女性の悩みPMSとは
月経前に繰り返して現れる心身の不快な症状は月経前症候群(Premenstrual-Syndrome, PMS)と呼ばれています。代表的な症状には、イライラする・不安になるなどの精神症状、体にむくみが出る・片頭痛・便秘がちになるなどの身体症状、仕事ができない・家から出られないなどの社会的症状があります。PMSは欧米の先進国を中心に女性が抱える病として重要視されていますが、日本ではまだまだ認知度が低く、様々な症状に悩まされているという方も少なくないのではないでしょうか?
生命活動において自律神経を正常に作用させること、つまり交感神経と副交感神経のバランスが重要です。自律神経には活動しているときや緊張しているときに働く交感神経と、夜寝ているときやリラックスしているときに働く副交感神経があります。交感神経が活発になると体温や血圧が上がり、脈拍や呼吸数が増えます。副交感神経が活発になると、逆に体温・血圧・脈拍・呼吸数は減少して、心と体がリラックスしてきます。
PMSの時期は女性ホルモンの変動によって自律神経の働きが悪くなります。そのため、月経前になると自律神経の正常なリズムが乱れることで眠くなったり、めまい・吐き気・頭痛などが生じることがあります。また、交感神経の高まりから、心の状態も過敏になって小さなことにイライラしたり、ちょっとした言動に感情を爆発させたりしてしまいます。
PMSの中でも、怒りやイライラなどの精神症状が強く対人関係の摩擦が生じてしまうもの、日常生活が困難なほど意欲や集中力が低下するものはPMDD(月経前不快気分障害)と呼びます。PMSの2~10%の人にPMDDがみられるといわれています¹⁾。
PMSが体成分に及ぼす影響
排卵から月経が始まるまでの間、体は妊娠に備えて子宮内膜を厚くしておくなどの準備をします。ホルモンにおいてはプロゲステロンの分泌が多くなって、かゆみや肌荒れなどが起こりやすくなったり、体温が上昇したりします。プロゲステロンは細胞の中に水分を溜め込もうとする作用もあり、体がむくんで体重が1~2kg増加したり、胸が張ったりもします。血液中の水分が細胞の中に取り込まれるために、血液濃度が高くなって血圧や脈拍が高くなる人もいます。
医療用シリーズのInBodyでは筋肉量や体脂肪量だけでなく、体水分量やむくみの指標としても活用される細胞外水分比(ECW/TBW)を確認できます。PMSの症状としてむくみがある人は、これらの項目で体の変化やむくみの程度を把握することができます。また、PMSはないという人でも、月経中にむくみ症状が出る人は同じように体水分量や細胞外水分比の一時的な増加が見られます。
※細胞外水分比の詳細はInBodyトピックの「体水分均衡の特徴と重要性」をご覧ください。
女性の月経周期やPMS有病率を調べた研究によると²⁾、若年女性(18-29歳)の25.5%がPMSであり、月経不順の女性では低体重や肥満の割合が高くなることを報告しています。PMSの原因ははっきりと解明されていませんが、ストレス・食生活(嗜好品)・体力低下・自律神経の乱れで症状が重くなることが分かっています。また、月経不順も同じようにストレス・食生活・運動・睡眠と関連します。暴飲暴食、カフェインを多く含むものは避けて、健康体を維持することを心掛けるのもPMS緩和に効果的かもしれません。
PMS改善に効果的な方法
➤食生活を見直す
食生活を改善することによって、PMSの3割は改善するといわれています。コーヒー・紅茶などのカフェインを多く含むものは興奮作用によってイライラを助長させます。代わりに、カフェインを含まずリラックス効果のあるハーブティーなどを取り入れましょう。PMSの症状を和らげるハーブには、タンポポ・カモミール・ローズヒップ・ハイビスカス・ローズマリー・レモンバーム・オレンジなどがあります。
また、食事の間隔が開きすぎて血糖値が低くなっているときにイライラや感情の爆発が起こりやすいといわれています。PMSの症状が出やすい時は食事を6回ほどに小分けして食べると良いでしょう。通常の1食を6回も食べると食べ過ぎになるので、1食あたりの量を減らして6回の食事のトータルが通常の3食と同量になるよう調整しましょう。チョコレートなどのお菓子に含まれる糖分は食後血糖値を急上昇させ、あっという間に急降下してしまうので低血糖状態になりやすいです。野菜・海藻・いも類・きのこ・玄米・全粒粉パスタなど、食後の血糖値がゆっくり上昇するものを積極的に食事に取り入れてください。間食でお菓子の代わりに野菜スティックや茎わかめを取り入れるのも良いでしょう。
PMSの人はミネラルが不足しがちといわれています。中でもカルシウムは骨を丈夫にするだけでなく精神を安定させる作用もあるので特に重要です。また、マグネシウムは体の水分を吸収し、神経を強くする働きがあります。緑黄色野菜や大豆製品はカルシウムとマグネシウムが豊富なので毎日摂取するように心掛けましょう。
※ミネラルを多く含む食品の詳細はInBodyトピックの「五大栄養素 -ミネラルⅡ-」をご覧ください。
寒さを感じると交感神経が働いて情緒が不安定になりやすいです。そのため、冷たい食べ物や体を冷やす食品を好んで摂取したり、冷えやすい服装で冷房の効きすぎた部屋に長時間いたりすることは、精神症状が出やすくなる環境を作っているようなものです。また、血液循環が悪くなって新陳代謝が衰え、むくみや便秘を助長することにもなります。しょうが・にんにく・たまねぎ・大根・唐辛子など体を温める作用のある食品を積極的に摂り、ビール・トマト・なす・きゅうり・バナナなど体を冷やす作用のある食品は控えるようにしましょう。
➤有酸素運動の実施
運動不足で筋力が落ちてくると、肩こり・腰痛などが出てくることがあります。また、運動が不足している状態では消費エネルギーが少ないために、肥満や生活習慣病などの病気になりやすく、サルコペニアのリスクも高まります。適度な運動はこれらの問題・病気の予防になるだけでなく、PMS改善にも効果を感じられるという方が多いです。
特にPMS改善におススメな運動は、ウォーキング・ジョギング・水泳などの有酸素運動です。有酸素運動は新陳代謝を活発にしたり副交感神経を優位にしたりしてリラックス効果を高める働きがあります。また、運動を15分以上続けると、脳から快楽物質のβエンドルフィンというホルモンが分泌されて爽快な気分になります。
有酸素運動があまり好きでない方は、筋トレやスポーツなど好きな運動を週に3回以上定期的に行うだけでも、ストレス発散に繋がるのでPMS軽減に効果があります。
➤起床・就寝時間を規則正しく
夜遅くまで動画やゲームに熱中したり、休日だからといって昼まで寝ていたりすると、自律神経の働きが乱れてきます。規則正しい起床・就寝はPMS対策の基本です。
中には、月経前にやたらと眠くなってしまうという方もいるかと思いますが、これは排卵から月経前にかけて分泌が多くなるプロゲステロンの影響が考えられます。プロゲステロンは基礎体温を上昇させる働きがあり、体が温かくなることで眠気が生じます。月経前に眠くてたまらなくなり、勤務中も寝てしまうなどという人は、低用量ピルでホルモンをコントロールすることが効果的です。
※睡眠について詳しくはInBodyトピックの「睡眠の質を改善するには」をご覧ください。
一人で悩まないで
PMSが悪化する背景には 「家庭と仕事の両立が大変」「職場環境が良くない」 「仕事が忙しい」など、置かれた環境のストレスが原因になっていることがよくあります。家族や職場の上司・同僚に自分の状況を伝えて、家事・育児・仕事の配分などを話し合ってみましょう。また、引っ越しや出産などの環境の大きな変化は、おめでたいことであっても、無意識のうちにストレスを感じてPMSを悪化させることがあります。家族や婦人科と相談したり、精神症状がひどい場合は心療内科や精神科を受診したりすることも検討してみてください。少しでもPMSのつらい症状から解放され、より充実した日々を過ごせることを願っています。
1. Young-Joo Park et al., Menstrual Cycle Patterns and the Prevalence of Premenstrual Syndrome and Polycystic Ovary Syndrome in Korean Young Adult Women. Healthcare 2021, 9, 56
2. PMSを治す77のワザ+α, 毛利素子 著