睡眠は子供の体成分にどう影響するか?

近年では睡眠不足が深刻な問題として挙げられており、あらゆる年齢層に影響を与えています。テレビやパソコン、スマートフォンの普及で、子供たちは常にスクリーンにへばりついています。このような光源を発する機器は、早寝を妨げる要因の1つとなっています。スクリーンが発する ”ブルーライト” を寝る直前まで見ていると、寝付きが悪くなってしまう子供もいます。

米国睡眠医学会によると、子供の適切な睡眠量は次のように発表しています。
4カ月~12カ月:1日12時間~16時間
1歳~2歳:1日11時間~14時間
3歳~5歳:1日10時間~13時間
6歳~12歳:1日9時間~12時間
13歳~18歳:1日8時間~10時間

子供の睡眠は親が管理することになりますが、起床時間は学校の開始時間によって決まってしまうので、就寝時間を遅くならないようにコントロールする必要があります。最近は夜更かしの原因になるものが溢れており、推奨されている睡眠量を取ることが難しくなっています。しかし、睡眠不足は学校の成績だけでなく、体の健康にも影響を与えてしまいます。体の健康が食事と運動習慣に基づくことは勿論ですが、睡眠も重要な要素です。


子供にとって重要な睡眠と成長ホルモン


成長は主に成長ホルモンの影響を受けます。このホルモンは睡眠中に2時間から3時間の間隔で下垂体前葉より分泌されるので、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進されます。 また睡眠中、成長ホルモンレベルがピークに達するので、子供の成長にとって適切な睡眠量が必要であるということは理解できます。

就学前の子供でも睡眠が重要であることに変わりありません。未就学児を対象に睡眠と身体活動が成長に及ぼす影響を調査した研究¹⁾では、睡眠レベルが上がると全身の体脂肪量が減り、体脂肪率が改善されていることを発表しました。睡眠を怠惰や肥満増加の原因と考える人もいますが、子供の健康にとっては睡眠が必須です。子供たちが成長のために適切な睡眠量を取れているかどうか確認してください。


子供の睡眠と筋力


睡眠と筋力の関係について、興味深い研究がいくつかあります。青年の睡眠習慣を調べた横断研究²⁾では、睡眠が腹囲などの肥満マーカと反比例し、骨格筋量と正の相関関係があることが分かりました。しかし、最も睡眠の長かった青年も、睡眠が最も少なかった青年と同様に腹囲の増加が著しく、睡眠は少なすぎても多すぎても体成分に悪影響を及ぼす可能性があるということを示唆しています。男子大学生の睡眠習慣を調査した研究³⁾では、睡眠時間が短い(6時間未満)学生は、睡眠時間が適切な(7時間以上)学生と比べて筋力が低下していることが報告されました。

筋力が低下する理由は様々ですが、睡眠不足も1つの原因です。睡眠中にタンパク質合成が増加し、その日に分解された筋肉を再構築します。つまり、筋肉繊維を再建するには十分な睡眠が不可欠なのです。


睡眠は肥満に直接関連する


近年では小児肥満が深刻化し、小児の肥満診断基準が定められ、早期発見と予防の取り組みが求められるようになりました。厚生労働省は小児肥満を知る目安として、次の肥満度を使用しています⁴⁾。
厚生労働省:肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100
この計算式により、幼児では肥満度15%以上が肥満児、学童期以降では20~30%が軽度肥満、30~50%が中等度肥満、50%以上が高度肥満と判定されます。InBodyの研究項目にある肥満度は、
InBody:肥満度(%)=実測体重÷標準体重×100
で算出された数字なので、下二桁の数値が上記公式で算出された値と一致します。

BMC Public Healthで発表された、0-4歳児の子供を対象に睡眠の重要性に関する調査を行った研究⁵⁾では、睡眠時間が短いと成長障害や感情調整能力の未発達に加えて、体脂肪率が高くなることを発見しました。これは、より多く眠る子供は体脂肪率が良く、優れた体成分である確率が高いということを意味しています。7-9歳児を対象に睡眠を調査した横断研究⁶⁾でも同様な結果で、睡眠が9時間未満の子供は9時間以上の子らと比較して肥満になるリスクが3倍以上もあることが分かりました。体脂肪率は睡眠9時間未満の子供が23.4%、11時間以上の子供が20.9%と有意に低い値でした。

小児肥満の約70%が成人肥満に移行するといわれており、また高度の小児肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの病気を発症するリスクがあります。Obesity Reviews掲載記事⁷⁾では、習慣化された睡眠不足について次の問題を指摘しています。
➤ インスリン抵抗性が高くなる(糖尿病発症をもたらす可能性が上がる)
➤ 糖尿病が原因で食欲増進・代謝変化・体成分変化・肥満の発症に繋がる
➤ 高血圧と塩分貯留のリスクが上がり、心臓病の問題に繋がる
このような研究結果が、適切な睡眠量が肥満の治療に不可欠であることを示しています。健康な体を維持するためにはもちろん適切な食事と運動も重要ですが、睡眠も肥満の管理に重要な役割を果たすので、肥満治療計画の礎として睡眠にも介入すべきです。


健康には適切な睡眠が重要


子供たちが夜にしっかり睡眠を取れているかを確認することは非常に重要です。睡眠は、学校の成績・社会との関り・体の成長・健康にとって重要な役割を果たしています。宿題や習い事で忙しい子供は、就寝時間を早めることが難しいかもしれませんが、両親が就寝時間を一定に保つために努力することは必要です。寝る前にブルーライトを発する電子機器や運動を避け、カフェインを含む飲み物は与えないようにしてください。規則的な生活リズムを保てるように、周りの大人たちの生活リズムも一度見直してみましょう。子供が幼い時期から良い睡眠習慣を教えることは適切な発達を促し、良い健康状態、つまり健康的な体成分を成人期まで維持することに繋がります。

参考文献
1. Nancy F. Butte et al., Role of physical activity and sleep duration in growth and body composition of preschool-aged children. Obesity (Silver Spring). 2016 Jun;24(6):1328-35.
2. Nam GE et al., Sleep duration is associated with body fat and muscle mass and waist-to-height ratio beyond conventional obesity parameters in Korean adolescent boys. J Sleep Res. 2017 Aug;26(4):444-452.
3. Yanbo Chen et al., Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2017 Dec 1;17(4):327-333.
4. 生活習慣病予防のための健康情報サイト 「子どものメタボリックシンドロームが増えている」 eヘルスネット 厚生労働省
5. Jean-Philippe Chaput et al., Systematic review of the relationships between sleep duration and health indicators in the early years (0-4 years). BMC Public Health. 2017 Nov 20;17(Suppl 5):855.
6. Padez C et al., Long sleep duration and childhood overweight/obesity and body fat. Am J Hum Biol. 2009 May-Jun;21(3):371-6.
7. Gangwisch JE. Epidemiological evidence for the links between sleep, circadian rhythms and metabolism. Obes Rev. 2009 Nov;10 Suppl 2(0 2):37-45.