五大栄養素番外編
-食物繊維Ⅰ-

昨年から五大栄養素を順番にご紹介してきましたが、今回は番外編として食物繊維についてお話しします。これまで食物繊維は殆どエネルギーを持たず(0kcal/g)、人間の体内に存在する消化酵素では消化できない食べ物のカスだと考えられていました。しかし、現在は健康において重要な役割を果たす、第六の栄養素として注目されています。今回のトピックでは、この食物繊維が私たちの健康に及ぼす影響を確認してみましょう。


食物繊維とは

食物繊維は大きく水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分類されますが、どちらも体内に吸収されないためエネルギー源になりません。どちらの食物繊維も発酵性の特徴を持っており、大腸内で発酵・分解が行われると、ビフィズス菌などが増加して腸内環境を改善します。

ネバネバ・サラサラした食感が特徴的な水溶性食物繊維は水に溶けやすく、溶けるとゼリー状に変化し、粘着性や吸着性の特徴を持ちます。粘着性は胃腸内での栄養素の吸収速度を緩やかにして、食後血糖値の上昇を抑えたり、満腹感を持続させたりします。吸着性はコレステロールを体外に排出して、血中コレステロール値を低下させます。不溶性食物繊維より水溶性食物繊維の方がより発酵性に優れています。

一方、ボソボソ・ザラザラした食感が特徴的な不溶性食物繊維は水に溶けにくいですが、水分を吸収して大きく膨らむことで腸を刺激し、蠕動(ぜんどう)運動を活発にするため便通を良くします。不溶性食物繊維の繊維状・ハチの巣状・ヘチマ状のような形状はよく噛まないと飲み込みにくいため、食べ過ぎを防いだり、あごの発育を促進して歯並びを良くしたりします。

厚生労働省による食物繊維の一日摂取基準は成人(18歳以上)男性で20g以上、女性で17g以上と定められています¹⁾。しかし、下図の日本人における食物繊維の平均摂取量の推移から、1952年までは現在の摂取基準を上回っていたものの、食生活の欧米化で肉や乳製品の摂取量が増えたことにより、現在では食物繊維の摂取量が不足していることが分かります²⁾³⁾⁴⁾。国民健康・栄養調査によると、近年の一日あたりの摂取量は一日摂取基準に比べ、男性で約5.3g、女性で約2.9g下回っていると報告されています⁴⁾。


食物繊維の過剰摂取・不足による影響

上述の通り、通常の食事では食物繊維の摂取量が不足気味なため、様々な方法を用いて食物繊維を食事に取り入れる必要があります。しかし、水溶性食物繊維を摂り過ぎてしまうと下痢や軟便になりやすく、もともと便秘状態で腸の動きが低下している人が不溶性食物繊維を摂り過ぎてしまうと、便が膨らむことで便秘をより悪化させてしまうこともあります。また、サプリメントなど健康食品による食物繊維の過剰摂取は、お腹を緩くさせたり、鉄・カルシウム・マグネシウム・亜鉛などのミネラルの吸収を妨げてミネラル欠乏症の原因となる場合もあります。

一方、食物繊維の摂取不足は腸内環境を悪化させて便秘になりやすく、痔や大腸がんのリスクを高めます。また、便秘で老廃物が排出されず体内に蓄積され続けると、肌の正常なターンオーバーの妨げとなり肌荒れを起こしやすくします。更に、食物繊維には血糖値の上昇を緩やかにする働きがあるので、摂取量が足りないと食後の血糖値が急上昇しやすくなり、肥満や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。


食物繊維が豊富な食品

食物繊維は植物性食品である穀類・野菜類・きのこ類・果物類・豆類・海草類などに含まれており、殆どの食品は水溶性と不溶性両方の食物繊維を含んでいます。次の表は食物繊維を多く含む代表的な食品と100gあたりの含有量です。
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より改変
※海藻類の食物繊維は水溶性または不溶性に区別することができないため総量のみ示しています。

上記のように、食物繊維は色々な植物性食品に多く含まれているため、栄養バランスを考慮して同じ食品からではなく、色々な食品から食物繊維を摂取するように意識しましょう。また、食物繊維の摂取方法は次のことを参考にするのも良いでしょう。

➤ 野菜類は熱を加える
野菜類は生で食すよりも、茹でたり炒めたりして摂取することをおすすめします。なぜなら、野菜に熱を加え体積を減らすことで同じ100gでも含まれる食物繊維の量が多くなるため、摂取量を増やしやすいからです。

➤ 炭水化物は食物繊維が豊富な食品と組み合わせて摂取する
ご飯・麺・パンなど炭水化物(糖質)を多く含む穀物は血糖値を急激に上昇させやすいです。しかし、食物繊維は血糖値の上昇を抑える働きをするため、ご飯に昆布や豆を混ぜたり、パスタの具にきのこ類や野菜をたくさん入れたりするなど工夫して一緒に摂取することで、血糖値の急上昇を抑える効果を得られます。

➤ 主食には食物繊維が豊富な穀物を選択する
お米を食物繊維の多い玄米・胚芽米(お米の約5倍と約2.2倍)に、小麦粉を全粒粉(小麦粉の約1.8倍)などに変えることで、穀物自体からも食物繊維を多く摂取することができます。

➤ コレステロールを多く含む食品と食物繊維を一緒に摂取する
コレステロールは肉・卵・魚卵・レバーなどの内臓類に多く含まれる脂質の一種です。このコレステロールから合成される胆汁酸は、油っぽい食事をした際に体内に油を吸収しやすくしてしまいます。食物繊維は消化器官内の胆汁酸を便として排出させる働きがあるため、コレステロールが含まれる食品にプラスして摂取することで、余分な脂質の吸収を防ぐことができます。

それでは、食物繊維は私たちの健康にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。次のトピックでは、食物繊維の種類によってもたらされる健康への効果を中心にお話します。

参考文献
1.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省
2. 日本人の食物繊維摂取量と糖尿病発症の時系列分析. 原島恵美子 et al., 日本家政学会誌. 1994 May; 45(12):1079-87
3. Shigeyuki Nakaji et al., Trends in dietary fiber intake in Japan over the last century. Eur J Nutr. 2002 Oct;41(5):222-7.
4.「平成22-30年度国民健康・栄養調査報告」 厚生労働省