECW/TBWの低下も、炎症によって乱れていた水分バランスが正常な状態へと回復したことが反映された結果です。

もちろん、運動の種類や個人差によって体成分の変化は異なりますが、筋肉痛とその回復状態を評価するツールとしてInBodyをコンディション管理に役立ててみてはいかがでしょうか。


終わりに

筋肉痛は単なる 「痛み」 ではなく、体の中で起きている変化や回復のサインとも言えます。筋肉がダメージを受け、それを回復しようとする過程こそが、より強くしなやかな筋肉をつけるために欠かせないステップです。だからこそ、筋肉痛があるときほどしっかり栄養を摂り、質の高い睡眠をとり、体を丁寧にケアすることが、次のトレーニングへと繋がる重要なポイントになります。

また、InBodyを活用することで、見た目や感覚だけではわからない体内の状態を数値で可視化し、筋肉痛が体にどのような影響を与えているのかを客観的に把握できます。運動の成果や体のコンディションを知る手がかりとして、日々のトレーニングやリカバリーの参考としてぜひご活用ください。筋肉痛とうまく付き合いながら、効率良く、そして健康的に自分の理想とする体を目指していきましょう。