肥満と脳卒中の関係

脳卒中は身体障害の原因の一つであり、世界的な健康問題でもあります。厚生労働省の2017年発表によると、脳卒中は日本人の死亡原因4位の疾患¹⁾であり、発症すると生存後にリハビリを受けても後遺症が残る可能性が高い疾患です。このようなことを考えると、脳卒中を予防することは健康な生活を維持するために重要なのは間違いありません。

脳卒中は「頭蓋内出血」と「脳梗塞」の2種類があります。頭蓋内出血は名前からもわかるように、脳血管が破れることを意味します。脳梗塞は血栓やその他血管問題により血管が詰まり、脳細胞にブドウ糖や酸素などが届かなくなることで起こります。脳卒中は原因によって予後が異なるという研究もあれば、原因に関係なく似たような予後を示したという報告もあります²⁾。また、脳卒中の中でも頭蓋内出血より脳梗塞の方の予後が良いことを示した報告もあり、脳卒中に関しては様々な研究報告があります。脳卒中のリスク因子は様々ですが、その中でも改善できる因子とそうでない因子があります。今回は改善できる因子の一つである肥満と脳卒中の関係、そして体成分が脳卒中予防にどのような影響を及ぼすかについて説明します。


脳卒中のリスク因子

脳卒中のリスク因子の中では年齢・性別・人種など、リスクを確認するときに考慮すべき要素ではあっても、改善することはできない変えられない因子があります。逆に、生活習慣や食習慣などの因子は改善することが可能です。改善可能な脳卒中のリスク因子には座位行動(長時間座ったまま生活すること)・悪い食習慣・肥満・メタボリックシンドロームなどが挙げられます。特に肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症のような脳卒中のリスクを高める疾患とも関連があります³⁾。


肥満と脳卒中の関連性


肥満は世界中で問題視されている健康問題の一つですが、様々な慢性疾患の原因でもあります。ある研究によると脳卒中患者の約18%~44%が肥満患者であると推定されています⁴⁾。肥満は様々なメカニズムで脳梗塞の1種であるアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症に影響を及ぼします。アテローム血栓性脳梗塞の発症メカニズムは複雑で、様々な要因が影響を与えますが、脂肪組織もその一つです。脂肪組織は余分なエネルギーを保存するだけが役割と思うかもしれませんが、脂肪組織は内分泌及び免疫システムに影響を及ぼす組織です。体脂肪が過剰に蓄積されると炎症を引き起こし、組織の構成にも影響を与えることでアテローム血栓性脳梗塞を促進させ、脳卒中のリスクを高めます。肥満の脳卒中生存者は特性の心疾患のリスク因子が増えやすくなり、脳卒中の再発または回復の予後を悪化させる恐れがあります。また、日本人の脳梗塞で最も多いラクナ梗塞の場合、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)の3つが主な原因と言われますが⁵⁾、この3つは肥満とも密接な関連を持っていることから、過剰な体脂肪量は脳卒中や血栓症などの原因になり得ると言えます。


肥満と脳卒中のパラドックス

このように、肥満は脳卒中のリスク因子であることが明らかになっていますが、肥満患者の脳卒中予後に関しては様々な意見があります。多数の研究では肥満患者の脳卒中予後がより良いことを示唆しており、これを肥満と脳卒中のパラドックス(Paradox; 逆説)といいます。肥満と脳卒中の関係を説明するために企画された系統的文献レビュー⁶⁾では、25件の研究を分析し、脳卒中リスクと肥満の関係を確認しました。その結果、確かに多数の研究で肥満の脳卒中患者がより良い予後を示しました。しかし、この結果を「体脂肪量が多いのは良い」と解釈することは間違っていると指摘しています。肥満患者の脳卒中死亡率が低いことは事実ですが、他の研究では高度肥満及び低体重患者の脳卒中死亡率が有意に高いことも示されています。この相反する内容から、脳卒中の予後には体重よりも適切な体成分の構成が重要であることを推測できます。肥満患者の体重減量が脳卒中の予防に役立つという説も、体成分が重要であることを裏付けします。


腹部肥満の危険性

体成分と脳卒中の関係に着目した研究もあります。腹部肥満と脳卒中の関係を調べるため、ニューヨークで虚血性脳卒中(脳梗塞)症例576件を検討した研究が行われました⁷⁾。結果、性別や人種と関係なく、ウエストヒップ比(Waist-Hip Ratio; WHR)の増加と脳卒中リスクには有意な相関があることが示されました。この研究では次のように述べています。

・人種に関係なく、腹部肥満は脳梗塞の独立リスク因子である。
・腹部肥満はBMIより有意な脳梗塞のリスク因子である。
・腹部肥満は若い人においてより悪い影響を及ぼす。

このように、腹部肥満と脳梗塞の間には独立且つ有意な関係があることを示しています。従って、体脂肪の分布を把握して腹部の体脂肪量を減らすことは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。InBodyでも腹部肥満の指標としてウエストヒップ比を提供しているので参考にしてください。ウエストヒップ比の値が大きいと、腹部肥満と判断されますが、男性1.0以上、女性0.9以上が目安とされています。また、ヨーロッパの研究では、男性0.9以上、女性0.85以上は心血管死亡率が高いと報告しています。
※ウエストヒップ比はS10以外の全ての機種で選択項目として提供しています。


他の改善可能なリスク因子

既に説明しましたが、糖尿病・脂質異常症・高血圧などの疾患は脳卒中リスクと関連しています。このような疾患は脳卒中のリスクを高めますが、適切な体成分状態を維持することでこれらの疾患を予防できます。次の内容は体成分と上記疾患の関連性に関する研究で示された内容です⁸⁾。

・2型糖尿病のリスクは国や人種に関係なく、BMIが高いほど増加する。
・高血圧症例の1/4以上が過体重と関連していた。
・内臓脂肪型の肥満患者において脂質異常症のリスクが増加した。

これらの疾患は脳卒中のリスク因子であるため、肥満を改善させて関連疾患のリスクを下げることは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。生活習慣を改善させてリスク因子を減らすことで、脳卒中の約50%を予防できると言われています⁹⁾。血圧を下げることや血糖値を管理すること、HDLコレステロール値を高めて脂質異常症を予防することは脳卒中のリスクを大きく下げると言われており、体成分の改善はこれらの疾患の予防に繋がります。生活習慣の改善方法には適切な運動による活動量の増加・肥満患者の体重減量・糖尿病患者の血糖値調整・禁煙・規則正しい食事を含む食習慣の改善などが挙げられます。


脳卒中予防のために


脳卒中は一度発症すると回復後にも後遺症が残る可能性があり、身体障害により生活の質が低下することは致命的な健康問題です。しかし、脳卒中はいくつかのリスク因子を改善させることで予防も可能です。今まで説明した通り、少ない活動量・座りっぱなしの生活・悪い食習慣・肥満などを改善することは脳卒中だけではなく、他の疾患のリスクも下げます。

脳卒中リスクを高める疾患には高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあり、これらの予防と管理は脳卒中リスクを減少させることに繋がります。そして、肥満は様々な健康問題や疾患の原因である同時に、脳卒中のリスクを高める因子です。過剰な体脂肪量は炎症を起こしたり、アテローム血栓性脳梗塞の発症を促進したりする組織であるため、適切な管理が必要です。従って、肥満評価に用いられる体成分に注目して管理することは、脳卒中リスクを管理できる方法の一つとも言えます。特に内臓脂肪の蓄積が原因の腹部肥満は、脳卒中リスクを高める重要な因子と言われています。多くの研究が、ウエストヒップ比の減少で予測できる腹部脂肪量の減少は脳卒中の予防において臨床的価値を持つと示しており、腹部肥満管理の重要性を裏付けています。肥満と関連する体成分は体脂肪量が挙げられますが、筋肉量を維持することも肥満の予防・改善に繋がります。従って、活動量・食習慣・喫煙状況などの生活習慣を見直して、筋肉と脂肪のバランスを改善することは、誰でもできる脳卒中の予防方法と言えます。体成分の現状を把握し、どう改善すればいいか考えることから健康管理を始めてみてはいかがでしょうか。

参考文献
1. 「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」厚生労働省
2. Perna R, Temple J. Rehabilitation Outcomes: Ischemic versus Hemorrhagic Strokes. Behav Neurol. 2015;2015:891651.
3. Amelia K. Boehme et al., Stroke Risk Factors, Genetics, and Prevention. Circ Res. 2017 Feb 3;120(3):472-495.
4. Walter N. Kernan et al., Obesity: a stubbornly obvious target for stroke prevention. Stroke. 2013 Jan;44(1):278-86.
5. 「どうしましたか?症状別病気解説: ラクナ梗塞」 社団福祉法人 恩賜財団済生会ホームページ
6. Lisa Oesch et al., Obesity paradox in stroke – Myth or reality? A systematic review. PLoS One. 2017 Mar 14;12(3):e0171334.
7. Seung-Han Suk et al., Abdominal obesity and risk of ischemic stroke: the Northern Manhattan Stroke Study. Stroke. 2003 Jul;34(7):1586-92.
8. Jana Jarolimova et al., Obesity: its epidemiology, comorbidities, and management. Prim Care Companion CNS Disord. 2013;15(5):PCC.12f01475.
9. Silvia Di Legge et al., Stroke prevention: managing modifiable risk factors. Stroke Res Treat. 2012;2012:391538.