実はよくわからない牛乳の話

スーパーの乳製品コーナーに行くと、様々な種類の牛乳パックが目に入ります。大きさも名前も全て違いますが、それぞれ何が違うのかは分かっていないという方も多いでしょう。更に横には豆乳・ココナッツミルク・アーモンドミルクなど植物の名前がついている「〇〇ミルク」もたくさん並んでいます。ミルクと聞くとすぐ牛乳が思い浮かぶことから、「牛乳は牛から出るもののはずなのに植物からミルク?」という疑問が浮かんでもおかしくないでしょう。 また、牛乳を飲んですぐお腹を壊した経験がある方は、自分は乳製品を食べられないのだと思い込んでいるかもしれません。

このように牛乳は私たちの生活に馴染みのある飲み物ですが、誤解されている部分もたくさんあります。今回は、そんな ”牛乳”について様々な観点から見てみたいと思います。


「牛乳類」=「牛乳」?

牛乳と言えば、紙パックに入っている白い飲み物を思い浮かべるでしょう。また、「コーヒーミルク」を思い浮かべた方もいるかもしれません。ではここで質問です。「牛乳」と「コーヒーミルク」は同じ分類になるのでしょうか? 正解は「同じ分類ではない」です。

食品衛生法の関連省令やその他関係規制により、「牛乳類」に属する製品は原材料や成分含有量によって、「牛乳・成分調整牛乳・低脂肪牛乳・無脂肪牛乳・加工乳・乳飲料」の6つに分類 されます。

種類別原材料成分衛生基準
乳脂肪分無脂肪固形分細菌数(1mlあたり)大腸菌類
牛乳生乳100%3.0%以上8.0%以上5万以下陰性
成分調整牛乳生乳100%1.5%以上8.0%以上5万以下陰性
低脂肪牛乳生乳100%0.5~1.5%8.0%以上5万以下陰性
無脂肪牛乳生乳100%0.5未満8.0%以上5万以下陰性
加工乳8.0%以上5万以下陰性
乳飲料乳固形分3.0%以上3万以下陰性

厚生労働省「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」より抜粋

学校の給食などでよく飲んだ白い「牛乳」は100%生乳で作られるため「牛乳」に該当しますが、コーヒーミルク は乳製品以外のものが加えられた飲み物であるため「乳飲料」に該当します。一方、スーパーの乳製品コーナーにある「カルシウム増量」や「低脂肪タイプ」とパッケージに書かれている製品は「加工乳」に該当し、「牛乳」として分類されません。これらの加工乳は牛乳を原料にして特定の成分を強化(カルシウム)または低減(乳脂肪)させたものなので、牛乳とは別のものとして区分されます。

原則、牛乳とは違う加工乳または乳飲料は、食品衛生法に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令などにより、商品名に「牛乳」は使用できませんが、商品名に「乳」または「ミルク」の文字を使用することは認められています。また一括表示欄の種類別名称には「加工乳」または「乳飲料」と明記することが定められています。牛乳選びの際には商品名や種類別表記を見て、商品を選択するのも良いでしょう。
参考までに、低脂肪牛乳の基準は「成分調整牛乳のうち、乳脂肪分を0.5%以上1.5%以下にしたもの」となっていますが、低脂肪乳(加工乳)の場合「乳脂肪分が100mlあたり0.5g~1.5g以下であること、もしくは対象の種類別牛乳に比べて乳脂肪分が100mlあたり1.5g以上低減、または、25%以上低減されているもの」となっています。つまり、同じく「低脂肪」と表示されていても、加工乳の方が低脂肪牛乳より乳脂肪分が多い可能性もあるということです。


牛乳の栄養成分

準完全栄養食品とされている牛乳には、三大栄養素とされる炭水化物・タンパク質・脂質はもちろん、カルシウムやマグネシウム・ビタミンも豊富に含まれており、各種栄養素をバランスよく摂ることができます。特にカルシウムに関してはコップ1杯(200ml)に1日推奨摂取量(600~800mg) ¹⁾の25%以上が含まれています。カルシウムは牛乳以外の食品にも含まれていますが、牛乳のタンパク質が消化される過程で作られるカゼインホスホペプチド(CPP)がカルシウムの吸収を促進します。そのため、イワシやワカサギなどの小魚類(約33%)や小松菜・モロヘイヤ・オカヒジキなどの野菜(約19%)と比べて、吸収率が高い(約40%) のもメリットと言えます²⁾。また、ビタミンB群・リン・鉄・食物繊維・カリウムなど、他の栄養素も手軽に補充できるため、成長期の子供や高齢者など、年代を問わず健康に役立つ食品です。


植物性ミルクとは

ベジタリアンやビーガン、または牛乳アレルギーがある人のための代替乳として注目されているのが植物性ミルクです。特にここ数年では健康意識や温室効果ガスによる異常気候への関心が高まり、菜食に切り替える人が増えていることから、植物性ミルクの需要も世界中で急増しています。

植物性ミルクには様々な種類があります。代表的なのは豆乳(大豆)ですが、最近ではアーモンドミルク(アーモンド)やオーツミルク(オーツ麦)、マカダミアミルク(マカダミアナッツ)、ライスミルク(お米)なども販売されています。特にライスミルクはナッツ類アレルギーや大豆アレルギーの方も飲めるのが強みです。また、牛乳と違って常温保存ができ、保存期間も長いというメリットもあります。

一方、植物性ミルクは原材料によって含まれている栄養素やカロリーが異なり、種類毎に確認が必要です。特に、牛乳には豊富に含まれているカルシウムやタンパク質が、植物性ミルクには含まれていないもしくは少ない場合もあるため、牛乳の代わりに植物性ミルクを選ぶ際には足りない栄養素を他の食品やサプリで補うなどの工夫をした方が良いでしょう。


太る? がんのリスクが高くなる? 牛乳の誤解

牛乳は慣れ親しんだ食品ですが、知名度に比べてその生産過程や成分については漠然としか分かっていない人が多いです。そのため、誤解される部分も少なくありません。果たして、実際はどうでしょうか。


誤解1. 牛乳には乳脂肪が多いので太りやすい

「乳脂肪」という単語から、牛乳を飲むと太りやすいと先入観を持ってしまうかもしれません。しかし、牛乳を飲むだけで太るわけではないので、このような心配は不要です。 太る理由は乳脂肪など脂肪そのものの摂取ではなく、摂取エネルギー量が消費エネルギー量を上回り、余ったエネルギーを脂肪に変えて蓄えるためであります。

もう少し詳しく考えてみると、コップ1杯(200ml)の牛乳のエネルギーは121kcal 、脂質は7.8gです。一方、若年女性の1日に必要な総エネルギー量は約2,000kcal、脂質の目標摂取量は54gとされています。この数値から計算すると、コップ1杯の牛乳が及ぼす影響はカロリーで7%ほど、脂質では14.5%ほどなので、1日1杯の牛乳が太る原因になるとは言い難いでしょう。

また、アメリカで行われた研究では、肥満や疾患がない一般健常者12万名を16~24年間追跡し、そのデータを分析した結果、牛乳・チーズ・ヨーグルトなど様々なタンパク質食品を毎日1食、長期間摂取しても体重増加は見られませんでした³⁾。


誤解2. 牛乳はがんのリスクを高める

牛乳摂取はがんのリスクになるという話を聞いたことがあるでしょうか? しかし、実際は牛乳摂取を行うことでがんのリスクを高める可能性は極めて低いとされています。 牛乳には子牛が成長するために必要な様々な栄養分が含まれており、微量ながらIGF-1(成長ホルモン)やエストロゲン(女性ホルモン)も含まれています。これらのホルモンは人体にも存在しますが、がんの発症や進行を促進することから、牛乳を飲むとがんのリスクが高くなると誤解されることも多いです。

しかし、牛乳に含まれているIGF-1やエストロゲンの量はこれらの血中濃度を過剰に高めるほど多く含まれておらず 、IGF-1は牛乳の製造過程で行われる殺菌と体内における消化過程で減少します。エストロゲンの含有量もごく微量であり、人体にほとんど影響を及ぼさないことが報告されています。

また、牛乳摂取と乳がんの関連性について調べた論文でも、牛乳摂取が乳がんのリスクを高めることは確認されず、反対に乳製品(ヨーグルトなど)の摂取が乳がんリスクを減少させる可能性が示唆されています⁴⁾。


誤解3. アジア人は牛乳を飲むとお腹を壊す?

牛乳を飲むと下痢や腹痛などの症状が現れることがあります。しかし、この症状は疾患ではなく、少しの工夫で軽減させることができます。

牛乳を飲むとお腹が痛くなる症状は「乳糖不耐症」と言います。これは牛乳に含まれる乳糖が体内で上手く分解・吸収されないことが原因で発症します。乳糖を分解する酵素であるラクターゼは小腸で分泌されますが、乳幼児と比べて、成人は乳以外の食料から栄養素やエネルギーを摂取できることから、ラクターゼの分泌量が減少し、その働きが弱まります。その結果、小腸で分解・吸収できなかった乳糖が大腸まで到達し、大腸の細菌によって分解される過程でガスが発生したり(腹部膨満感)、分解によって生成された有機酸類によって刺激されたり(腹痛)、乳糖の高い浸透圧が原因で大腸内に水分が移動して便が緩くなったり(下痢)します。しかし、成人においてラクターゼの分泌量の減少や、その働きが弱まることは成長による自然な変化であるため、問題ではありません。

乳糖不耐症は摂取した乳糖を上手く消化できないことが原因で起こる症状なので、一回に摂取する量を調整するなど摂取方法を工夫することで乳糖の影響を抑えることができます。簡単な方法としては数回に分けて飲む、料理に入れるなどがあり、ヨーグルトやチーズなど加工された乳製品を摂取することも方法の一つです。また、毎日飲む量を少しずつ増やしていくと症状が改善されるという研究もあります⁵⁾。


筋肉作りと牛乳

牛乳にはタンパク質が豊富に含まれていることから、運動をする人の強い味方にもなります。運動前に牛乳を飲んで糖質(乳糖)を少し摂取することで、運動中の急な血糖値低下を抑えてより長くパフォーマンスを維持して運動を続けることができ、筋タンパクの分解も抑制できます。

また、運動後にプロテインを摂取することが筋肉の回復や合成に役立つということはよく知らされていますが、牛乳もプロテインと同じ役割が期待できます。プロテインの種類として有名なホエイプロテインとカゼインプロテインはどちらも、元々牛乳に含まれているタンパク質です。つまり、運動後に牛乳を飲むと自然にタンパク質の補充ができるのと同時に、運動によって損失した水分と電解質も補給できるため、手軽にタンパク質を補給できる方法としておすすめです。 更に、様々な栄養素を摂取できる上に低カロリーであるため、牛乳にプロテイン粉末を混ぜて飲むことで摂取カロリーを抑えつつ、効率的にタンパク質などの栄養素を摂取できます。
牛乳を飲む最適なタイミングは運動後30分以内と言われています。運動後45分~1時間は運動によって損傷した筋肉を修復・回復させるタイミングのため、その前にタンパク質を補給することで栄養素の吸収率が高くなります。この間に良質のタンパク質を摂ることは、筋肉の成長にも繋がります。


牛乳や乳製品を取り入れてバランスの良い食生活へと一歩前進

忙しい現代社会では、必要な栄養素をしっかり摂ることができない日もあるでしょう。朝食や昼食が疎かになる、運動する前に何かを食べる時間が取れないなど、栄養補給がどうしても難しいとき、牛乳を含む乳製品は不足しやすい栄養分を手軽に補える食品です。最近乳製品を摂る機会が少なくなっているのであれば、まずは一つ、乳製品を食生活に取り入れてみるのはいかがでしょうか。

参考文献
1. 日本人の食事摂取基準(2020年版)
2. 上西一弘ほか「日本人若年成人女性における牛乳、小魚(ワカサギ、イワシ)、野菜(コマツナ、モロヘイヤ、オカヒジキ)のカルシウム吸収率」『日本栄養・食糧学会誌』Vol.51、公益社団法人日本栄養・食糧学会(1998年)
3. Smith JD, Hou T, Ludwig DS, Rimm EB, Willett W, Hu FB, Mozaffarian D. Changes in intake of protein foods, carbohydrate amount and quality, and long-term weight change: results from 3 prospective cohorts. Am J Clin Nutr. 2015 Jun;101(6):1216-24.
4. Dong JY, Zhang L, He K, Qin LQ. Dairy consumption and risk of breast cancer: a meta-analysis of prospective cohort studies. Breast Cancer Res Treat. 2011 May;127(1):23-31.
5. 第50回日本小児消化管機能研究会(乳糖不耐症臨床研究報告)「牛乳・乳製品摂取でおこす腹部自覚症状の原因検索の試み」、「乳糖吸収不全における牛乳漸増負荷治療の有用性と腸内細菌叢の変化」