妊娠中の体成分モニタリング

お腹の中で子どもを育み、出産に備えて体を整える約10か月の妊娠期間は、体成分が大きく変化する期間でもあります。中には、10kg以上の体重増加を経験した妊婦さんもいらっしゃるでしょう。以前、産後のダイエットについてご紹介しましたが、今回のトピックでは妊娠中の体成分モニタリングについて詳しくお話しします。


妊婦の体重管理の重要性

妊娠中にInBodyを測定しても、安全面で問題ないのか気になる方もいると思いますが、InBodyが体成分を測定するために使用しているBIA法は体に影響を及ぼさない程の微弱な電流を使用しているため、体成分の測定方法の中で最も安全で体に負担のかからない方法として評価されてきました。また、妊娠高血圧症候群・妊娠中毒・妊娠浮腫・妊娠糖尿病など、妊婦を対象にした様々なInBodyを活用した研究が、国内外でも活発に行われています。このように測定の安全性としては問題ありませんが、妊娠期間中は常に体に注意を払う必要があるので、InBody測定は他の検査と同様に、その日の体調や担当医師と相談しながら実施してください。

安定期(妊娠中期)に入り、つわりなどの妊娠初期症状が落ち着いてきた頃、次は体重管理の問題が待っています。厚生労働省は、妊娠中期から後期の妊婦における1週間当たりの体重増加量は「300gから500g」であることが望ましいと、妊娠中の目安となる体重増加量を定めています。従って、体重は週に500g以上増えないよう心掛けましょう。
※妊娠前のBMIが25.0未満であった妊婦に対する目安


妊娠中は、赤ちゃんの成長だけでなく胎盤・羊水・血液・皮下脂肪も増加するので体重が徐々に増加していくのは当たり前ですが、過度な体重増加には様々なリスクがあります。太り過ぎは、妊娠高血圧・妊娠糖尿病・腰痛などの妊娠合併症の原因となります。これらが悪化すると、胎盤の機能低下・流産・早産・胎児の巨大化など、母子ともに危険な状態になってしまいます。また、産道にも体脂肪が付くことで難産の原因となったり、微弱陣痛でお産が長引いたりすることがあります。太り過ぎの妊婦は出産を終えるまでこれだけのリスクを抱えていますが、出産後も体重が戻りにくく妊娠線ができてしまうなどの問題もあります。妊娠発覚から出産直前までの体重増加は7~8kg程度が理想的です。これ以上の体重増加はすべてお母さんの体脂肪です。特に妊娠中に過度な体重増加を指摘された方は、適切な体重管理を心掛ける必要があります。では、一体どのようにして体重管理を行っていけば良いのでしょうか?
※妊娠前のBMIが18~24であった妊婦に対する目安


妊婦の体成分変化 -筋肉量と体脂肪量のバランス-

妊娠期間中、出産日が近づくに連れてお母さんの体重は増加していきますが、この体重にはお母さん自身の増加した体重だけではなく、赤ちゃんの体重・拡大した子宮と乳房・余分な血液(水分)・胎盤・羊水などが含まれます。その中でも、胎児の体重など羊膜内の重さは体脂肪量としてカウントされます。なぜなら体内で電流の流れない部分は体脂肪量として測定されるため、電流が上手く通らない羊膜内の重量も体脂肪量として換算されてしまいます。この原理を利用すれば、自身の変化と合わせて赤ちゃん(羊膜内)の成長も予測することができます。先ずは、基準となるデータを妊娠前や妊娠初期に取ることから始めましょう。


体重・筋肉量・体脂肪量の棒グラフの先端を線で結んでみましょう。この形を、標準型(I型)・強靭型(D型)・肥満型/虚弱型(C型)と分けて、体のタイプを一目で確認することができます。上記の例❶では体重と筋肉量が標準で、体脂肪量が少ない標準体重強靭型(D型)と分類できます。


妊娠中期の体成分を妊娠前の体成分と比べてみましょう。上記の例❷では妊娠前の時から体脂肪量が3.2kg増加したことで、棒グラフの先端を結んだ形が真っ直ぐになり、体成分が標準体重健康型(I型)へと推移していることが分かります。部位別体脂肪量を見てみると、増加した体脂肪量の約半分が体幹体脂肪量の増加として現れていることが分かります。羊膜内の重量は体幹体脂肪量として反映されるため、このような結果が見られます。同時期に測定したエコー検査より胎児重量が660gであったことから、羊膜内の重量は胎児重量約0.7kg・胎盤約0.3kg・羊水約0.4kgの合計で、おおよそ1.4kgです¹⁾。つまり、上記の例❷で体幹体脂肪量が1.6kg増えていることは、羊膜内の重量1.4kgとお母さん自身の体幹体脂肪量が0.2kg増えた結果と推測できます。因みに、エコー検査から算出される胎児重量は、胎児頭部の大横径・腹囲・大腿骨頭長などの長さを計測して推定式を用いて算出されます²⁾。筋肉量も妊娠前の❶から1.1kg増えていますが、正常な妊娠では周期を経る毎に体水分量も増えるので³⁾、筋肉量も体水分量に比例して増加しています。このような結果は母子共に経過が順調であることの現れと言えます。


出産後は、体成分が大きく変化するタイミングです。出産直後は赤ちゃん・余分な血液・胎盤・羊水などが体内からなくなり、体重が大きく減ることになります。そして約6週間で子宮の大きさが小さくなり、妊娠前の体重に近づいていきます。上記の例❸は産後10日の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から2.5kg増え、筋肉量は1.4kg減った状態です。筋肉量が大きく減ったことで、体成分が若干の虚弱型(C型)へ推移しつつあることが分かります。体脂肪量も妊娠前の❶よりは大幅に増加していますが、それでも標準値の100%よりは少ない状態なので、妊娠・出産による体脂肪量増加を気にしてダイエットを行う必要は全くありません。出産後は体の回復を第一にして、徐々に筋肉量を増やしていく意識が必要です。この時点で体脂肪量が標準範囲(80%~160%)を大きく外れている妊婦の方は、今後の育児で体調を崩さないために、自身の管理も優先的に行って欲しいです。


上記の例❹は産後半年の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から1.7kg増え、前回測定の❸からは0.8kg減ったことが分かります。筋肉量は妊娠前の❶までは戻ってはいませんが、前回測定の❸からは1.0kgも回復しています。これまでの4回分の体成分を見比べてみると、徐々に妊娠前の体成分に戻りつつあることが分かりますが、授乳中は体脂肪量も必要な体成分なのでこれ以上無理に減らす必要はありません。上記の例❹では、体脂肪量を減らすことよりも、筋肉へのアプローチを継続して筋肉量を妊娠前の❶の状態まで戻すことが大切です。
※出産後でも実施しやすい具体的な運動例は、InBodyトピックの「出産後に体型を戻す方法」を参考にしてください。


妊婦の体成分変化 -体水分のモニタリング-

妊娠時は胎盤で血糖値を上げやすいホルモンなどが分泌されるため、妊娠中期以後はインスリンが効きにくい状態になり、血糖値が上昇しやすくなります。妊娠中に血糖値が高いと、母体では妊娠高血圧症候群や羊水過多症になりやすく、胎児では巨大児や新生児の低血糖などの影響が出てきます。妊娠正常群では妊娠周期を経る毎に体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していきますが、妊娠高血圧症候群では全てが段々減少していく傾向が確認できます。妊娠初期に測定した体水分の増加・減少傾向をモニタリングすることで、妊娠高血圧症候群の可能性を事前に把握できます³⁾。


妊娠中は赤ちゃんに栄養を行き渡らせるために通常よりも血液量が増加していますが、同時にエストロゲンやアルドステロンというホルモンの増加によって、末梢血管透過性が亢進され細胞外に水分が溜まりやすくなっています。つまり、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で、特に細胞外水分量の増加が目立つ形で細胞外水分比(ECW/TBW)も上がっていきます。体水分量(TBW)に対する細胞外水分量(ECW)の割合であるECW/TBWは、体の水分均衡を表す指標として世界的に広く使用されており、その標準範囲は0.360~0.400で、健常人は0.380前後の一定な数値を維持します。InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。健常人でも重力の影響で夕方以降にむくむ人もいますが、妊婦は体内の血液と水分バランスが崩れやすくむくみやすい体質なので、よりむくみの管理が求められます。


妊娠中は、大きくなった子宮が静脈やリンパ管を圧迫するため、むくみが起こりやすい状態です。 朝よりも夕方や夜にむくみを感じる場合が多いですが、朝から下肢がむくんでいるときは注意が必要です。さらに手や顔、全身に現れるむくみや、1週間に500g以上の体重増加を認めるむくみなどは妊娠高血圧症候群の予備軍として危険視されています。正常妊娠では、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で細胞外水分比も増加しますが、妊娠高血圧症候群では逆に、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が減少する中で細胞外水分比が増加します。また、細胞外水分比の増加幅も正常妊娠のケースより大きく、明らかな違いが見られます。


最後に

出産に向けての約10か月間は体成分が大きく変化しますが、そのときの変化はどのような変化だったでしょうか。母子共に健康な証である変化だったでしょうか。それとも、妊娠合併症などの、状態が悪くなっているサインである変化だったでしょうか。妊娠中は、吐き気・眠気・便秘・下肢浮腫・頭痛・動悸・腰痛など様々な不調が現れ、出産に対する不安や恐れから情緒不安定になる方も少なくありません。このような状態でも、お母さんは母子共に無事出産を乗り越えるために、自身の健康と体重管理を頑張っています。頑張っていても、思うように体重管理が上手くコントロールできていないかもしれません。自分の状態を理解していても、出産に対する恐怖が先行してしまうかもしれません。


そのとき先ずは、家族の方が一緒になって、現状について知ってください。妊婦健診を一緒に受けてみることも良い方法です。毎週どれだけ体重が増加しているのかも気にしてみてください。また、医師から体重の過度な増加を指摘されている時は、家族が一緒になって食事の改善や適度な運動を行ってみてください。InBodyも家族の一員となって、妊娠期間の健康や体重管理のために、少しでも役立てることを願っています。

参考文献
1. 荒木勤, 胎児の発育とその異常. 日医大誌第51巻第1号, 1984
2.「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル 厚生労働科学研究成果
3. Herbert Valensie et al., Multifrequency bioelectrical impedance analysis in women with a normal and hypertensive pregnancy. Am J Clin Nutr. 2000 Sep;72(3):780-3.
4. InBodyトピック「出産後に体型を戻す方法