医療活用事例: 集中治療
集中治療分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : ICU / 生存率 / 輸液 / 水分均衡 / 位相角
重症患者やICU患者は状態が急変しやすく、強い浮腫を伴う症例も多いため、こまめに状態を確認することが大事です。また、栄養摂取も自力でできないことが殆どであるため、適切な水分・栄養補給による栄養状態の維持と迅速な評価が重要となります。
ここで、InBodyが提供する細胞外水分比(ECW/TBW)は水分管理及び栄養状態の指標として活用できます。また、強い浮腫により筋肉量を用いての評価が難しいICU患者において、生存率と高い関連性を持つ位相角は良い栄養指標となります。
浮腫が強い患者の場合、その影響で筋肉量が水増しされる
水分均衡が大きく崩れ、細胞外水分比が高くなる傾向が強い
多量の輸液を行う部位は筋肉量(水分量)が増加し、細胞外水分比も更に高くなる
水増し状態の筋肉から求められた骨格筋量・SMIなどは参考しない
位相角が低くなる
ICUでのInBody測定において、測定結果には影響がないものの、InBody測定時の微弱な電流がICUで使用される生体モニターの波形に影響を及ぼす可能性があります。他にICU患者の測定に関する注意事項及び影響を及ぼす要因には次のようなものがあります。
【体重の入力】
体脂肪量は非伝導体のため、体重から除脂肪量を差し引くことで算出されます。ICUの患者は自立して体重を測定することが難しく、間接測定した体重または直近の体重を入力して体成分を測定する必要があります。しかし、入力した体重に誤差があった場合はその殆どが体脂肪量の誤差として表れてしまいます。従って、体重はできる限り正確に入力する必要があります。
【乾燥の防止】
ICU患者は、浮腫によって電極が触れる肌が乾燥して電流が流れにくくなり、測定エラーになることが多いです。従って、電極の触れる部位を電解ティッシュや濡れたタオルなどで十分に濡らしてから測定する必要があります。また、測定中に体やInBodyのケーブルがベッドの金属パイプなどに触れないようにすることも重要です。
【測定姿勢の設定】
上半身を20~30度くらいにして座っている姿勢の場合、座位モードでなく仰臥位モードで測定します。座位モードはベッドや椅子に座って腰が90度になったときに使用するモードです。
【点滴の影響】
点滴から水分が供給されていると、その部位を中心に水分・筋肉量がわずかに増加しますが、持続点滴による体成分の増加は日常生活における栄養・水分摂取~排出のサイクルと同様であり、厳しく制限する必要はありません。また、点滴の針に電流が流れるなど、安全面の問題もありません。
【大量輸液の影響】
侵襲性の高い手術後の大量輸液による体重増加の場合、若しくは血圧の顕著な低下により短時間で大量に輸液を行った場合は、過剰な体液が筋肉組織に留まり、全身が過水和状態 (Over Hydration)になります。この状態は過剰体液による筋肉量の異常増加、つまり筋肉質が極度に低下した状態であるため、筋肉量・体細胞量などの体成分情報を用いた評価は出来なくなります。
【腹水・胸水の影響】
InBodyは体に微弱な電流を流し、体水分を最初に測定していますが、体内の電流が流れない部分(サードスペース)に存在する水分は体脂肪量として測定されます。例えば、腹水や胸水、胃腸内の水分、膀胱内の尿などが該当します。腹水・胸水が発生している患者を測定する際は、この点を考慮する必要があります。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、うっ血や浮腫、または大量の輸血・輸液などによって主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。そして、水分は筋肉の主な構成成分であることから、強い浮腫がある患者は筋肉量も水増しされます。更に、低栄養・悪液質による筋肉量減少が原因で、主にICWが減る形で水分均衡が崩れてもECW/TBWが高くなりますが、重症患者ではこれらが共存することがあるため、ECW/TBWが高い数値を示す傾向が強いです。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
このような理由から、ECW/TBWは筋肉量で栄養評価が難しいICU患者の評価指標としても活用されます。輸液蘇生術後の生存者と死亡者のデータを比較したところ、生存者は治療前後の ECW/TBWが安定しているのに対し、死亡者はECW/TBWは増加するなど水分均衡に差が示されました¹⁾。また、腹部手術を受けた患者の体成分をICU入院日から3日間測定した結果、3日目の過水和状態(ECW/TBW>0.390と定義)が術後罹患率と院内死亡率の有意な予測因子であったと報告されています²⁾。このように、ECW/TBWをモニタリングし適切に介入することは、生命予後の改善や生存率の上昇に繋がります。
位相角(Phase Angle; PA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します³⁾。 そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角は筋肉量の変化よりも栄養状態の改善に敏感に反応するため、筋肉量を用いた評価が難しい重症患者の栄養評価に用いられます。例えば、ICU患者間で比較したところ、死亡者群が生存者群より PhAが著しく低くECW/TBWは高く示されたことから、PhA及びECW/TBWを用いて生存率・予後の予測ができます⁴⁾。近年ではCOVID-19患者の死亡率とECW/TBW・PhAが有意な相関を示し、低い PhAがCOVID-19の重症度と最も高い相関を示しているなど⁵⁾、様々な疾患者を対象とした栄養評価に活用できます。
但し、位相角はBIA機器の電極が触れる位置によって、インピーダンスを測定する範囲が変わるため、メーカー間・機種間で値が異なる場合があります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的での活用が望ましいです。
参考文献
1. Park I et al., Assessment of body water distribution in patients with sepsis during fluid resuscitation using multi-frequency direct segmental bioelectrical impedance analysis. Clin Nutr. 2020 Jun;39(6):1826-1831.
2. Yoon Ji Chung, Eun Young Kim. Usefulness of Bioelectrical Impedance Analysis as a Guidance of Fluid Management in Critically Ill Patients after Major Abdomen Surgery; a Single Center, Prospective Cohort Study. Surg Metab Nutr 2020;11(2):53-60.
3. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997.
4. Lee Y et al., Use of bioelectrical impedance analysis for the assessment of nutritional status in critically ill patients. Clin Nutr Res. 2015 Jan;4(1):32-40.
5. Moonen HPFX et al., Association of bioelectric impedance analysis body composition and disease severity in COVID-19 hospital ward and ICU patients: The BIAC-19 study. Clin Nutr. 2021 Apr;40(4):2328-2336.
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