女性分野におけるInBody活用
女性は妊娠、出産、閉経などのライフイベントの影響による体成分変化がとても大きいです。妊娠はホルモンの分泌や代謝機能に影響を及ぼすため、既往歴がない人でも妊娠性糖尿病や高血圧が発症するリスクが高くなりやすいです。また、閉経後もホルモン分泌量の変化により、体脂肪の蓄積傾向が変わったり、骨密度が低くなり骨粗鬆症の発症リスクが高まる傾向があったりなど、ライフステージに応じて生じやすい疾患も変わるため、日頃の管理が重要です。
ここで、InBodyで提供する筋肉量や体脂肪量の情報はホルモンの変化による肥満や隠れ肥満の予防・管理に活用されます。また、細胞外水分比(ECW/TBW)は水分均衡の評価に主に使用される項目で、浮腫みの管理や栄養状態の評価に活用できます。
InBodyは妊婦を測定することができます
妊婦のInBody測定は担当医師と体調を相談しながら行うことが可能で、安定期からの測定を推奨しています。InBodyで使用する電流は体に殆ど影響を及ぼさない非常に微弱なものであるため、妊婦でも安心して測定していただけます。妊婦の測定結果を解釈する際の注意点として、羊水や胎児など羊膜内へは測定時の電流が上手く流れないため、その重さはすべて体脂肪量として算出されることがあります。従って、羊水の増加や胎児の成長は体脂肪量の増加で確認することができます。
また、妊娠期間中の細胞内・外水分量の変化の差を正常群と妊娠性高血圧症候群の2つの群に分けて観察した論文では、妊娠周期経過に伴う体水分量の変化が異なることが報告されており¹⁾、妊娠中に体水分量やECW/TBWの測定は妊婦特有疾患の1次スクリーニングにも活用できます。
全身の筋肉量が減少し、体脂肪量とのバランスが悪くなる
体脂肪量が増加する(主に体幹)
水分均衡が徐々に崩れ、細胞外水分比が少し高めになる
下半身の細胞外水分比が高くなる傾向が強い
更年期女性の活用
更年期を迎えると、体内で生成される女性ホルモンが急減することで体成分が悪くなり、様々な疾患が発生しやすくなります。女性ホルモンは骨を強くする働きがありますが、閉経後に女性ホルモンが急減することで骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高くなります。筋肉量の増加は骨粗鬆症のリスクを減少させることが報告されており、腰椎の骨密度と筋肉量の間で相関があることが示されているなど²⁾、更年期女性の筋肉量管理は骨折などのリスク減少にも繋がります。
一方、閉経によってホルモンバランスが崩れると体脂肪率も上昇します。閉経後は閉経前よりも体脂肪率が高くなることが報告されていますが³⁾、体脂肪率の増加は心血管疾患のリスク増加とも関連しているため、改善に努める必要があります。また、1年間の複合運動を行った閉経女性において血管硬化度(baPVW)・収縮期血圧・体脂肪率が有意に低くなったと報告されており⁴⁾、定期的な運動習慣は心血管疾患の予防にも繋がります。
女性の場合、減量のために食事を極端に制限したり、体重の増減に敏感になりやすかったりする傾向があります。しかし、極端な食事制限は筋肉量の減少に繋がり、基礎代謝量が落ちるため、逆に痩せにくい体質になってしまう恐れがあります。従って、健康な減量のためには体重よりも筋肉量と体脂肪量のバランスを確認しながら食事や運動習慣を改善することが重要です。特に女性の筋肉量減少は骨密度の低下や関節炎などのリスクとも関連していることから、正しくないダイエットはかえって健康を損なう結果を招いてしまいます。また、2021年3月には妊娠中の体重増加量の目安が見直されましたが⁵⁾、適切な体重には個人差があり、同じ身長・体重であっても筋肉量や体脂肪量のバランスは全く異なります。妊娠中の急激な体脂肪量の増加は糖尿病のリスクを高める恐れもあるため、適切な体重増加と体成分管理が必要です。
以前はBMIのみで肥満の評価をすることが多かったのですが、BMIだけでは正しい肥満の評価ができません。BMIは体重と身長から計算される値であるため、BMI正常群の肥満やサルコペニア肥満を見逃してしまうことがあり⁶⁾、BMIと体脂肪率を用いて評価する方が望ましいです。近年はBMIや体重だけでは標準体型であっても実は体脂肪率がとても高い隠れ肥満体型もあり、若年女性や運動量が足りない成人を中心に隠れ肥満の割合も増加しています。特に女性の肥満は月経周期を不規則にさせるだけでなく⁷⁾、妊娠性糖尿病のリスク増加にも関わることが報告されています⁸⁾。また、極端に体脂肪率が低いこともあまりよいものではなく、無月経や生理不順などの原因となり得るため、適切な体脂肪率を維持することは長期にわたる健康維持に重要な要素となります。
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。しかし、血液循環の問題やその他の原因で浮腫が現れると、主にECWが増える形で水分均衡が崩れ、この数値が0.400を超えて高くなることが多々あります。健常女性でも重力の影響で夕方以降に下半身を中心に浮腫む人もいますが、妊婦や閉経後女性は体内の血液と水分バランスが崩れやすく浮腫みやすい体質のため、より詳細な水分均衡の管理が必要です。また、体水分は筋肉を構成する主な成分であるため、浮腫みによって余分な水分が貯留すると、筋肉量も水増しされてしまいます。しかし、水増しされた筋肉量は浮腫みが改善すると減少するため、ECW/TBWを一緒に確認することで、筋肉量が正しく評価しながら適切な運動・食事計画を立てることができます。
もう一つ、ECW/TBWが高値になる要因として栄養状態の低下による筋肉量の減少があります。加齢や栄養状態の低下により筋肉量が減少すると、ICWが減る形で体水分量が減少し、浮腫と関係なく水分均衡が崩れます。更に、女性は同年代の男性と比較してECW/TBWが高めになることが明らかになっています⁹⁾。近年はECW/TBWが地域高齢女性の身体機能(握力・歩行速度)と相関しているとの報告もあり、筋肉量だけでなく、筋力指標としても活用できる可能性が示唆されています¹⁰⁾。
*SMI(四肢筋肉量の合計÷身長(m)²)のカットオフは、「Chen et al. JAMDA 2020;21(3):300-307」から引用
*ECW/TBWのカットオフは、「Andrew Davenport et al. Blood Purif 2011(32):226-231」から引用
参考文献
1. Herbert Valensise et al., Multifrequency bioelectrical impedance analysis in women with a normal and hypertensive pregnancy. Am J Clin Nutr. 2000 Sep;72(3):780-3.
2. Seungsub Shin, Kyeongjin Lee, Changho Song. Relationship of body composition, knee extensor strength, and standing balance to lumbar bone mineral density in postmenopausal females. J. Phys. Ther. Sci. 28: 2105–2109, 2016.
3. Shin YA, Lee KY. Low estrogen levels and obesity are associated with shorter telomere lengths in pre- and postmenopausal women. J Exerc Rehabil. 2016 Jun 30;12(3):238-46.
4. Pekas EJ., Habitual Combined Exercise Protects against Age-Associated Decline in Vascular Function and Lipid Profiles in Elderly Postmenopausal Women. Int J Environ Res Public Health. 2020 May 30;17(11):3893.
5. 「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針(令和3年3月)」 厚生労働省
6. Lin CL et al., Association of Body Composition with Type 2 Diabetes: A Retrospective Chart Review Study. Int J Environ Res Public Health. 2021 Apr 21;18(9):4421.
7. Park YJ et al., Menstrual Cycle Patterns and the Prevalence of Premenstrual Syndrome and Polycystic Ovary Syndrome in Korean Young Adult Women. Healthcare (Basel). 2021 Jan 7;9(1):56.
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9. Ohashi Y et al., Changes in the fluid volume balance between intra- and extracellular water in a sample of Japanese adults aged 15-88 yr old: a cross-sectional study. Am J Physiol Renal Physiol. 2018 Apr 1;314(4):F614-F622.
10. Akemi Hioka et al., Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition 86(2021) 111175
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