徳島文理大学:BWA編
-研究や教育の場でInBodyを活用する-

✓InBodyを活用する目的
● 地域高齢者の健康づくりを目的とした研究のための測定データ収集
● 測定者に結果をフィードバックすることで健康増進に繋げるため

✓InBody BWA導入の決め手
● 従来の機種よりも使用周波数が増えたことで、より詳細な体成分の情報が得られる点
● 高齢入院患者を測定する際に、ベッドサイドでも測定ができる点

✓今後の展望
● さらにInBody測定データを蓄積させ、研究の幅を広げる
● 細胞外水分比(ECW/TBW)と他の指標との関連についての研究を進める

機種モデル:InBody BWA

徳島文理大学 保健福祉学部 理学療法学科の日岡 明美先生は、日本で最初にInBody BWAを導入した先生です。日岡先生は専門学校卒業後、高知県の愛宕病院で2年、徳島県の鴨島病院で5年半理学療法士として勤務しました。当時は臨床の傍らで研究にも取り組んでいましたが、”研究にもっと専念したい” という想いから、大学院に進学して高知大学で修士課程、徳島大学で博士課程を修め、研究者として歩むようになりました。現在は、徳島文理大学で地域高齢者のサルコペニア研究を行いながら、脳血管疾患における理学療法学や生理学実習、物理療法学などを教えています。

▲ 日岡 明美先生

日岡先生:
「急性期から回復期の脳血管疾患・運動器疾患の理学療法に従事していました。ありがたいことに理学療法士1年目から研究に携われる環境に恵まれていて、臨床と研究を同時に始めることができ、私自身が研究に取り組むようになったのも自然な流れだったと思います。」


InBodyを用いて、新たな研究フィールドを開拓

日岡先生は徳島文理大学に着任して、InBodyと出会いました。最初は、既に大学内に導入していたInBody230(InBody270の前身)を用いて地域高齢者を測定していましたが、より細かく測定を行いたいと考え、2019年にInBody S10を導入しました。

日岡先生:
「大学院に在籍していた間は、自身の研究テーマ・フィールドを指導教授に与えてもらっていましたが、博士課程修了後は一研究者として、研究テーマ・フィールドを自ら開拓していく必要がありました。徳島文理大学には附属病院がないため、病院で臨床研究を行っていた時のように対象者を集めるのは容易ではありません。私自身が関わることで貢献できるところはどこかと考えた結果、自治体と協力した地域高齢者の健康づくりに辿り着きました。臨床ではfMRIなどを用いた画像診断が主な評価指標でしたが、2019年からメインの研究フィールドを臨床から地域に移したこと、より多くのデータを収集するためにこちらから地域に出向いて計測を行う必要があったこと、骨格筋指数(SMI)に着目したサルコペニアの研究を進めていくにはBIA機器が必要不可欠であることから、InBody S10を導入しました。」

▲ 実習で使用している検査機器の一部

InBodyは地域高齢者を対象とした研究だけでなく、学生の実習でも使用しています。

日岡先生:
「理学療法において、客観的な指標として骨格筋量を評価していくことが今後重要になってきます。筋力(身体機能)を評価する方法は、握力・徒手筋力検査・等速性筋力評価(バイオデックス)・等尺性筋力評価(ハンドヘルドダイナモメーター)などが挙げられます。しかし、筋量(筋肉量)を評価する指標としてはメジャーで測定する周径で筋肥大・筋萎縮を確認するのが主流でした。周径ですと測定位置やメジャーの当て方、測定者が変わることで測定値が変わってしまいます。理学療法士は骨格筋に関する専門職でもあることから、骨格筋量をより客観的に見ていく必要があります。サルコペニアの診断基準にもSMI(四肢骨格筋量÷身長(m)の二乗)が用いられていることから、学生の頃から骨格筋量を客観的に評価することの重要性について知ってほしいという想いがあります。そのため、私が担当している生理学実習では、学生にInBody S10を用いた測定を経験してもらっています。」


日本で初めてInBody BWAを導入

そして、日岡先生は自身が取り組んでいる研究をより深く追究していくため、2022年にInBody BWAを導入しました。日岡先生は日本で最初のBWAユーザーです。

▲ 研究室内のInBody BWA

日岡先生:
「使用している周波数が6周波(1,5,50,250,500,1000kHz)から8周波(1,5,50,250,500,1000,2000,3000kHz)に増えたことで、より詳細な体成分が得られるのではないかと感じた点が導入を決めた一番大きな理由です。InBody BWAを選んだもう一つの理由として、これまでは地域高齢者の測定を進めてきましたが、次のステップとして高齢入院患者の測定を検討しています。ベッドサイドで仰臥位測定ができる機種で尚且つ、より詳細に測定できる機種はBWAしかないと思いました。」

InBody S10を用いた地域高齢者の測定は自治体が開催する介護予防教室で始めました。吉野川病院院長の永廣 信治先生、同病院リハビリテーション部の大川 直美先生およびリハビリテーション部の理学療法士、作業療法士先生方、徳島文理大学の赤澤 直紀先生と共同研究を行っており、現在は自治体が開催する健診に来られた方もInBody BWAで測定しています。永廣先生が日岡先生の博士課程での指導教授だった縁もあり、吉野川病院と協力するようになりました。将来的には、地域高齢者や健診に来られた方のデータと高齢入院患者のデータを比較する研究ができればと考えています。更に、地域と病院を包括的に且つ長期間の縦断データを取っていく、多施設研究も視野に入れています。

▲ 健診でのInBody BWA測定風景

日岡先生:
「自治体で20歳以上を対象に行っている健診および65歳以上を対象に行う介護予防教室に合わせてInBody測定を行っています。BWA・S10共に、立位で測定していますが、今後、入院患者を対象に測定する際は仰臥位で測定していこうと考えています。これらの機種は測定環境や対象者の状態に合わせて測定姿勢を変更できるので、活用方法の幅が広がります。InBodyに入力する身長・体重は一緒に持ち運んでいる身長計・体重計を使って測定しています。測定に来られる方には事前にInBody測定を行うことを周知していて、電極装着がスムーズにできるような服装などをお願いしています。

InBody BWAを購入して1年で20~90代までのデータを400例ほど集めることができました。今後も継続していくことで横断データだけでなく縦断データも蓄積されます。自治体としても、継続して健診に参加してほしいという意図があるので、来年以降もInBody測定があることを事前告知することで健診受診率を高める狙いもあります。」

健診での測定後は結果用紙を渡してフィードバックを行っています。測定項目の説明を一通り行い、対象者の健康管理、健康維持・増進に繋げています。

日岡先生:
「結果用紙を説明していると、部位別筋肉量への反応が良いです。ECW/TBWについても、私達の説明を興味深く聞いてもらっています。部位別筋肉量のすぐ横に部位別ECW/TBWが記載されているので、私達も説明しやすいです。」

▲ 体成分結果用紙中央に表示される部位別筋肉量と部位別ECW/TBW

日岡先生:
「InBodyを使うようになって、筋質を表すであろう指標を捉えていくことが重要だと考えています。2019年、EWGSOP2は筋肉の量だけではなく質も評価していくべきであると提唱しました。InBody S10導入前からECW/TBWは加齢変化を鋭敏に捉えることができるのではないかと仮説を立ててはいましたが、EWGSOP2の提唱は私達の仮説を大きく後押ししてくれるものでした。既にECW/TBWの重要性を示した論文を2編発表しており¹⁾²⁾、いずれもECW/TBWと身体機能の関連性について報告しています。現在もデータ解析を行っている途中ですが、筋量だけでなく筋質も評価する重要性が示せるのではないかと感じています。」

▲ 地域在住高齢者において、ECW/ICW(ECW/TBW)と身体機能(握力・歩行速度)に関連があることを示唆¹⁾


今後について

日岡先生:
「高齢入院患者の日常生活能力について、筋量よりも筋質の指標(超音波で見る筋輝度、BIAで見る位相角など)が関連していることが明らかになってきています。しかし、私達が筋質指標として取り上げているECW/TBWに関しては、まだエビデンスが十分ではないと思います。今後は地域高齢者だけでなく高齢入院患者もInBody測定を行っていき、ECW/TBWとリハビリテーションでよく使用されるアウトカムとの関連を見ていきたいと考えています。EWGSOP2の提唱にもあるように、今後は筋質を評価する必要がありますが、その測定方法や基準となるカットオフ値は十分なコンセンサスが得られていません。ECW/TBWと他の評価指標を組み合わせることで、サルコペニアの有無を鋭敏に捉えられる筋質指標が何かを明らかにしていくことが重要だと考えています。

学生に対しては、普段からInBodyを含めた客観的な指標を用いる・評価することが大事だと話しています。そして、リハビリテーションの介入効果も客観的に効果判定を行って、介入が妥当かどうか判断していってほしいと思います。最終的には、理学療法学という学問を科学として捉え、益々発展させていくという視点を持ってほしいと思いながら指導しています。

そのためには、客観的に評価することが第一歩です。InBodyは、手軽に筋量や筋質を客観的に捉えることができる、非常に便利なツールの一つだと思います。他にも様々な指標を客観的に捉えるツールや評価方法があるので、それらを組み合わせて評価した上で、治療介入していける人材がこれからの理学療法に求められていると思います。」

同大学の鶯 春夫先生の記事はこちらよりご覧ください。”健康寿命を延ばす” ことをテーマに、地域活動・臨床指導・大学教育でInBodyを活用しています。

参考文献
1) Hioka A, Akazawa N, Okawa N, Nagahiro S. Increased total body extracellular-to-intracellular water ratio in community-dwelling elderly women is associated with decreased handgrip strength and gait speed. Nutrition. 2021 Jun;86:111175.
2) Hioka A, Akazawa N, Okawa N, Nagahiro S. Extracellular water-to-total body water ratio is an essential confounding factor in bioelectrical impedance analysis for sarcopenia diagnosis in women. Eur Geriatr Med. 2022 Aug;13(4):789-794.