すべての女性が筋トレを行うべき科学的根拠
健康に関する目標を尋ねた時に、”体重(体脂肪量)の減量” ではなく ”筋肉量の増加” と答える方は、女性の中でどれくらいいるのでしょうか? 本当の意味での健康体とは、一体どのような体型を指すのでしょうか? ただ痩せているだけではなく筋肉で引き締まったスタイルを手に入れるためには、どのようなトレーニングが必要なのでしょうか? 今回のトピックでは、特に女性が知ってほしい筋トレに関する科学的根拠や迷信についてご紹介します。
女性は筋トレを避けるべきという迷信
筋トレに関する様々な迷信や誤解があります。これらの中には、女性がウエイトトレーニングや高負荷トレーニングを行わないよう推奨しているものもあります。次に紹介するのは一般的に広まってしまっている3つの迷信です。
迷信1:ウエイトトレーニングを行うと、ずんぐりとした体型になる
多くの女性はウエイトトレーニングなどの筋トレが体重増加やずんぐりとした体型に繋がるため、男性だけが行うべきトレーニングと考えています。確かに、筋トレを行うと筋肉量(除脂肪量)の増加によって体重が増える可能性があります。しかし、筋肉は脂肪よりも密度が高いので増加しても思うほど見た目は太くならず、むしろ引き締まった体型になります。また、筋トレによって筋肉が増加しても同量の体脂肪を減らせば、体重は変わらずボディラインはよりスリムになるため、実際の体重より痩せて見えることもあります。筋肥大を目的として高強度トレーニング(1RMの75%以上強度, RM:最大挙上重量, 反復回数4-12RM)ばかりを行わない限り男性のように筋肉が強調されてムキムキになることはありません。ダイエットまたは健康増進を目的とした筋トレの負荷程度では筋力と筋持久力の向上が主な効果として得られますが、そこまでの筋肥大は生じません。
つまり、筋トレで太って見えるようになることはなく、筋肉量が多いほど時間の経過とともに消費できるカロリー(燃焼する体脂肪量)も多くなるなどのメリットもあるため、将来的に体成分が良くなるための投資と考えてください。「健康」の定義は人それぞれですが、体重だけを基準にせず、見た目の体型や気分、そして筋肉量をはじめとした体成分の数値などの様々な基準で、健康を測ることができます。
※消費エネルギーに関する調整法など詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「体脂肪減量に関する5つの迷信」もご覧ください。
迷信2:軽い重さでは効果が得られない
女性を対象に3つの筋トレ方法(高強度低反復vs中強度中反復vs低強度高反復)の効果を調べた研究では、トレーニング方法の違いに関係なく全ての方法で筋力と筋肉量が増加したことが報告されています¹⁾。体重の2倍ものバーベルを持ち上げたり、頭のサイズほど大きいダンベルをカールさせたりする必要はなく、軽い重さでも反復回数を調整すれば、筋トレの効果は十分得られます。
迷信3:筋トレは高齢者に適さない
筋肉の喪失を意味する「サルコペニア」は老化過程で発生する自然な現象ではありますが、高齢者だけが直面している問題ではありません。40代後半から筋肉量は徐々に減少していくことが報告されていますが²⁾、女性の中には30代後半から段階的に減少していく人もいます。このように若い内から筋肉量や筋力が低下していくことは、老化のプロセスではなく活動量が少ないことに起因します。
加齢や活動量低下によって筋肉量が減少していくにもかかわらず、中年女性や高齢女性では筋トレに抵抗意識を持つ人が多いです。トレーニングや身体活動をしない期間が長くなると、”年を取りすぎて、もう重いものは持てない” という誤った認識から、筋トレで自身の体力レベルを改善することに消極的になってしまいます。
しかし、勉強と同じく、筋トレも”始めるには遅すぎる” “年齢制限がある” というものではありません。筋トレの効果を得るには “若くなければいけない” ということはありません。高齢者が対象であっても、筋トレの効果が認められた報告はいくつもあります。
※高齢者にもお勧めできるトレーニングなどもう少し詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「筋トレに年齢制限なし」もご覧ください。
筋トレがもたらす様々な利点
筋肉量(除脂肪量)を増やして体成分を改善することは、見た目が健康的になること以外にもいくつかの利点があります。
➤骨・関節への効果
運動習慣がない成人は、10年ごとに3~8%もの筋肉量が減少するという研究もあります。筋トレを行うことは骨格筋の減少を防ぐだけでなく、内臓脂肪の減少・HbA1cの減少・安静時血圧の低下・心血管の健康増進等の利点があります。また、筋トレは骨の発達を促進することから、骨密度の増加や腰痛・関節炎の軽減などにも効果的であると報告されています³⁾。特に女性は更年期以降、骨粗鬆症のリスクが一層高まるので、筋トレで除脂肪量を増やして予防するという意識も必要です⁴⁾。
➤精神的な効果(不安やストレスの軽減)
面白いことに、筋トレにはリラックス効果やストレス・不安の緩和効果もあります。筋トレとストレス軽減に相関関係があることを報告した研究では、筋トレの強度は低-中強度(1RMの70%以下強度, RM:最大挙上重量, 反復回数12RM以上)が最適であるとしています⁵⁾。
最適な筋トレの頻度
筋トレを効果的に行うためには筋肉を休ませる時間が必要で、その時間は運動負荷の程度によって異なります。運動後の休息期間に起こる修復のリバウンドを超回復と言いますが、超回復には運動後24~48時間ほどの休息が必要です。運動負荷が大きい場合は48~72時間の休息が必要です⁷⁾。つまり筋トレの頻度は週に2-3回が最適であると言えます。
※超回復に関する詳しい説明は、InBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」をご覧ください。
例えば週に2回、上半身(肩・胸・お腹周り・背中・腕など)と下半身(お尻・太もも・ふくらはぎなど)を交互に実施すれば、全身の筋肉をバランス良く鍛えることができます。筋トレ初心者は、エクササイズバンドや軽いダンベルを使用するトレーニングを週1回実施することから始めてみましょう。また、スクワット・腹筋・腕立て伏せ・ぶら下がりなどの自重トレーニングを隔日で行うことも効果的です。
終わりに
今回は筋トレの重要性に焦点を当ててお話ししましたが、スリムで引き締まった健康的なスタイルは、筋トレだけでなく有酸素運動も組み合わせて習慣化することで実現できます。まずはトレーニングプランと目標設定から決めていきましょう。体成分測定ができる環境のある方は、定期的な測定も忘れないでください。これからトレーニングを始めるにあたってInBody測定を検討されている方は、当ホームページで公開している「InBody測定ができる施設」のページからお近くの施設を検索してみてください。
体重計に縛られる目標は止めて、筋肉量(除脂肪量)の増加を目標設定に取り入れてください。筋肉量の増加という観点を持てば、筋トレの効果も正しく測定できるでしょう。体重が増えたことで落ち込むこともなくなり、筋肉量が増えたことが喜びとなります。筋トレを試したことがない、または今までなかなかダイエットに成功したことがない方は、今が行動するチャンスです。外出し辛い時期が続きますが、自重トレーニングや軽いダンベルを使った筋トレは自宅でも実施可能です。まずは一歩踏み出してみましょう。
参考文献
1. Stone William J., Coulter, Scott P., Strength/Endurance Effects From Three Resistance Training Protocols With Women. Journal of Strength and Conditioning Research. 8(4):231-234, November 1994
2. Minoru Yamada et al., Age-dependent changes in skeletal muscle mass and visceral fat area in Japanese adults from 40 to 79 years-of-age. Geriatr Gerontol Int 2014;14(Suppl.1):8–14
3. Wayne L Westcott, Resistance Training is Medicine: Effects of Strength Training on Health. Curr Sports Med Rep,Jul-Aug 2012;11(4):209-16
4. Geun Ou Shin et al., Comparison of Body Components and Mineral Mass between Women with Osteoporosis and Non osteoporosis Postmenopausal Women. J Korean Acad Fam Med 2002, 23, 7:934 941
5. Justin C. Strickland and Mark A. Smith, The anxiolytic effects of resistance exercise. Front Psychol, 2014; 5: 753