猛暑下の運動と生体反応 Part2:予防策

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

前回のトピックでは主な熱中症の症状や危険性についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法についてご紹介します。


猛暑の中で安全に運動するためには


暑い時期だからといって、運動を控えた方が良いわけではありません。運動で発生する熱の影響を軽減して、熱中症にならないための予防策に取り組めば、夏でも外で運動を楽しむことができます。猛暑の中での運動を考えている場合は、次の内容を心掛けましょう。

➤自分の体調を考慮する
猛暑の中で運動をする際に、一番考慮しなければならないことは自分の体調です。今日の体調は大丈夫か? 暑さに弱い体質ではないか? 暑い環境下で運動することには慣れているのか? 熱中症の症状がもし現れても、対処することはできるのか? などを考えてみましょう。

➤適宜水分補給をする
最も代表的な熱中症予防対策は水分補給です。夏の運動は暑さと運動による多量の汗が要因で脱水状態になりやすく、体温調節機能に影響を及ぼすため、発汗量に見合った水分を補給する必要があります。適切な水分の補給量は、体重減少が体重の2%以内に収まることが目安となります¹⁾。つまり、運動の強度や気温だけでなく、 体格(体が大きい人は小さい人よりも補給量が多くなる)も考慮して水分補給を心掛けることが重要です。アメリカのスポーツ医学大学による運動時の水分補給ガイドラインは次のように定めています²⁾。

運動時の水分補給ガイドライン

運動前運動前は十分な食事及び水分(運動する4時間前辺りから約500ml程度)を摂取するようにし、前回の運動後から少なくとも8~12時間の回復時間を設けてください。
運動中喉の渇きに気づいたら水分摂取をするようにしてください。極端な暑さの中では、より喉が渇きやすくなります。しかし、水分のみを摂取し過ぎてしまうと、低ナトリウム血症または水中毒を発症するリスクが高まるため注意が必要です。長時間の運動をする場合は、6~8%の糖質を含む飲み物(スポーツドリンクなど)がお勧めです。
運動後運動後の体重が減少していた場合、約500~700ml/450gの水分を摂取してください。運動後の食事でも必ず水分補給をしてください。

運動時の水分補給は、カフェイン入りの飲み物は避けてください。運動前にカフェイン入りの飲み物または水を摂取させて運動前後に血液検査を実施した研究によると、カフェイン入りの飲み物を摂取した人は運動後に脱水症を悪化させ、心血管系への負担が大きくなることが分かっています³⁾。従って、運動時の水分補給は水またはスポーツドリンクなどを選択してください。
※脱水時の水分補給についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「脱水時に必要な飲み物は?」、水分摂取量についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「水は飲めば飲むほどいいのか?」もご覧ください。

➤体を冷やす

体温の過度な上昇を抑えることで、熱中症の予防・持久性運動能力や認知機能低下の抑制・多量の発汗による脱水予防ができます¹⁾。

冷却方法は体の内部または外部から冷やす方法があります。内部から冷やす方法は、冷たい飲料などを摂取することで皮膚や筋温を大きく低下させることなく核心温を下げることができます。一方、冷水・アイスパック・送風などを用いて皮膚などの外部から冷やす方法は、筋肉の熱を直接冷やしたり、発汗による熱を発散させたりする効果があります。外部から冷やす場合、首筋やわきの下など、皮膚表面付近で太い血管が通っている部位を冷やすとより早く体温を下げることができます。首の後ろを冷やしてしまうと、視床下部が冷やされ体温が下がったと勘違いしてしまうので、首の横側を冷やすようにしましょう。

運動前・中・後、積極的に冷却することで得られるメリットは熱中症予防効果だけではありません。運動前に体温を低下させると、運動中の体温の許容量(貯熱量)を大きくして運動時間を延ばすことができます。運動・休憩中の冷却は体温や筋温が過度に上昇することを防ぎ、疲労感や暑さなどの主観的な感覚を和らげることができます。そして、運動後の冷却は上昇した体温や筋温を通常に戻して、疲労を軽減したり、筋損傷や炎症反応を抑えたりすることができます。また、体温が上昇した状態が続くと、余分なエネルギーを消耗してしまうため、冷却することでリカバリー効率も向上します。

体を冷却することは熱中症予防に繋がりますが、体温や筋温を適切な状態に保つためには過度に冷却しないことも大切です。例えば、外部から冷やすときはタオルを冷水に浸して軽くしぼり、冷たさを感じなくなるまで当て、再度タオルを冷水に浸して当てるということを2~3回繰り返す程度が適切です。汗を流している時には、風を当てるだけでも冷却効果は期待できます。

➤環境に体を慣れさせる
ほとんどの人は体が暑さに順応するまで約1〜2週間(毎日90分程度)かかります⁴⁾。但し、外部環境によるストレスに体を慣れさせることが大事なので、その環境にただ体を置くのではなく、ウォーキングなどの軽い運動をしたり、室内の温度を外の温度とあまり変わらないように、若しくは少しだけ低くなるようにしてリラックスした状態で過ごしたりするなど、ストレス環境下でもある程度の身体活動や日常活動を行うことが理想です。

➤運動しやすい時間と服装を選択する

1日の気温は朝5~6時頃が最も低く、徐々に上昇し、午後2~3時頃ピークに達します。従って、外で運動するときはこの暑い時間帯を避けるようにしましょう。また、服の素材や色も体温調節に重要です。運動時はポリエステルなど通気性のある生地で作られた明るめの服を着用しましょう。暗めよりも明るめの色の方が太陽光を吸収しにくいので、太陽光の熱を感じにくくなります。


終わりに

人間は周りの環境変化に合わせて適応できますが、全員が同じように暑さに耐えられるわけではありません。体調やその日の気温・湿度などを考慮して運動の可否や内容を検討してください。また、外ではなく冷房の効いた室内で行う、時間帯を変更・短縮する、激しい運動は控えるなど、暑さの中で少しでも快適に運動ができるような工夫をすることで、暑い季節でも運動を楽しむことができます。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

参考文献
1. 「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」 公益財団法人日本スポーツ協会
2. Brad A. Roy, Ph.D., Exercise and Fluid Replacement: Brought to you by the American College of Sports Medicine. FACSM, FACHE, ACSM’s Health & Fitness Journal: July/August 2013 Volume 17 Issue 4 p3
3. Chapman, Christopher L.; Johnson, Blair D. et al., Consumption of a Caffeinated Soft Drink during Exercise in the Heat Worsens Dehydration. Medicine & Science in Sports & Exercise: May 2018 Volume 50 Issue 5S p386
4. Michael N. Sawka, Julien D. Périard, Sébastien Racinais. Heat acclimatization to improve athletic performance in warm-hot environments. Sports Science Exchange (2015) Vol.28, No.153, 1-6