InBodyの測定結果で筋肉量が減少するのは悪い結果なのか?
InBodyは、年齢・性別・人種・運動歴などで体成分の結果を補正せず、測定者のありのままの体成分を提供しています。そのため、トレーニングや治療の効果として現れた小さな変化も敏感に反映します。1回の測定結果からその時点の体成分を評価することはもちろん、定期的に測定を続けてその変化を評価することで、体成分の変化や傾向を確認することができます。
※測定値の補正について、詳しくはトピック 「今さら聞けない、体組成計のあれこれ -測定値の理解を深めるためのQ&A-」 をご覧ください。
日頃からInBodyで体成分の変化を評価する中で、トレーニングや治療に励んでいるはずなのに筋肉量が減少しているのはなぜなのか、疑問に思ったことはありませんか? 筋肉量の減少は一般的には良い変化とは言えず、「頑張りが足りないのか、取り組みが間違っているのか。」 と不安になるかもしれません。しかし実際には、筋肉量の減少が良い変化であると評価できる場合があります。今回は、InBodyで筋肉量の増減を評価する際に、必ず一緒に確認したい項目やその評価方法についてご紹介します。
水分量の増減に伴って変化する筋肉量
InBodyでは、人間の体を体水分量・タンパク質量・ミネラル量・体脂肪量の4つに分けて測定しています。このうち、体水分量+タンパク質量+骨外ミネラル量(ミネラル量のうち、骨から溶け出して血中に存在するミネラル量)の合計を 「筋肉量」 としています。筋肉に水分が含まれている、ということをなかなかイメージしにくい方もいるかもしれませんが、実際に筋肉は約75%が水分で構成され、「水分の貯蔵庫」 と呼ばれることもあります。そのため、体水分量の増減に伴って、筋肉量も一緒に増減します。
例えば、運動後や入浴後は、汗として体外に水分が排出されます。水分の出入りが激しい状態でInBody測定を行うと、体水分量算出の基となるインピーダンスが正しく計測されないだけでなく、筋肉量も影響を受けて、正しい体成分を測定できません。トレーニングの効果として筋肉量や体脂肪量の変化を評価する場合は、運動をする前・空腹状態・トイレを済ますなどの測定条件を可能な限り揃えることを心掛けて、定期的に測定をしてください。
※測定条件について、詳しくはトピック 「今さら聞けない、体組成計のあれこれ -正しい測定方法-」 をご覧ください。
また、浮腫みなどで余分な水分が体内に蓄積した場合は、体水分量が増加したことにより、筋肉量も多く算出されます。このように、体水分量の増減が筋肉量の増減に直結しますが、筋肉量に併せてどのような項目を一緒に確認すべきでしょうか。
細胞外水分比(ECW/TBW)とは?
筋肉量の変化をより詳細に評価するには、InBodyの結果項目のうち、上位機種(2023年10月現在: InBody970/770/BWA/S10/570)で提示される 「ECW/TBW(細胞外水分比)」 を確認する必要があります。
▲ InBody結果用紙内のECW/TBW
体水分量(TBW)は、細胞内水分量(ICW) と細胞外水分量(ECW)に分けられます。健康であれば、この2つのバランスは体内の生理機構によって、概ねICW:ECW=62:38で保たれます。しかし、浮腫みや栄養状態の悪化、怪我や炎症などによって、この水分バランスが崩れてしまいます。
この水分バランスは、InBody結果用紙の 「ECW/TBW(細胞外水分比)」 で確認できます。ECW/TBWは、TBWのうちECWが占める割合を数値で表した項目です。ICW:ECW=62:38という標準的な比より、標準値は0.380、標準範囲は0.360~0.400となります。
ECW/TBWの上昇は、ECWの割合が高まったこと、もしくはICWの割合が減ったことを意味します。浮腫みや怪我・炎症などにより余分な水分が生じた場合(主にECWの増加)や、筋肉量が減少してしまった場合(主にICWの減少)に見られます。これらの変化は、良い変化とは言えません。
※詳しくは、トピック 「体水分均衡の特徴と重要性」 をご覧ください。
▲ ECW/TBWが0.380を下回る場合の筋線維の束のイメージ
反対に、ECW/TBWの低下はECWの割合が減ったこと、もしくはICWの割合が高まったことを意味します。浮腫みが改善して余分な水分が減少した場合(主にECWの減少)や、筋肉量が増加した場合(主にICWの増加)に見られます。ECW/TBWの値が標準値よりも低かったとしても、それだけICWの割合が多い、つまり筋線維の束でイメージすると細胞内に水分が多く保有されていて、隙間なく詰め込まれているような解釈ができます。実際に、アスリートでは0.360を下回る場合もありますが、これはとても引き締まった良い筋肉であると評価されます。
筋肉量が減ったときに確認するポイント
InBodyの測定結果を確認し、筋肉量が減少していた場合はどのように評価すればよいのでしょうか。
▲ 1ヶ月トレーニングに励んだが筋肉量が減少した例
この方は、約1ヶ月間トレーニングに励んだにもかかわらず、下半身を中心に筋肉量が1kgも減少してしまいました。この結果だけ見れば、トレーニングの方法が間違っていたのか、もしくはInBodyの故障なのかと考えてしまいます。
しかし、ECW/TBWに着目すると、特に下半身で大きく数値が低下していることがわかります。このECW/TBWの低下は、主にECWが減少したことでECWの割合が低下したことを意味しており、筋肉量の減少はECWの減少によるものだと解釈できます。したがってこの方の筋肉量の減少は、1ヶ月間の継続したトレーニングによってECWに蓄積していた余分な水分が抜け、より筋肉が引き締まったことによる良い変化であると評価できます。
このように、筋肉量の増減と併せてECW/TBWの数値の変動を観察することで、筋肉の質の変化まで評価できます。筋肉量が変化するには個人差もありますが、平均して3ヶ月程度の時間を要しますが¹、ECW/TBWはそれよりも短い期間で体内の変化を反映するため、短期間でのトレーニングの効果を確認したい場合はECW/TBWで評価してみるのも良いかもしれません。筋肉量が変わっていなくても、ECW/TBWの減少が確認できれば筋肉の質の改善傾向が見られる、という解釈ができ、そのままトレーニングを続けることで質の良い筋肉がさらに増えていくと推測できます。
InBodyのポイントは 「組み合わせて」 「定期的に」 がポイント
InBodyの結果用紙には、様々な体成分の情報が記載されています。「筋肉量」 や 「体脂肪量」 など、気になる項目を評価・モニタリングすることはもちろんですが、体成分をより詳細に評価するには様々な項目を組み合わせて観察することがポイントです。今回ご説明した筋肉量とECW/TBWはその代表的な例で、些細な体成分の変化を掴むにあたって欠かせない項目です。
また、InBodyは一時点での評価にとどまらず、定期的に測定を続け、各項目の変化傾向を確認することが何より大切です。現時点での体成分評価に加え、前回と比べてどう変化したかを観察することで、自身の体成分の傾向と生活習慣の関係性が見えてくることもあります。InBodyを健康管理に役立てる際には、測定値を 「組み合わせて」 評価しながら、「定期的に」 測定を続けることを是非心掛けてください。
参考文献
1. InBody取材記事 「ツインデンタルクリニック -歯科分野における保健指導の重要性- 」