五大栄養素
-ビタミンⅡ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -ビタミンⅠ-

前回のトピックではビタミンDの働きや、過剰摂取または不足による悪影響についてご紹介しました。今回のトピックでは食事以外でビタミンDを補う方法についてご紹介していきます。


食事以外でビタミンDを補う方法

➤日光浴

肌が紫外線を吸収すると、体内の化学反応によってビタミンDを生成することができます。前回のトピック「五大栄養素 -ビタミンⅠ-」でも説明したように、ビタミンDを食事だけで摂取すると不足しやすいため、環境省では軽めの日光浴を推奨しています。但し、紫外線の浴び過ぎは免疫機能の低下や皮膚がんなどのリスクを高めるため、日光浴をする時間には注意が必要です。

季節や地域によって推奨時間は異なりますが、7月の東京では1分、札幌では1分半程度、12月の東京では7分、札幌では12分程度の日光浴で1日に必要なビタミンDを生成することができます¹⁾。但し、これは1つの目安であり、時間帯・雲の量・日焼け止め・肌のメラニン含有量などがビタミンD生成に影響を及ぼすため、日光に当たっているからと言って常にビタミンDが生成されるわけではありません。また、日光浴は日向でなく、日陰や身体の一部に日光を当てる程度でも十分ですが、その場合は推奨時間よりも少し長めに時間をとる必要があります。


▲ 紫外線を当てる部位別のビタミンD合成に必要な日光浴時間

日光浴によるビタミンDの生成は体内で必要な量しか合成しないように調節されているため、体内のビタミンDが過剰になることはありません。従って、食事による平均的な摂取と適度な日光浴によって十分なビタミンDを体内に供給することができます。

➤サプリメント*

適度な食事と日光浴ができているのであれば、サプリメントに頼る必要はありませんが、ビタミンDを豊富に含む食品が苦手で摂取できなかったり、日中に外出する機会が減ったりしている人は、サプリメントで不足分を補うことができます。特に高齢者は加齢によって血中ビタミンD濃度が減少しやすい上に、屋外での活動量減少によって長期にわたりビタミンD不足状態に陥ると、骨粗鬆症や転倒のリスクが高まってしまいます。

しかし、高齢者にビタミンD(及びカルシウム)サプリメントを毎日摂取させると、12か月後には大腿四頭筋の筋力・姿勢制御・立ち上がり・歩行などの日常的な身体機能が改善されたとの報告があります²⁾。また、ビタミンDサプリメント単体による摂取よりも、カルシウムサプメントを併用した摂取の方が転倒の再発を減少させるとも言われています³⁾。高齢者の転倒はビタミンDサプリメントの摂取のみで改善されるわけではありませんが、これらの報告は、十分なビタミンD摂取は筋力と身体機能を改善させ、転倒を減少させる可能性があることを示しています。

*薬物療法中の方 や複数のサプリメントを服用中の方は効果を最大に発揮できないこともありますので、服用前は専門家とご相談ください。


ビタミンDの摂取・生成によるメリット

このように食事以外の方法でも体に必要なビタミンDを補うことができ、骨の健康を維持することができますが、ビタミンDは次のような働きもします。

➤筋肉量の減少を抑える

ビタミンDは筋肉のタンパク質を構成する必須アミノ酸の分解と筋肉を委縮させる因子 (転写因子FOXO1)の発現を抑え、筋委縮を改善させることができます⁴⁾。高齢者がサプリメントでビタミンDを1日100μg摂取すると、4ヶ月後に筋繊維が太くなったという報告があり⁵⁾、ビタミンD摂取は筋肉量の減少を抑制することができます。また、血中ビタミンD濃度は加齢に伴い減少するので、高齢者は 若い人よりもビタミンDの補充が重要になってきます。ロコモティブシンドローム*の予防を啓発する日本整形外科学会でも、筋肉や骨のために毎日摂取したい栄養素としてビタミンDを挙げています⁶⁾。

*ロコモティブシンドロームとは「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態を表します。

➤免疫機能を調節する
ビタミンDは体内にウイルスや細菌が侵入してきた際に、過剰な免疫機能を抑えて、必要な免疫機能のみが働くように調節する役割があります。 血中ビタミンD濃度が低い人は呼吸器感染症のリスクが高いと言われており⁷⁾、免疫力の向上にはビタミンDが重要であることが分かります。特に今年は呼吸器感染症の1つに分類されるコロナウイルス(COVID-19)が流行していますが、その感染予防にビタミンD摂取が効果的であると報告している研究があります。しかし、それを否定する研究もあり、感染予防の効果有無は現在も議論されていますが、ビタミンDの摂取によって免疫力が高まることは明らかです。

➤血糖値を抑制する

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンの一種で、血液中のブドウ糖をエネルギーに変換して、血糖値を一定に保つ役割があり、筋肉量が多い人ほど適切な量が分泌される傾向にあります⁸⁾。ビタミンDはこのインスリンの作用を改善させる働きがあります⁹⁾。更に、ビタミンDとカルシウムを一緒に摂取することで糖尿病の発症リスクを減少させるとの報告もあります¹⁰⁾。つまり、血中ビタミンD濃度を充足状態にすることは、糖尿病の予防にも繋がります。


終わりに

ビタミンDは健康な日々を過ごしていくために必要不可欠な栄養素の一つです。普段の食事で必要な量を摂取できているか振り返ってみて、もし不足しているようならビタミンDが豊富な食品を食事に取り入れたり、日光に当たる時間を増やしたりすることを心掛けてみてください。また、普段の生活でビタミンDの摂取や生成が十分でない人や、加齢に伴って血中ビタミンD濃度が低下してしまう高齢者は、サプリメントで不足分を補うのを検討してみるのはいかがでしょうか。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -ビタミンⅠ-

参考文献
1.「紫外線環境保健マニュアル2020」 環境省
2. M Pfeifer et al., Effects of a long-term vitamin D and calcium supplementation on falls and parameters of muscle function in community-dwelling older individuals. Osteoporos Int. 2009 Feb;20(2):315-22.
3. Heike A Bischoff et al., Effects of vitamin D and calcium supplementation on falls: a randomized controlled trial. J Bone Miner Res. 2003 Feb;18(2):343-51.
4. 亀井 康富, ビタミンDによるサルコペニアの予防・改善の分岐基盤の分析. 乳の学術連合. 2018
5. Lisa Ceglia et al., A randomized study on the effect of vitamin D₃ supplementation on skeletal muscle morphology and vitamin D receptor concentration in older women. J Clin Endocrinol Metab. 2013 Dec;98(12):E1927-35.
6.「食生活でロコモ対策」 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
7. Ilkka Laaksi et al., An association of serum vitamin D concentrations < 40 nmol/L with acute respiratory tract infection in young Finnish men. Am J Clin Nutr. 2007 Sep;86(3):714-7. 8. B K J Glouzon et al., Muscle mass and insulin sensitivity in postmenopausal women after 6-month exercise training. Climacteric. 2015;18(6):846-51. 9. Naghmeh Mirhosseini et al., The Effect of Improved Serum 25-Hydroxyvitamin D Status on Glycemic Control in Diabetic Patients: A Meta-Analysis. J Clin Endocrinol Metab. 2017 Sep 1;102(9):3097-3110. 10. K Kirii et al., Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Calcium, vitamin D and dairy intake in relation to type 2 diabetes risk in a Japanese cohort. Diabetologia. 2009 Dec;52(12):2542-50.