亀田IVFクリニック幕張
-不妊治療の可能性を広げるInBody-

✓InBodyを活用する目的
● 体成分の数値を不妊治療で活用するため
● 産婦人科や不妊治療における体成分との関連に関する研究を進めるため

✓InBody770導入の決め手
● 1回の測定から様々な体成分の情報を得ることができ、研究にも活用できる点
● 測定値が年齢や性別で補正されず、また医療機器であれば保険点数も申請できる点

✓得られた効果
● InBodyの結果を基に、不妊治療の一つの指標として活用できるようになった
● InBodyを測定した結果を見ることで、患者の健康意識が変わるきっかけとなった

機種モデル:InBody770

亀田IVFクリニック幕張は、不妊治療専門クリニックとして2016年5月に千葉県の海浜幕張駅のすぐ近くに開院しました。一般的な不妊治療に留まらず、妊娠前の健康管理を意味するプレコンセプションケアから体外受精などの高度な治療まで、妊娠に関する包括的な医療を提供しています。ホームページを見て来院される患者が多い中、約4割の患者が口コミで訪れているほどで、信望の厚さが伺えます。クリニック内は男性も来院しやすいように青を基調とした清潔感のある空間で、四季を感じられる飾りつけが季節ごとに施されています。

▲ 受付の様子

不妊治療は、妊娠を希望している方が妊娠できるように手助けする治療のことです。不妊の原因は男女関係なく様々で、それぞれが複雑に絡み合っているため、早めに医療機関で詳しく検査して不妊治療を開始することが望ましいとされています。治療は、一般不妊治療と呼ばれるタイミング法や人工授精以外にも、体外受精などの生殖補助医療まで幅広い選択肢があります。

プレコンセプションケアは、今後妊娠を希望する方が安全な妊娠・出産を行えるよう、事前に自身の身体の状態を把握し、管理することです。元々は2006年にアメリカの米国疾病管理予防センター(CDC)が提唱したもので、その後2012年に世界保健機関(WHO)が 「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」 と定義しています。その目的は、妊娠や出産に留まらず、若い世代の男女の健康増進、さらには産まれてくる子供達がより健康であることまでを見据えています。国内でもその必要性が注目され始めており、亀田IVFクリニック幕張では2022年8月からプレコンセプションケア外来を開始しています。

▲ 川井 清考先生

川井 清考先生は、旭川医科大学医学部卒業後に東京医科歯科大学医局に入局し、2010年からは亀田総合病院にて産婦人科医師として勤務されていました。その後2014年には生殖医療科部長・АRTセンター長、2019年には亀田IVFクリニック幕張の院長に着任し、多くの患者に対して、根拠に基づいた丁寧な医療を提供しています。

川井先生:
「不妊治療は上手くいかないことが多く、その時々でどうベストを尽くしていくかという考え方で患者様と向き合う治療です。そのため、たった1%や2%の違いにも敏感になるセンシティブな治療であり、何より患者様が納得できる医療を提供することが重要です。治療をロジカルに組み立てることで、たとえ結果が出なかったとしても ”私は今まで何をしていたんだろう。” と思わせることなく、自身で今までの治療を振り返り納得できる医療を提供すべきだと考えています。私自身、根拠を持って計画を立て、それに沿って進めていくことが好きな性格なので、不妊治療の進め方とマッチしていると思います。」

▲ 勝又 翔子先生

勝又 翔子先生は、日本大学医学部を卒業後、日本大学医学部附属板橋病院にて研修医として勤務されました。研修医として様々な診療科を経験する中で、産婦人科を専門とすることを決め、現在は亀田IVFクリニック幕張で研究を行いながら、生殖医療科医師として妊娠を希望する患者にプレコンセプションケアを行っています。

勝又先生:
「元々スポーツに関わりたいという目線で様々な診療科の研修を行いましたが、スポーツに関係すること以外の業務でも楽しさを見出したのは産婦人科でした。産婦人科の中でも、女性スポーツ医学という分野があることは大学の講義で知っていて、興味をもっていました。産婦人科領域の中で、他の分野も専門的に学びたいと考えるようになり、生殖・内分泌を専門とすることを選びました。この分野では、女性の周期的なホルモン分泌の変動などについて学べるため、興味がある女性アスリートに関する内分泌の知識も身に付けられると考えました。」


体重やBMIの中身を確認できるInBody

2022年にInBody770が導入されました。InBodyでは、筋肉量や体脂肪量などの見た目では分からない体成分を数値で見える化できます。また、結果用紙には多くの測定項目が提示されるため、1回の測定で様々な体成分の情報が得られます。今後InBodyを使った研究も考えている川井先生にとっては、この点も大きな魅力となりました。

▲ クリニック内に設置されたInBody770

川井先生:
「体重やBMIの管理が流産などのリスクを防ぐ上で重要だということはずっと言われていました。ただ、それだけでは体成分までは評価できないため、体成分の評価を構築していかなければならないと考えていました。スポーツ医学に興味を持っている勝又先生が入職されたこともあり、何か体成分のデータを取って研究をしたいという思いからInBodyの導入を決めました。また、測定値が年齢や性別などの統計データによって補正されていないことや、保険点数も申請できる医療機器という点でもInBodyを信頼しています。」

不妊治療においては、現在までで400名ほどに対して、体外受精開始時にInBody測定を行っています。

体外受精とは、排卵誘発剤により卵胞発育を促し、排卵直前に体内から卵子を取り出して体外で受精させ、培養することで発育させた受精卵を子宮へ移植する治療です。妊娠率は比較的高いですが、女性の年齢などによっても妊娠に至らない可能性はあり、また妊娠した後でも流産してしまう可能性があります。もちろん、BMIもリスク因子の一つです。肥満の女性では体外受精後の流産のリスクが高まるという報告があり¹⁾、流産のリスクが最も低い母体のBMIは22~25という報告もされています²⁾。こういった背景からも、治療開始前にInBody測定を行い、現状として体重やBMI、体脂肪量・率などを把握しておく必要があります。

川井先生:
「体重やBMIによって、排卵誘発剤の適切な投与量や効果、卵胞の育ち方も変わってきます。そのため、体外受精を始める前にInBody測定をして適切な注射量を決めたり、排卵障害が生じている方でBMIが極端に標準値から離れている方に対しては、標準値に近づけたりするようにアドバイスを行います。」

プレコンセプションケアは、2022年8月に開始して以来、男性141名 女性161名が検査をしています。女性は、子宮や卵巣の状態を確認する超音波検査や、卵巣の中に残存している卵子の数を調べるAMH検査、栄養状態や感染症まで、幅広く検査します。男性も精液検査や亜鉛濃度など、妊娠に影響を及ぼす項目を検査します。検査内容は診察しながら必要なものを選び、初診で検査を済ませ、結果は後日改めて来院した際に伝えています。プレコンセプションケアの検査項目の中に、InBody測定は必須で含まれ、受付後すぐに測定します。

勝又先生:
「患者様には、検査結果をまとめたプレコンセプションケア診断書という書類を基に現状をお伝えし、必要に応じてアドバイスを行います。InBodyの結果用紙はそのまま患者様にお渡ししますが、その中でもプレコンセプションケア診断書には体重・BMI・タンパク質・ミネラル・体脂肪量の評価を記載し、より安全な妊娠に向けて栄養面や運動面などの生活習慣に関してアドバイスしています。」

勝又先生:
「BMIが高い方の中でも、筋肉量が多い健康な方もいらっしゃるので、必ずBMIと体脂肪量は一緒に見るようにしています。また、BMIが極端に低い方では、妊娠の有無に関わらず骨密度が低下するリスクが非常に高まるため、希望された方は結果をお渡しする日に骨密度も測定し、現状とリスクをお伝えします。女性でBMIが低いと、ホルモンバランスが乱れて月経不順が生じ、女性ホルモンが不足することがあり、女性ホルモンの1つであるエストロゲンには、骨の生まれ変わりを緩やかにして骨が壊されすぎないようにする作用があるため、不足してしまうと骨量の減少を招きます。骨密度が低い状態では、無事妊娠できたとしても出産で力を入れたときや、赤ちゃんを抱いたときに骨折してしまうこともあります。また、痩せの方は早産や低出生体重児のリスクが高くなることも問題視されています。事前にこういったリスクをお伝えすることが、より安全な妊娠と出産を迎える上で必要だと思います。」

▲ InBody結果用紙内のBMIと体脂肪率から評価する「体型評価」


意識を変える、習慣づけるためのInBody測定

生活習慣の乱れによる肥満や痩せも、不妊に繋がります。生活習慣を見直し心身の健康を整えることも重要な不妊治療の一つですが、 これには患者自身が意識を変えて取り組みを継続することが必要です。InBodyは、見た目ではわからない体成分を数値で見える化でき、患者の意識を変えるきっかけとして役立っています。

▲ 診察の様子

川井先生:
「昔は肥満の方に対して、体重を適正にしてからでないと不妊治療は開始できないという考え方が主流でした。しかし現在は、現状の中でベストな治療法を提案し、共に取り組んでいくという考え方が海外中心に広まっています。当院にも肥満や痩せの方はご来院いただきますが、その点を強く指導するとかえって来院したくなくなってしまい、治療が続けられなくなることもあります。私たちはあくまでも、現状と、それによって生じるリスクについて根拠を持ってお伝えしますが、そこから実践するかどうかまでは踏み込めず、患者様次第になってしまいます。ですが、一般的な体重計ではなく、当院に来てInBodyを測定した結果を見ることで、患者様の健康意識が変わるきっかけとなります。健康的な生活をしていても、どうしても趣味嗜好の偏りによって体成分は変化しますので、InBodyを測定する習慣をつけることは大事だと思います。」

勝又先生:
「不妊治療に長年取り組んでいる方であっても、InBodyを測定してみるとタンパク質量やミネラル量が不足していたり、BMIが標準範囲から外れていたりすることもあります。特に女性は、やはり体重を意識しがちなので、体重やBMIが標準でも体脂肪量は非常に多い、隠れ肥満とも呼ばれる状態の方がよく見られます。また、近年痩せ志向が高まっている影響もあり、標準体重を下回っていることに喜んでしまう方もいらっしゃいます。肥満の方と比べて痩せの方で危機感が薄い傾向がありますが、実際にそのような方には、骨密度低下や早産・低出生体重児などの痩せによって生じるリスクをご説明しています。」

▲ 体重やBMIが標準範囲内でも、体脂肪量・率が多い隠れ肥満型の結果用紙


未知の分野を明らかにするために活用されるInBodyのデータ

現在、産婦人科や不妊治療における体成分との関連に関する研究はまだ数少ない現状です。川井先生と勝又先生は今後、InBody測定で得られたデータを用いた研究を進め、さらにクリニックでの治療にも研究で得られたデータを活かしていく予定です。

川井先生:
「個人的には、月経周期による体成分とホルモンの変動の関係に興味があります。今後は、日々蓄積されているInBodyの測定データを活用して研究を進めて論文化し、それを基にどのように医療介入ができるのかを考えていきたいです。この分野での体成分という観点は、まだまだ未知な部分が多く、可能性に満ちています。体成分との関係性がどんどん明らかになっていけば、アドバイスできることや、提供できる医療の幅もより広がるのではないでしょうか。」

勝又先生:
「産婦人科での検査は、内診など心身ともに負担になるものが多いのですが、InBodyは負担なく簡単に体成分を測定できます。もし、InBodyで測定した体成分と不妊のリスク因子や妊活との関連が示されれば、患者様の負担を最小限にして検査ができるのではないかとも考えています。」


妊娠を望む方が妊娠できるように

情報化社会では、スマートフォンなどでいつでも簡単に知りたい情報を入手できる便利さの裏に、正しい情報を見極める難しさも問題とされています。不妊かもしれないと不安になった方や、治療を検討している、もしくは既に始めている方が、正しい情報を得られるコンテンツとして、川井先生は公式ホームページ上でブログを執筆しています。今後も、必要な方に正確な情報が行き渡るような啓発活動を行っていく予定です。

▲ プレコンセプションケア診断書を基にした診察の様子

川井先生:
「今は簡単に、欲しい情報だけ手に入れられますが、それは根拠のない情報にも触れる機会が増えるということです。例えば、近隣に不妊治療を行う医療機関がない方や、気軽に来院できない方など、まずは情報だけ知りたいという方に対して、正しい情報を提示できるコンテンツとしてブログを書いています。また、医療従事者もこうした最新情報を把握し、常に成長していく必要があります。当院では月に1回定期的に勉強会を行い、データの開示や新しい知見の報告を行っています。正しい情報を医療従事者が把握し、それをしっかり発信していくことが重要だと思っています。」

不妊治療は2022年4月から保険適用となり、治療に対する世間的な知名度も徐々に高まっている一方で、プレコンセプションケアはその必要性に反してあまり知られていません。不妊治療へのハードルが少し下がったことで治療を始めやすくなったからこそ、プレコンセプションケアがより大切であると勝又先生は考えています。

勝又先生:
「現状として、不妊に関して情報収集はしていても、なかなか来院までに時間がかかってしまう方が多いです。プレコンセプションケアはまさにそういった方をターゲットにしていて、その時間を短縮できればより効率的に妊活を進められます。プレコンセプションケア外来で検査をしてそれが直接妊娠には繋がらなかったとしても、妊娠しにくいとに気づいてから検査して判明するのと、事前に現状を把握して改善に取り組むのとでは、スタートラインが異なります。晩婚化や少子化なども社会的な課題とされていますが、子供を産みたい方が希望通り妊娠できるよう、プレコンセプションケアをもっと広めていきたいと思っています。」

参考文献
1. Mauro Cozzolino et al. Female obesity increases the risk of miscarriage of euploid embryos. Fertility and Sterility,2021,115(6),1433-1434.
2. Kefu Tang et al. A non-linear dose-response relation of female body mass index and in vitro fertilization outcomes. J Assist Reprod Genet.2021,38(4),931-939.