医療活用事例: 運動生理
運動生理分野におけるInBodyの活用事例と有用な指標
keyword : アスリート / 無月経 / トレーニング / パフォーマンス / 怪我
プロアスリートのコンディショニングにおいて主に活用される指標は体重でしたが、近年では筋肉量や体脂肪量が競技力と関係することが確認されており、これらを用いた管理が重要となっています。また、トレーニングや競技中に怪我をした場合、その回復具合の確認や適切なリハビリは競技力の維持・向上や選手生命、ひいては引退後のQOLにも関わる問題と繋がります。他にも、まだ成長期の青少年運動選手や女性選手は過剰な食事制限など、正しくない栄養管理によってかえって健康問題を引き起こす恐れがあるため、正確な現状把握とモニタリングを伴った管理が重要となります。勿論、これらはプロアスリートに限らず運動習慣を持つ全ての人に該当する問題と言えます。
ここで、InBodyが提供する筋肉量・体脂肪量は栄養状態の確認に活用でき、細胞外水分比(ECW/TBW)や位相角は筋肉の質や怪我の状態を評価する指標として使用できます。
筋肉量と体脂肪量のバランスが取れている
利き腕(利き脚)の筋肉量が発達する傾向が強い
利き腕(利き脚)の筋肉量が発達する傾向が強い
細胞内水分量が多く、細胞外水分比が低い傾向が強い
特定部位の発達によって筋肉均衡が不均衡になりやすい
位相角が高い
「無月経」「エネルギー不足」「骨粗鬆症」は女性アスリートの3主徴と呼ばれる大きな問題です。無月経(月経不順)は女性アスリートに一番多い問題で、過剰な食事制限や無理な減量が主な原因とされています。更に、女性アスリートは運動で使用したエネルギーを補うための摂取エネルギーが不足しやすく、エネルギー不足になることで体脂肪量が過度に減少すると脂肪細胞から分泌されるレプチンが減少します。レプチンはエストロゲンの分泌に関与しておりますが、エストロゲンは骨を強くする働きもあるので、エストロゲンの減少により月経不順・無月経・疲労骨折・骨粗鬆症などのリスクが高くなります。体成分データと問診内容を考慮した上で栄養介入を行い、適切な摂取エネルギー量を維持することはこのような体の不調が起こることを防ぐことにも繋がります。
同じ身長・体重であっても筋肉量や体脂肪量のバランスは全く異なるため、体重のみを基準に管理するのではなく筋肉量・体脂肪量の状態を確認することが大事です。トップレベルの女子バレーボール選手と一般女性を対象にジャンプ能力と体成分の関係を調べた結果、ジャンプ能力は脚伸展筋力・骨格筋量と正の相関、体脂肪率と負の相関があったと報告されています¹⁾。このように筋力だけでなく、体成分もパフォーマンスに影響することが示されるようになってきています。
階級制の競技では、減量のために食事を極端に制限したり、体重の増減に敏感になりやすかったりする傾向があります。しかし、体重だけを基準に減量を進めると、筋肉量が減少する形で体重が減る可能性があり、選手のパフォーマンス低下に繋がりやすくなってしまいます。従って、正しい減量のためには筋肉量と体脂肪量のバランスを確認しながら食事やトレーニング内容をコントロールすることが重要です。
部位別筋肉量の左右・上下差が大きくなるとパフォーマンスの低下だけでなく、怪我のリスクを高める恐れがあります。特に競技特性上、左右の動きが異なるスポーツの選手は自然に利き腕または利き脚が発達しやすく、左右差が大きくなりすぎることもあります。部位別筋肉量を確認して、怪我の予防に努める必要があります。同じ競技であっても、ポジションによって部位別筋肉量が異なることが報告されており²⁾、種目・ポジションの特性を把握する必要があります。
全身・部位別のトレーニング効果を確認する際に注意すべき点として、筋力を含む身体機能の向上と筋肉量の増加が現れるタイミングが異なるというのが挙げられます。筋力と筋肉量はある程度相関があるものの、身体機能に該当する筋力と違って、重さに該当する筋肉量は増加まで十分な運動と栄養摂取を続ける必要があるため、筋力より結果が遅く現れます。実際にInBodyで測定した骨格筋量と握力、歩行速度の相関は異なっていた報告³⁾もあり、筋力と筋肉量の傾向が一致しないケースもあることが示唆されています。従って、運動と食事管理を継続しながら定期的に測定を行い、筋肉量の増加を目指すことが大事です。
筋肉量が多く体脂肪量が少ない、鍛えられている体成分状態を示している
全ての部位で細胞外水分比が低く示されている
上下・左右の筋肉均衡がとれている
位相角が高い
安静とトレーニング休止により筋肉量が減少し、体脂肪量が増えることで負傷前よりバランスが少し悪くなっている
炎症反応による浮腫みが原因となり、筋肉が水増しされている
負傷部位の細胞外水分比が高くなり、反対側と差が生じる
上下均衡・下半身の左右筋肉均衡が崩れている
負傷前に比べ、位相角が低くなる
人体における水分均衡は体水分(Total Body Water; TBW)に対する細胞外水分量(Extracellular Water; ECW)の割合で示すECW/TBWから評価でき、健常人におけるECW/TBWは常に一定の0.380前後が維持されます。日頃よく運動している方はECW/TBWが0.380よりも低くなり、プロのアスリートの場合は0.360前後を示すことも少なくありません。運動などで筋肉量が増えると、細胞内水分量(Intracellular Water; ICW)を中心にTBWが増えるため、相対的にECWの比率が低くなります。そのため、ECW/TBWは低ければ低いほど質の良い筋肉であることを示し、脱水状態を意味するわけではありません。
怪我によって炎症や浮腫が現れると負傷部位に体水分が集中し、ECW/TBWが一時的に高くなり、回復が進むことにつれて徐々に低くなっていきます。競技に復帰するタイミングが早すぎると怪我の再発や悪化を引き起こす恐れがあるため、ECW/TBWが怪我をする前の値まで戻っているか確認していただくことで、怪我の再発を防ぐことが可能です。
ECW/TBWは体の状態を最も敏感に反映する指標ですが、近年はECW/TBWが身体機能(握力・歩行速度)と相関しているとの報告⁴⁾もあり、筋肉量が変化していない場合に、トレーニングの効果を確認できる指標として活用することも可能です。
位相角(Phase Angle; PhA)は簡単に説明すると、交流電流が細胞膜を通過した際に発生する抵抗であるリアクタンスを角度で表した値と言え、リアクタンスは細胞内・外水分量を分ける細胞膜の生理的機能や構造の安定性を反映します⁵⁾。そのため、細胞膜の状態が改善されるとリアクタンスは高くなり、位相角も増加します。位相角は筋肉量の変化よりも栄養状態の変化に敏感に反応するため、栄養状態の指標として活用されることが多いですが、最近ではパフォーマンスの指標にもなることが明らかになっています。10代アスリートの位相角と身体能力の関係を調べた結果、腕の部位別位相角と握力、脚の部位別位相角と脚伸展力、全身及び各部位別位相角とカウンタームーブメントジャンプ及びスクワットジャンプの高さがそれぞれ相関していました⁶⁾。
但し、位相角はBIA機器の電極が触れる位置によって、インピーダンスを測定する範囲が変わるため、メーカー間・機種間で値が異なる場合があります。このような測定上の限界から世界で共通するカットオフ値が存在せず、同一機器における評価、またはモニタリング目的での活用が望ましいです。
参考文献
1. Nemanja Copic, et al. Body composition and muscle strength predictors of jumping performance: Differences between elite female volleyball competitors and nontrained individuals. J Strength Cond Res. 28(10):2709-2716 (2014)
2. RAMOS-CAMPO, D. J. et al., Body composition features in different playing position of professional team indoor players: basketball, handball and futsal. Int. J. Morphol., 32(4):1316-1324, 2014.
3. Itoh S et al., Skeletal muscle mass assessed by computed tomography correlates to muscle strength and physical performance at a liver-related hospital experience. Hepatol Res. 2016 Apr;46(4):292-7.
4. Akemi Hioka et al., Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition 86(2021) 111175
5. Liedtke, R.J. Principles of bioelectrical impedance analysis; RJL Systems Inc.: Clinton, MI, USA, 1997.
6. Obayashi H et al., The relevance of whole or segmental body bioelectrical impedance phase angle and physical performance in adolescent athletes. Physiol Meas. 2021 Apr 12;42(3).
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