健康増進に肉食は良くないのか?

ある人は、お肉を食べることは筋肉量の増加や維持に不可欠だと言います。一方で、お肉を食べることは健康に悪く体成分の改善を妨げる要因だと言う人もいます。今回のトピックではお肉を食べることが健康や体成分にどのような影響を与えるのか、また、タンパク質を摂取するにはどのような選択肢があるのかについてお話します。


肉食は健康を妨げるのか


ヨーロッパの成人37万人を対象に肉の総消費量が体重増加に影響を与えるかを調査した研究では、肉類の消費量を減らすことが体重減少に効果的であると結論付けました¹⁾。しかし、肉類の摂取が本当に体重増加の直接的要因であったのか、肉類の摂取量が増えたことで野菜類の摂取量が犠牲になっていたのではないかなど、疑問を抱く声も多いです。また、少ないカロリーで満腹感を得るにはタンパク質の摂取量を増やすべきという意見もあります。
※高タンパク質ダイエットについて詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「タンパク質を多く摂る食事は減量に効果的か?」もご覧ください。

しかし、疾患や体重増加の因子として分かっているのは加工肉などの加工食品であり、肉そのものではありません²⁾。肉類と言っても赤身肉・鶏肉・ソーセージなどその種類は様々です。そして種類によって脂質とタンパク質の含有量も変わります。肉類は除脂肪量を増加・維持するために必要なタンパク質を摂取できる主な食材です。もちろん、脂質が多いお肉は除脂肪量と体脂肪量の両方が増加して体重が増える可能性もありますが、脂質の少ない肉類は健康的に除脂肪量を増加・維持できる高品質なタンパク源です。また、肉類の摂取で体重が増加しても、除脂肪量(筋肉量)の増加によるものであれば健康面にとってプラスな変化と言えます。そのため、除脂肪量と体脂肪量それぞれの増減をモニタリングせず、肉類の摂取を片っ端から制限することは望ましくありません。因みに、主な肉類100g中に含まれるエネルギーや栄養素の含有量は下記の通りです。

お肉の種類エネルギー(kcal)タンパク質(g)脂質(g)炭水化物(g)
牛もも(焼き)30027.722.70.5
牛ヒレ(乳用肥育牛肉、焼き)23827.215.20.4
馬肉(赤身、生)10220.12.50.3
豚ロース(焼き)31026.722.70.3
豚ヒレ(焼き)20239.35.90.4
鶏むね(皮付き、焼き)21534.79.10.1
鶏ささみ(焼き)13231.71.40
鶏もも唐揚げ(皮付き)30724.218.113.3
ウィンナーソーセージ(豚、焼き)34513.031.82.4
ロースハム(豚)21118.614.52.0
生ハム(豚)24324.016.60.5

文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より抜粋

62もの研究を調査して作成されたレビュー論文³⁾では、心臓病と飽和脂肪酸が多いお肉の摂取が関連していること、非ベジタリアンに比べてベジタリアンの癌の発生率がより低い理由は、お肉を摂取しないことが要因である確証はないということ(野菜を多く摂取することが癌のリスクを下げる可能性もあり、お肉を食べることで癌が発生したということは分からない…? )、バランスの取れた食事と運動が健康の要因であり赤身肉の消費は要因にならない、などが報告されています。


肉食vsベジタリアンの筋肉量について


高齢男性のレジスタンストレーニングと体成分の変化を、肉食(雑食)とベジタリアンで比較した研究では、肉食の方がベジタリアンよりも除脂肪量・筋肉量の増加が大きく、レジスタンストレーニングと組み合わせるには肉食が効果的だと明らかにしました⁴⁾。

また、肉食(雑食)とベジタリアンの女性を対象にタンパク質摂取と筋肉量レベルを調査した研究では、ベジタリアンが植物性タンパク質のみで肉食と同じタンパク質量を摂取したものの、肉食に比べると筋肉量が低く、動物性タンパク質摂取量が筋肉量レベルの独立した因子となることを報告しています⁵⁾。

では、筋肉量を増やすためにはお肉を食べなければならないのでしょうか? ベジタリアンやお肉が苦手な人は筋肉の増加を諦めなければならないのでしょうか? 確かに、筋肉の維持・成長には質の高いアミノ酸摂取が必要不可欠です。ベジタリアンはタンパク質を摂取できる方法が限られている分、タンパク質摂取量を十分に確保するのが難しいですが、食事のバリエーションやサプリメントの活用等によってこの課題を克服できます。


タンパク質の摂取方法

前項からも分かるように、健康のためにはタンパク質を適切量摂取する必要があります。自分の適量はどれくらいなのか、動物性タンパク質と植物性タンパク質には違いがあるのか、ヴィーガンやベジタリアンの場合はどのようにすればタンパク質を摂取できるのか、ここではこれらの疑問にお答えしていきます。

➤タンパク質摂取量の目安
タンパク質摂取の目安量は、活動レベルによっても変わってきます。例えば、アスリートや傷害から回復中の人の場合、タンパク質の推奨摂取量(RDA: recommended dietary allowance)は体重1kg当たり1.2~1.8gとされています⁶⁾。

筋力・パワー系アスリートを対象にタンパク質摂取量と筋肉の発達について調べた研究では、タンパク質の摂取量がRDA以下(1.0-1.4g/kg)・RDAレベル(1.6-1.8g/kg)・RDA以上(>2.0g/kg)の3つのグループで筋力や体成分の違いを調べたところ、筋力・パワー系アスリートで好ましい変化を得るにはRDAレベルの1.8g/kgで十分であると結論づけました⁷⁾。また、高齢者を対象に食事と身体活動を調査した研究では、0.8g/kgより多くのタンパク質を摂取している人の除脂肪量とタンパク質摂取量は正の相関があることを示しています⁸⁾。

厚生労働省が告示する「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、タンパク質の目標量が身体活動レベルと年齢区分で次のように決められています。
※身体活動レベルは、低い、ふつう、高いの三つのレベルとして、それぞれⅠ、Ⅱ、Ⅲで示した。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」1-2 たんぱく質 p123 より抜粋

必要なタンパク質量は年齢や性別だけでなく、生活スタイルや妊娠・疾患の有無によっても異なります。ボディービルダーのようにプロテインをガブガブ飲む必要はありませんが、筋肉維持のためには0.8~1.2g/kg/日を目安に摂取を心掛けましょう。

➤動物性タンパク質と植物性タンパク質
動物性タンパク質は生物学的利用能が高く、植物性タンパク質よりも体内への吸収率が高いと言われています(97% vs 84%)。動物性タンパク質には必須アミノ酸がバランス良く含まれており、理想とされているアミノ酸組成に近いので、効率的に吸収されて除脂肪量に利用される燃料も多くなるという理論です。しかし、動物性タンパク質(ホエイプロテイン)と植物性タンパク質(ライスプロテイン)を比較した研究では、ライスプロテインを摂取した被験者も、ホエイプロテインを摂取した被験者と同様に体成分に良い変化が見られ、その差はないことが報告されています⁹⁾。

動物性タンパク質と植物性タンパク質の違いや効果についてまだはっきりとしていない部分もありますが、植物性タンパク質は必須アミノ酸が不足しているものが多いことから、お米・食パン・大豆製品など、異なる種類の植物性タンパク質食品を組み合わせて摂取することが重要です。
※動物性タンパク質と植物性タンパク質の代表的な食品は、InBodyトピック「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-」で紹介していますのでそちらもご覧ください。

➤ヴィーガンやベジタリアンへおすすめのタンパク質源
魚介類や肉類を食べないヴィーガンやベジタリアンの人も、体を作るための良質なタンパク質を摂取する必要があります。ベジタリアンの方は卵や乳製品からタンパク質を摂取できますが、ヴィーガンの人はそれらからタンパク質を摂取することもできません。ではどういった食品でタンパク質を摂取すれば良いのでしょうか?

① 穀物
ご飯やパンなどの穀物由来の食品は糖質(炭水化物)のイメージがありますが、タンパク質も含まれています。ご飯はリジン以外の必須アミノ酸が全て含まれており、可食部100gあたりタンパク質が6.1g(精白米)含まれています。海外では認知度が高いキヌアもタンパク質・ミネラル・食物繊維が豊富なのでお勧めです。可食部100gあたりでタンパク質が13.4g(玄穀)含まれており、タンパク質含有量がご飯の2倍以上と、穀物の中では群を抜いて多いです。

② 豆類
豆類は野菜と比較するとタンパク質含有量やアミノ酸スコア(9種類の必須アミノ酸がどれだけ含まれているかを数値で表したもの)が圧倒的に高く、中でも大豆がお勧めです。大豆は ”畑の肉” と言われるだけあって、タンパク質量やアミノ酸スコアは肉類とほぼ同じです。可食部100gあたり油揚げは24.6g(焼き)、挽きわり納豆は16.6g、木綿豆腐は7.0gのタンパク質が含まれています。大豆の他にはグリンピースやひよこ豆もおすすめです。

③ 野菜
可食部100gあたりにドライトマトは14.2g、ブロッコリー(焼き)は9.9g、にんにく(油いため)は8.2g、ほうれんそう(油いため)は3.8gのタンパク質が含まれています。トレーニングやダイエットをする人が鶏むね肉と一緒に食べることが多いブロッコリーは、鶏肉の単なるお供ではなく、タンパク質含有量が高い点から付け合せとして選ばれているのでしょう。野菜は茹でて食べるよりも焼いて食べる方がタンパク質含有量が多くなるので、調理法にも意識してタンパク質を効率良く取り入れましょう。

④ ナッツ類
植物性の食材の中では、ナッツ類も必須アミノ酸が豊富な高タンパク質食材として知られています。可食部100gあたりに落花生は26.5g、アーモンド(煎り)は20.3g、ごま(煎り)は20.3g、カシューナッツ(フライ)は19.8gものタンパク質が含まれています。


終わりに

筋肉量の維持・増加による健康増進を目指すには、適量のタンパク質を摂取することが必要です。また、必須アミノ酸が多く含まれるタンパク質源としてお肉を摂取することは、決して健康に悪いことではありません。お肉を食べることが体の健康を損なう要因ではなく、野菜や果物の摂取量が足りないことが糖尿病や心臓病など、病気にかかりやすくする原因かもしれません。健康のためにステーキを食べることを諦めるのではなく、野菜もたくさん食べるよう心掛けましょう。また、ヴィーガンやベジタリアンの人はタンパク質が豊富な野菜を食事に多く取り入れ、良い体成分を維持したり、筋肉量を増やすなどの改善に繋がるようにしましょう。

参考文献
1. Anne-Claire Vergnaud et al., Meat consumption and prospective weight change in participants of the EPIC-PANACEA study. The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 92, Issue 2, August 2010, Pages 398–407
2. Arne Astrup et al., Meat intake’s influence on body fatness cannot be assessed without measurement of body fat. The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 92, Issue 5, November 2010, Pages 1274–1275
3. F. B. Luciano, The impacts of lean red meat consumption on human health: a review. CyTA-Journal of Food, Volume 7, Issue 2, October 2010, Pages 143-151
4. Wayne W Campbell et al., Effects of an omnivorous diet compared with a lactoovovegetarian diet on resistance-training-induced changes in body composition and skeletal muscle in older men, The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 70, Issue 6, December 1999, Pages 1032–1039
5. Mylène Aubertin-Leheudre, Herman Adlercreutz, Relationship between animal protein intake and muscle mass index in healthy women, Br J Nutr, 2009 Dec;102(12):1803-10
6. Debra Wein, Stacie Sielof, 筋傷害からの回復に有効な栄養素, C NSCA JAPAN Volume 18, Number 5, pages 59-60
7. Jay R Hoffman et al., Effect of Protein Intake on Strength, Body Composition and Endocrine Changes in Strength/Power Athletes, J Int Soc Sports Nutr. 2006; 3(2): 12–18
8. Olof G Geirsdottir et al., Dietary protein intake is associated with lean body mass in community-dwelling older adults, Nutr Res, 2013 Aug;33(8):608-12
9. Jordan M Joy et al., The effects of 8 weeks of whey or rice protein supplementation on body composition and exercise performance, Nutrition Journal volume 12, Article number: 86 (2013)
10.「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 文部科学省