真夏の食欲低下対策
夏本番を迎え、暑い日々が続きますがいかがお過ごしでしょうか? 暑くなってくるとどうしても食欲が落ちやすくなります。食欲は人間の三大欲求の1つであり、生命を維持する上で非常に重要な欲求です。夏になると暑さによる体力の消耗が激しくなるため、しっかり食事を摂り体力を維持することが大事ですが、食欲が落ちてしまい食事も疎かになりやすいです。栄養を摂らないといけないはずなのに、どうして食欲は落ちるのでしょうか? また、食欲がない中でどうやって栄養を摂取すればよいのでしょうか? 今回は食欲についてお話ししていきます。
食欲のメカニズム
そもそも、食欲はどのようにして生まれるのでしょうか?
食欲を制御するのは脳内の視床下部にある摂食中枢(空腹中枢)と満腹中枢の2つです。名前の通り、摂食中枢は空腹を感じさせて食事を促し、満腹中枢は満腹を感じさせて食欲を抑える働きをしています。視床下部は自律神経系(交感神経・副交感神経)の機能および内分泌機能を総合的に調節しています。食事や飲水、睡眠などの本能行動、また怒りや不安などの情動行動など様々な行動が視床下部によってコントロールされています。
空腹になると血糖値が下がり体内の脂肪が分解されて脂肪酸が遊離します。その脂肪酸が摂食中枢を刺激し空腹状態を実感させることで、食欲がわき食事するように仕向けています。胃の中が空になると摂食中枢に食欲をわかせる信号が伝わる場合もあります。そして、食事から摂取した栄養素が分解されると血中グルコース濃度が高くなって血糖値が上昇し、満腹中枢が刺激されて満腹状態を実感させることで食欲を抑えます。このように、食欲は自律神経系によって調節されていますが、何らかの原因で自律神経系のバランスが乱れると、食欲が落ちてしまうのです。
夏バテと食欲
6月の梅雨から9月にかけて続く、日本独特の高温多湿で不快な夏の気候は、体にストレスとして働き自律神経系を乱してしまいます。これが、いわゆる「夏バテ」状態です。
自律神経系は交感神経と副交感神経に分かれ、相互作用によって常に体の内部環境を一定にするように働いています。日中には交感神経が優位となり、血圧や脈拍を上げ、胃腸の動きを減らして筋肉を緊張させ体を活動状態にします。日が暮れて夜になると副交感神経が優位となり、血圧や脈拍を下げて筋肉を弛緩させて体をリラックス状態にしつつ、胃腸の動きを高めて食べ物の消化・吸収を促します。
自律神経系は気温の変化に応じて、血流や発汗を調節して体温を一定に保つ働きも担っています。暑いときは体の表面に近い血管を大きく拡張させて血流を増やしたり発汗させたりすることで、体外へ熱を逃がして体温が上がらないように調節します。逆に、寒いときには血管を縮めて血流を減らすことで、できるだけ熱が体外へ逃げないように調節します。
夏バテは屋外の高温環境と屋内のエアコンが効いた冷房環境を1日に何度も行き来し、急激な気温差に24時間対応し続けた結果、自律神経系が疲労してバランスが崩れてしまうことで発生します。自律神経系から指示を受けている臓器も機能が低下し、胃腸の不調や食欲の低下など様々な症状に襲われます。
食欲低下の原因と対策
食欲低下は自律神経系の乱れから引き起こされますが、自律神経系が乱れる原因にはどのようなものがあるのでしょうか? 自律神経系が乱れる理由とそれを抑えるためにどのような対策を取ればよいのかご紹介します。
➤睡眠不足
夏は熱帯夜でなかなか寝付けなかったり、折角寝付いても眠りが浅かったりなどで睡眠の質が低下しやすいです。自律神経系を含む脳の疲労回復には睡眠が一番大切ですが、睡眠不足で回復ができない状態が続くと食欲の低下を招く原因になります。寝る時はエアコンや扇風機を使用して室温を調整し、十分な睡眠ができるよう心掛ける必要があります。昼寝やうたた寝では脳は回復しないため、夜に最低6時間以上連続して睡眠を取る必要があります。
➤気温差による身体的・精神的ストレス
前述の通り、夏場に自律神経系が疲労する大きな原因が気温差です。特に近年は地球温暖化によって外はより暑く、エアコンの普及で建物や電車内はより冷えており、極端な気温差が1日の内に何度も発生するため、自律神経系に大きな負担がかかります。
日中の家の中やオフィスの温度は、実測値で26~27℃程度に保ち冷え過ぎないようにしましょう。従って、各部屋に温度計を設置し、実測値に基づいてエアコンの温度を調節するのがおすすめです。また、過ごしやすい気温は人それぞれで、暑がりの人がエアコンの設定温度を一気に下げると冷えに弱い人は体調不良になりやすいです。そのため、暑がりの人には個人用扇風機などを利用してもらい、部屋全体が冷え過ぎないようにすることが大切です。
夜間はエアコンの効き過ぎに十分注意しましょう。睡眠時は体温が下がって冷えやすくなるため、起きている時よりも高めの温度設定にしてください。食事や飲み物も暑いからといってキンキンに冷やした物ばかりでは体の芯が冷えてしまいます。温かい料理や汁物を食事のメニューに一品は加えて、胃腸を冷やし過ぎないようにしましょう。
➤栄養不足
夏は食欲がないことであっさりした簡単なもので食事を済ませがちになります。蕎麦やそうめんなど、冷たい麺類ばかり食べてはいませんか? その結果、疲労回復に必要なタンパク質が不足してしまい、食欲低下がより深刻になる悪循環に陥ります。タンパク質は五大栄養素にも含まれる重要な栄養素ですが、夏は特に意識して摂るようにしましょう。
※タンパク質について詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-」もご覧ください。
食欲がない時にお勧めの食品
食欲がないからと言って食事を抜いてしまうと、健康を損なう恐れもあります。ここでは、食欲がない時も比較的食べやすいお勧めの食品をご紹介します。
➤口当たりの良い食品
おかゆ・雑炊・うどんなどの柔らかい炭水化物や、ヨーグルト・ゼリー・プリンなど飲み込みやすい食べ物を選びましょう。食べ物を咀嚼し飲み込むことは思っている以上に体力を使います。少しでも食べることの負担を和らげると良いでしょう。
➤緑黄色野菜や海草類などビタミン・ミネラルを含む食品
ビタミンやミネラルはタンパク質の吸収・代謝を助けます。夏野菜を積極的に食事に取り入れてタンパク質と一緒に摂取するように心がけましょう。
➤食欲を増進させるクエン酸を含む食品
クエン酸は主にレモンやグレープフルーツなどの柑橘類に含まれる酸味成分です。酸味は唾液や胃液の分泌を促進し、食欲を増進させる効果があります。クエン酸は柑橘類以外にもお酢・梅干し・パイナップルなどにも含まれているため、普段の食事にお酢や梅干しで味付けすることで食欲増進効果が期待できます。クエン酸には食欲を促進する効果以外にも、乳酸を分解する疲労回復効果・汗をかいて失いやすいミネラルの吸収を助ける効果・新陳代謝を活発にして古くなった角質をスムーズに作り替える美肌効果などの様々なメリットがあります。
➤食欲を刺激してくれる香辛料
香辛料に含まれる辛味成分は消化器の粘膜を刺激して唾液や胃液の分泌を促すことができます。更に、腸の蠕動運動を促進させることで栄養の吸収も高めます。意識的に大葉やにんにく・しょうが・とうがらしなどを食事の薬味や味付けに使ってみましょう。カレーのように複数の香辛料を使用すると、相乗効果で更に食欲が増します。但し、香辛料は刺激が強いものもあるので、胃腸が弱っている場合は余計に負担をかけてしまうため注意が必要です。
今はコロナ禍で難しいですが、外食をしたり友人と一緒にご飯を食べたりすることも食欲増進に繋がります。親しい人と楽しむ食事は自然と食欲もわいてきます。家族で一緒に暮らしていても、生活リズムや帰宅時間が違うことで孤食になりがちですが、たまには時間を合わせて一緒に食事するのも良いかもしれません。今回のトピックを是非参考にして、厳しい夏の暑さを乗り越えるのに役立ててください。
参考文献
1. 岡田 忍監修 『看護のための症状Q&Aガイドブック』 サイオ出版
2. 日本成人病予防協会 『夏バテ予防』