五大栄養素番外編
-食物繊維Ⅱ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -食物繊維Ⅰ-

前回のトピックでは食物繊維とは何かを中心にご紹介しました。今回のトピックでは様々な種類の食物繊維が持つ効果についてご紹介します。


食物繊維の種類によって健康にもたらす効果は異なる

前回のトピックでも説明した通り、食物繊維は大きく水溶性と不溶性に分類され、それぞれで健康に及ぼす効果は異なります。

➤ 水溶性食物繊維は体脂肪量の蓄積を防ぐ
水溶性食物繊維は体脂肪量を減らすのに効果的であると言われています。2014年にオーストラリアで行われた研究によると、水溶性食物繊維は腸内フローラ(腸内細菌の総称)のバランスを改善させることでインスリン感受性を改善します¹⁾。インスリン感受性とは、血糖値を一定に保とうとするインスリンの働きが正常に作用しているかの程度を示します。インスリン感受性が低いと、インスリンの分泌量が正常にも関わらず、インスリンの効果が十分に発揮できていない状態を意味します。インスリン感受性を改善させ、インスリンの働きを正常にすることで、余分な糖を体脂肪量として体内に蓄積することを防ぐため、体脂肪量の増加を抑えることができます。
また、2017年にアメリカで発表された研究によると、水溶性食物繊維は血糖コントロールを改善させたり、LDLコレステロール値を低下させたりする大きな効果を示しましたが、それが不溶性食物繊維では示されませんでした²⁾。つまり、LDLコレステロール値を下げて血糖値とインスリン感受性を正常にするためには、水溶性食物繊維の摂取がおすすめです。

➤ 不溶性食物繊維は慢性便秘を防ぐ
よく便秘解消のためには食物繊維の摂取が有益であると聞いたことはありませんか? しかし、全ての食物繊維がそのような効果を示すわけではありません。2012年にシンガポールで発表された研究では、特発性便秘(原因不明の便秘)とそれに関連する症状は、大きい・粗い形状の不溶性食物繊維がより効果的であると報告しています³⁾。また、同研究ではそれらの症状に対して水溶性食物繊維は効果的ではなく、むしろ、摂取を止めたり、控えたりすることで軽減できると結論付けています。ただ、前回のトピックでもご紹介したように、不溶性食物繊維のは便秘を悪化させるので、あくまでも適量摂取を心掛けてください。

このように、同じ食物繊維でも水溶性と不溶性は異なる効果を持つため、どちらもバランス良く摂取することが大切です。


レジスタントスターチ

レジスタントスターチ(難消化性デンプン)は食物繊維の一種で、食事に取り入れたほうが良いのではないかと最近になって注目されています。通常のデンプンは小腸で消化・吸収されますが、レジスタントスターチは小腸で消化・吸収されずに大腸まで到達し、コレステロールを排出して血中コレステロールを低下させたり、蠕動(ぜんどう)運動を活発にして便通を改善させたりする、水溶性と不溶性の食物繊維両方の働きをします。

また、レジスタントスターチには大腸がんの発症率を低下させる働きがあると言われています。2013年に日本で発表された研究では、レジスタントスターチは大腸内にとって有害な物質の生成を抑制して、大腸内環境を改善させる効果があると報告されています⁴⁾。大腸がんは食事との関連性が良く言及されていますが、レジスタントスターチをバランス良く摂取することで大腸がんの予防に役立ちます。

レジスタントスターチはデンプン質を豊富に含む白米・トウモロコシ・ジャガイモ・インゲン豆・大麦・全粒小麦などに含まれています。レジスタントスターチは加熱すると減少し、冷やすと増える特質を持つため、調理後に冷やしてから食べると効率よく摂取できます。例えば、お寿司・冷やしうどん・冷製スープやパスタなどの料理が挙げられます。また、冷やしたレジスタントスターチを再加熱すると含有量は減少してしまいますが、常温に戻す程度では減ることがありません。


終わりに

腸内フローラと健康に関する様々な研究が進むと共に、腸活という言葉も出るほど食物繊維への関心は高まり、腸内環境の改善に必須不可欠であると認識されるようになりました。また、食物繊維はエネルギー源としての役割はないものの、血糖値の上昇を抑えたり、便通を良くしたりなど様々な効果を持っている、健康維持に欠かせない栄養素として位置付けられています。

残念なことに、近年は食事の欧米化が進んだ影響で十分な食物繊維摂取量を確保できていません。意識的に食物繊維を含む様々な食品を食生活に取り入れて摂取量を増やしていく必要があります。食物繊維を摂取する手段としてサプリメントも挙げられますが、サプリメントは過剰摂取になりやすかったり、体調や体質によってはお腹が緩くなったりするため、可能な範囲で食品から摂取することを心掛けましょう。

最後に栄養バランスの良い食事を効率よく取るためには、タンパク質・ビタミン・脂質・炭水化物・ミネラル・食物繊維などの特定の栄養素だけを摂取するのではなく、全ての栄養素を満遍なく摂取する必要があります。各栄養素の組み合わせによっては相乗効果が生まれることもあり、体が必要としない栄養素はないからです。バランスが取れた食事と健康は密接に関係していることを忘れないでください。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -食物繊維Ⅰ-

参考文献
1. S Carnahan et al., Prebiotics in obesity. Panminerva Med. 2014 Jun;56(2):165-75.
2. Johnson W.McRorieJr.et al., Understanding the Physics of Functional Fibers in the Gastrointestinal Tract: An Evidence-Based Approach to Resolving Enduring Misconceptions about Insoluble and Soluble Fiber. J Acad Nutr Diet. 2017 Feb;117(2):251-264.
3. Tetsuya Otani et al., Stopping or reducing dietary fiber intake reduces constipation and its associated symptoms. Int J Cancer. 2006 Sep 15;119(6):1475-80
4. 早川 享志, 健康増進に寄与するルミナコイドとしてのレジスタントスターチの働き. 日本醸造協会誌. 2013; 108(7):483-493