太りにくい主食はあるのか!?

ダイエットやボディメイクを行うとき、特に気を付けなければならないのが食生活です。三大栄養素であるタンパク質・炭水化物・脂質は人間に必要な栄養素の中で特に重要な成分であり、これらを考慮して1日3食栄養バランスの良い食事を摂取する必要があります。ダイエットのやり方の一つとしてよく耳にする「糖質制限ダイエット」は、三大栄養素の一つである炭水化物の摂取量を制限する方法です。炭水化物は体に消化吸収される糖質と、消化できない食物繊維に分かれており、糖質制限ダイエットは前者を制限することで余剰分の糖質が脂肪に変わり、蓄積されるのを制限します。また、糖質制限中はタンパク質や良質な脂質を多く摂取してカロリーが不足しないようにします。しかし、糖質は体内で主要なエネルギー源として使用されます。体脂肪の原因になるとはいえ、糖質の摂取量が少なすぎることはむしろ不健康に繋がります。

近年、糖質の構成成分であるデンプンで構成されていながら、体に消化吸収されにくい性質を持った物質=レジスタントスターチの存在が明らかになってきました。もしかしたら一度は耳にしたことがある名前かもしれません。今回はレジスタントスターチについてご紹介します。


レジスタントスターチとは?

レジスタントスターチは1982年にEnglystらによって発見されたもので¹⁾、健康なヒトの小腸では消化吸収されずに大腸まで届くデンプン及びデンプン分解物の総称です。「レジスタント」=「消化されない」、「スターチ」=「デンプン」という意味で、難消化性デンプンもしくは耐性デンプンとも呼ばれます。レジスタントスターチはデンプンでありながらエネルギーになりにくい食物繊維の一種とされており、腸内細菌を活性化させることで便秘改善、血中コレステロール・中性脂肪の減少、血糖値の急上昇を抑制する効果も期待されています。食物繊維の中でも腸内細菌に対して良い影響を与える効果があり、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の特性をあわせ持つことから、ユニークな食物繊維として注目されています。


レジスタントスターチの効果

大腸まで届くレジスタントスターチはどのような良い効果を持っているのでしょうか? いくつかの効果を確認してみましょう。

➤血糖値の上昇抑制
通常のデンプンは、口から摂取すると小腸で消化酵素によって分解されてグルコースになり、血液へ取り込まれるため血糖値が上がります。一方、レジスタントスターチは消化酵素ですぐに分解されず、ゆっくりと代謝されるので「血糖値の上昇が緩やかになる」「インスリンの分泌を抑える」などの効果があります。ヨーロッパでは、レジスタントスターチを14%以上含む食品について「食後の血糖値反応の減少」という内容の表示(ヘルスクレーム)をすることが認められています。

➤腸内環境改善
大腸に届いたレジスタントスターチは、腸内細菌によって代謝されて、酢酸・プロピオン酸・酪酸・コハク酸などの短鎖脂肪酸に変えられます。これらは腸内を悪玉菌が活動しにくい弱酸性に維持する効果があり、善玉菌を育てやすくします。更に、大腸から体内へ吸収されて大腸癌や大腸炎の予防・中性脂肪やコレステロール値の上昇抑制・インスリン抵抗性の改善など、全身の健康維持に役立つことが報告されています³⁾。

➤空腹感の抑制
レジスタントスターチを多く含んだ食品を摂ると、大腸でゆっくりと代謝され、摂取してから体に吸収されるまでかかる時間が長いため空腹感の抑制に繋がります。また同時にセカンドミール効果が生じます。これは1982年にカナダ・トロント大学のJenkinsらによって提唱され、1回目の食事の内容によって、2回目の食事後の血糖値上昇を緩やかにできるという理論です⁴⁾。また、レジスタントスターチの代謝で作られる短鎖脂肪酸が腸内にあるとGLP-1という消化ホルモンが分泌され、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。

➤摂取カロリーの減少
デンプン1gあたりのカロリーは通常4kcalですが、レジスタントスターチのように小腸で消化されずに大腸で腸内細菌に代謝されて短鎖脂肪酸として吸収されるデンプンのカロリーは1gあたり2kcalと、通常のデンプンの半分になります。但し、含まれる炭水化物がすべてレジスタントスターチである食品は存在しないので、炭水化物から摂取するカロリーすべてが半分にはならないことに注意が必要です。


レジスタントスターチの種類

レジスタントスターチは消化抵抗性・抵抗性などによって、大きく4種類に分類されます⁵⁾⁶⁾。

➤RS1
硬い組織に囲まれていることで物理的に消化酵素がデンプンまで届かないタイプ。代表的な食品として全粒粉などが挙げられますが、整腸作用による便量の増加・血糖値上昇の抑制・心疾患リスク低減の可能性などが報告されています。
例) 全粒粉、ライ麦、豆類など

➤RS2
十分に加熱されていない未糊化のデンプンやアミロースの極めて多いデンプンなど、デンプンの粒子自体が消化されにくいタイプ。アミロース含量が50%を超えるデンプンを指します。食物繊維の摂取量を増加させるために、パンやパスタに添加されることもあります。腸内環境の改善・血糖値上昇の抑制・脂質代謝の改善・炎症性腸疾患の予防など有益な効果がありますが、大量摂取すると大腸内での発酵パターンを大きく変動させてしまうので適量に摂取するようにしましょう。
例) グリーンバナナ、長芋、ハイアミローススターチなど

➤RS3
一度加熱されて糊化したあと、冷めたり保存したりする過程で一部のデンプンが再結晶して消化されにくい構造に変化したタイプ。血糖値上昇を抑えることから、RS3を添加した食パンが食後の血糖値の上昇を穏やかにする特定保健用食品として販売されています。
例) 冷やご飯、ポテトサラダ、春雨など

➤RS4
加工デンプンの一種で、デンプンを化学修飾することで消化酵素が作用しにくくなったタイプ。肥満防止・腸内環境の改善・血糖値上昇の抑制・脂質代謝の改善などの効果が報告されています。
例) パン、うどんなど


レジスタントスターチをより効率良く摂取するために

レジスタントスターチを多く含む食品の例として、芋類や豆類が挙げられます。レジスタントスターチは一度加熱してから冷やすと含まれる量が増えることがあり、増えやすい温度は4-5℃と言われています。そのため、レジスタントスターチを含む食品の殆どは加熱した後は冷蔵庫で冷やすことをお勧めします。冷やすときも、急速冷凍ではレジスタントスターチが作られにくいので、ゆっくり冷やすことが大切です。

また、加熱時の調理方法も大事で、焼くよりも茹でたり蒸したりすると、レジスタントスターチが増加しやすくなるのでお勧めです。サツマイモの調理方法に関する発表では、同じ蒸すでも電子レンジの加熱よりも蒸気で蒸すとレジスタントスターチが多くなることが報告されています(生: 12.0%、ゆで: 8.8%、蒸し: 10.2%、レンジ加熱: 5.2%)⁷⁾。レジスタントスターチを効率良く摂取したい場合は、一度冷やした食品を再加熱しないよう注意してください。レジスタントスターチが普通のデンプンに戻ってしまいます。

一方、全ての食品が加熱して冷やすとレジスタントスターチが増えるわけではなく、生でも食べられる長芋は、加熱することでレジスタントスターチが大きく減少することが分かっています(生: 33.5%、70℃加熱: 5.2%)⁸⁾。そのため、長芋はサラダで食べたり、すりおろして食べたりする方が良いでしょう。

レジスタントスターチを意識することで普段と同じものを食べながらでも、調理方法や保存方法に気を付けるだけで血糖値の上昇を抑えたり摂取カロリーを減らしたりすることができます。早速今日の食卓から取り入れてみませんか?

参考文献
1. Englyst, H.N., Wiggins, H.S. and Cummings, J.H., Determination of the non-starch polysaccharides in plant foods by gas-liquid chromatography of the constituent sugars as alditol acetates. Analyst. 1982; 107:307-312.
2. EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA), Scientific Opinion on the substantiation of healthclaims related to resistant starch and reduction of post-prandial glycaemic responses(ID 681), “digestive health benefits”(ID 682) and “favours a normal colon metabolism” (ID 783) pursuant to Article 13(1) of Regulation (EC) No 1924/2006.EFSA Journal 2011;9(4):2024
3. A.P.Nugent, Health properties of resistant starch. Nutrition Bulletin. 2005; 30: 27-54.
4. Jenkins DJ, Wolever TM, Taylor RH et al., Slow release dietary carbohydrate improves second meal tolerance. Am J Clin Nutr. 1982 Jun; 35(6):1339-46.
5. 後藤 勝, レジスタントスターチの開発. 日本家政学会誌. 2014; 65(4):197-202
6. 海老原清, レジスタントスターチの栄養・生理機能. 日本調理科学会誌. 2014;47(1):49-52
7. 亀井 文, 渡邉 明恵, さつまいもの加熱調理方法の違いによるレジスタントスターチ量と不溶性食物繊維量について.日本調理科学会大会研究発表要旨集. 2013; 25(0):135
8. 亀井 文, 坂岡 優美, 長芋の調理形態と加熱処理温度によるレジスタントスターチ量の変化.日本調理科学会大会研究発表要旨集. 2018; 30(0):141